二十歳のころ 第二十一章

ブルームはダーウィンまでの旅の中間地点であった。一週間くらいでブルームに着く予定が大幅にずれ込み、旅は四週間目に突入していた。旅の計画を立てていないとはいえ、もう四週間も月日が経ってしまった。このような長期にわたり旅をした経験は僕にとって初めての事である。日本にいた当時は考えられないことである。旅は面白い。がそれゆえ時間に対する怖さが僕にはあった。長距離バスの旅だ。考える時間だけはたくさんある。
夕方、バスはブルームに到着した。僕はいつものようにバックパッカーズで宿を取る。ブルームで宿を探すのに苦労はしない。小さい町にそういくつものバックパッカーズがあるわけではない。僕らのような貧乏旅行者に選択肢などほとんどないのだ。
宿泊したバックパッカーズには何人かの顔見知りの日本人が滞在していた。僕は旅に慣れてきたせいか自然に挨拶をし、現地の情報を仕入れる。ブルームにはケーブルビーチがあり、日本人墓地があるくらいで観光するものはほとんどないという。
しかしながらブルームは西オーストラリアでは比較的大きい町でスーパーマーケットもあればビーチもある。南国特有の異国情緒も漂っている。宿泊代も大都市と比べると安い。となると移動に疲れた旅行者にとってブルームは長期間滞在するには居心地のいい場所となる。
僕は西オーストラリアをゆっくり旅してきたと考えていた。最初それは僕だけの特別な旅だからと僕は思っていた。しかし旅を続けるうちにその考えは間違いだと気付かされた。ダーウィンまで旅する行程で何度も行く先々で顔見知りのバックパッカーと出会ったからである。多くのバックパッカーも僕と同じように西オーストラリアをゆっくりと旅をしていた。
僕はラウンジでパンフレットを見ながら何をするわけでもなく寛いでいる。しばらくすると日本人のバックパッカーが声をかけてきた。
「今夜、ブルームで移動遊園地が催されているんだけど良かったら一緒に行かない?」
「そうなの?面白そうだね。行く。行く。」
ラウンジで何をするというわけでもなく寛ぐ。挨拶さえしておけば誰かしら暇そうな自分に声をかけてくれる。僕は同じ旅行者の親切な申し出を期待し、待ち、受け入れる。そうすると旅は自然に面白い方向に展開されていく。これが僕の西海岸の旅の特徴であった。
その晩日本人のバックパッカーが五六人集まり、みんなで移動遊園地に行った。夜ともなると一人で夜道を出歩くのは危険である。だから僕らはいつもまとまって集団行動をしていた。
僕は移動遊園地を一通りぐるりと周った。
遊園地の乗り物は僕ら若者が楽しむ乗り物というよりは子供達用の乗り物であった。どれも小ぶりである。僕が目を引いたのはコインゲームであった。日本のゲームセンターに置かれているコインゲームである。コインは実際の二十セント硬貨が使われている。つまり小銭を増やせるチャンスがあるということだ。コインを落とす。上手いポジションにコインが転がる。落としたコインがコインを押し出す。そうするとポケットにコイン数枚が落ちてくる。少額だがお金が増えるのである。僕は順調に二十セント硬貨を増やしていった。
しばらくすると僕の周りにギャラリーが増えていった。オーストラリア人の白人の子供。アボリジニの子供。皆僕のプレイを見ていた。見るだけでは飽きたらなく僕にお金をせびってくる子どももいる。一緒に来た日本人の女の子も僕の様子をうかがって楽しんでいる。頃合いだった。僕は三ドルくらい儲かったところで引き上げた。
バックパッカーズの帰り道、日本人の女の子が話しかけてくる。
「ヒロ。儲かったね。楽しかったね。」
僕はにんまりと笑顔を作った。

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