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「再利用可能」 vs 「使い捨て」どちらがサステナブル?

Team Consulting社のAlastair Willoughby氏(Head of Mechanical Engineering)と Prem-Sagar Tank氏(Consultant Mechanical Engineer)が、再利用可能 vs 使い捨てインジェクターのサステナビリティやコスト観点でのトレードオフを比較調査した結果を発表します。


「コストとサステナビリティの両方が最適化された再利用可能なプラットフォームデバイスを作成する」という課題は、「特定の目的を念頭に置いた使い捨てデバイスを開発する」ことよりもはるかに困難です。


オートインジェクターの要件がますます多様化し、製薬会社がコスト削減とサステナビリティの向上を実現しながら、より迅速な市場投入ルートを模索し続ける中、再利用可能な要素を備えたデバイスへの需要傾向が高まっています。
これらのデバイスは、プレフィルドシリンジ(PFS)のようなシンプルなものから、一次容器と注射針の安全性や皮膚感知などの追加機能を組み込んだより複雑なアセンブリまで、使い捨てデバイス要件を内包したデバイスになります。

再利用可能なデバイスのサプライヤーは他の投与方法、特に使い捨てオートインジェクターに比べて利点があると主張しており、以下が削減可能である点などを挙げています:

  • 注射あたりの二酸化炭素排出量

  • 廃棄物とプラスチック

  • 製造拠点と関連コスト

  • 輸送フットプリントと関連コスト

  • コールドチェーンの要件

  • 市場投入までの時間

上記利点はもちろん紛れもない真実であるように思いますが、比較検討していく際には公平性が重要です。使い捨てのオートインジェクターは、頻度の高い慢性治療には最適なソリューションではないかもしれませんが、投薬が不規則な場合や、治療過程を通じて投薬パターンに変化が必要な場合にはより適していると言えます。
このように、使い捨てのデバイスと再利用可能なデバイスの利点を評価する際には、これらすべての要素を考慮する必要があります。

考慮すべきもう1 つの重要な要素は、もちろんコストです。
もう一度書きますが、「コストと持続可能性の両方が最適化された再利用可能なプラットフォームデバイスを作成する」という至上命題は、「特定の目的を念頭に置いた使い捨てデバイスを開発する」よりもはるかに困難なものなのです。

再利用デバイスのいわゆる"スイートスポット"はどこに存在するのか?

再利用性の"スイートスポット"は、使用状況に左右されることがよくあります。
使い捨てのオートインジェクターを基準として比較すると、再利用可能なデバイスはコストと持続可能性の点で損益分岐点が異なります。
たとえば、12か月の使用サイクルで毎日使用するデバイスと、3か月間毎週使用するデバイスでは損益分岐点が異なることは明白です。

この損益分岐点をよりよく理解するために、デバイスサプライヤーは患者の治療サイクル全体を理解し、そのサイクルを通じて再利用可能な製品の使用が現実的に継続されるかどうかを見極める必要があります。
慢性的な使用状況では予測がつきますが、患者が治療中に投薬量や投与経路を変更する必要がある場合、デバイス寿命を全うできない可能性があります。つまりその結果、デバイスの再利用性に関して主張されている利点が実現できない可能性があるのです。

再利用によって長期的に二酸化炭素排出量やコストが削減されるかどうかを評価する際、デバイスメーカーはさまざまなシナリオの二酸化炭素コストも理解する必要があります。一般的に、再利用可能なシステムの全体的な持続可能性は、使い捨て要素と再利用可能な要素の複雑さのバランス、およびその寿命中の使用回数によって決まります。この際、以下ツールが再利用の"スイート スポット"がどこにあるかを特定するのに有用になります。

持続可能性とコスト分析

デバイスの持続可能性を理解するための効果的なツールは、製品の寿命全体にわたるカーボンフットプリントを決定するために使用されるライフサイクル分析ツール (LCA) です。

LCAの実際の動作を説明するために、次の質問に基づいて分析を実施しました。

  • 再利用可能な要素に複雑さを追加すると持続可能性にどのような影響があるか?

  • これを使い捨てのオートインジェクターと比較するとどうか?

目的は、複数の使い捨てデバイスを製造する場合と比較して、どのシナリオが最も二酸化炭素排出量の削減につながるかを特定することでした。SimaPro上に構築されたLCAモデリング ツールを使用して、以下4つの異なるシステムの二酸化炭素排出量を比較する分析を行いました。

  • シンプルな使い捨てオートインジェクター

  • 完全に機械的(電気搭載なし)で再利用可能なデバイスで、スタンドアロンのPFS針安全システムベースの使い捨てオートインジェクター

  • より複雑な電気機械システムを搭載した再利用可能なデバイスで、PFSをカセット形式で保持する接続機能を備えたオートインジェクター

  • プランジャーロッド付きのPFS。これは、使い捨てオートインジェクターと併せて、両方の使い捨て要素の下限を表します。

これらシステムが図1に示されており、使い捨て要素と再利用可能な要素、およびこれらのカーボンフットプリントの構成を示しています。

図 1: 3 つのインジェクター システムの LCA 結果と、1つの下限値の比較。

公平な比較を行うために、すべての製品は標準的な化石由来のプラスチックを使用し、東アジアで製造され、ヨーロッパに輸送されるという標準的なルートで製造され、輸送されたと仮定しました。
LCAは一般的に、このようないくつかの合理的な仮定に基づいていますが、これらのパラメーターの決定は結果に大きく影響する可能性があります。そのため、仮定に関する感度分析を含め、開発プロセス全体を通じて実施および改良する必要があることに注意してください。
これにより、設計要素、製造場所、輸送方法などの選択によって、カーボンフットプリントをどれだけ簡単に削減できるかをよりよく理解できます。

これらの数字だけ見ると、使い捨てデバイスが明らかに好まれていることを示しているように思われますが、結論を出す前に「機能単位」を考慮することが重要です。「機能単位」とは、特定の使用シナリオを効果的に説明するLCA用語です。
たとえばこの文脈では、処方された治療全体を通じて単一の再利用可能な要素と複数の使い捨て要素を組み合わせるなど、平均的な患者に意図した治療を行うために必要なデバイスの組み合わせの数を説明する場合があります。

再利用可能と使い捨て – どちらが”より”サステナブルか?

この LCA の結果をよりよく理解するには、デバイスの使用やパッケージングなど、調査されたさまざまな領域の影響を考慮することも重要です。
図2に示す結果は、最大120回の使用における累積的なカーボンフットプリントを示しています。

図 2: 120 回分を超える注射システムのカーボン フットプリント。

使用の影響
使用の影響を考慮した評価に基づくと、長期的には、複雑な再利用可能なデバイスと単純な再利用可能なデバイスの両方が、使い捨てのオートインジェクターよりも好ましいと言えます。
ただし、患者がデバイスを限られた回数 (< 20) のみ使用する場合は、単純な再利用可能なデバイス、またはさらに少ない量の場合は使い捨てのオートインジェクターを使用すると、複雑な再利用可能なデバイスと比較して、二酸化炭素排出量が少なくなる可能性があると言えます。
使い捨て要素の正確な実施形態は、これが最終的に二酸化炭素排出量の主な要因となるため、長期的には大きな影響を及ぼします。

パッケージの影響
多くの場合、製剤の効能を維持し保存期間を延ばすために、製剤は冷蔵環境で保管する必要があります。コールドチェーンの冷蔵は、冷蔵なしの保管および輸送よりも多くのエネルギーを消費します。そしてパッケージが大きいほど、占有するスペースが大きくなるため、一定のエネルギー使用量で一定の容積内に保持されるデバイスの数が減ると、製品の二酸化炭素排出量は増加します。

使い捨て要素がコールドチェーン輸送に与える影響は、この調査で取り上げた分析の範囲外です。ただし、使い捨てオートインジェクターと再利用可能なオートインジェクターを比較すると、パッケージ化されたデバイスの容積と質量はどちらも 50% 程度削減できると推定されます。このような変更を適用することで、一定の輸送量または一定の質量でデバイスの数を大幅に増やすことができ、二酸化炭素排出量の削減につながります。


「包装ソリューションに低炭素素材を使用」し、かつ「梱包密度を最大化するためにコンパクト性を確保すること」が、二酸化炭素排出量削減の潜在的なメリットを十分に享受するための鍵です。


さらに、コールドチェーン輸送全体の効率性、特に輸送される材料や機器が少ないチェーン後期の段階を考慮し、このような要素を LCA に組み込む必要があることも重要です。このような状況では、質量削減はプラスの影響がありますが、機器 1 台あたりのオーバーヘッドは依然として大きくなります。
パッケージ に低炭素材料を使用し、かつ梱包密度を最大化するためにコンパクトに仕上げることが、カーボンフットプリント削減の潜在的なメリットを十分に享受するための鍵となります。

そのほかのコスト要因

持続可能性を考慮することは重要ですが、企業はデバイスのコストと患者への供給にかかる継続的なコストも考慮する必要があります。LCAと同様の仮定を使用して、図3に示すように様々な損益分岐点を示す累積コストモデルを作成できます。
3つのインジェクターをPFS のベースライン コストと比較すると、商品のコストと充填済み容器の取り扱いコストの組み合わせにより、全体のコストの大部分がPFS によって左右されることが明らかになりました。

図 3: 120 回分を超える注射システムのコスト。

LCAにて、カーボンフットプリントの一部は、一次容器の製造、充填、取り扱いによってもたらされていることも示されました。すべての計算と同様に、これらのステップを含める (または除外する) と、分析から得られる結論に大きな影響が出る可能性があります。
使い捨て製品は1 回限りの使用であるため、コストや炭素の影響を大幅に削減するには、これら上記の要因を最小限に抑える必要があります。これが真に持続可能な製品を実現する最善の方法であり、低コストで環境への影響が少ない一次容器は、長期的に大きなメリットをもたらす可能性があります。


開発とユーザー課題の両方を含め、製品の持続可能性に影響を与える要因の存在


持続可能性に影響を与えるデバイス要因

再利用可能なプラットフォームを開発する際の目標は、多くの場合、できるだけシンプルなデバイスを作成しながら、幅広い機能余地を持たせることです。ただし、実際には、これはコスト面で競争力がないだけでなく、二酸化炭素排出量も増加する過剰設計の製品につながる可能性があります。

デバイスメーカーにとっての課題は、ユーザーのニーズを満たしながら、可能な限り持続可能な製品をどのように作るかということです。

開発とユーザーの課題の両方を含め、製品の持続可能性に影響を与える要因はいくつか存在します。以下はその一部の例です:

  • 大容量で高粘度の薬剤の投与
    この要件により、必要な投与力が増大します。つまり、デバイスはより高い力を提供しながらもそれに耐える必要があり、材料とメカニズムの複雑さが増す可能性があります。

  • 再利用可能なデバイスの信頼性の仕様
    再利用可能なデバイスの場合、複数の使用サイクルに対応できるように適切に設計されている必要があります。ただし相反してはいますが、同時に、過剰に設計されていないことも確認することが重要です。1つの方法としては、寿命仕様と、高度なコンディショニングによって、長期使用条件を模倣することです。さらに、ユーザーインタラクションの多くのサイクルと潜在的な誤用も考慮する必要があります。つまり長期に渡ってユーザーが適切にガイドされ、コンポーネントが十分に堅牢であることを確認する必要があります。

  • 寿命を考慮した設計
    再利用可能な部品と使い捨て部品の両方がどのように処分されるかを考えることも重要です。それぞれにチャンスと課題があります。
    再利用可能な部材に関連するフットプリントが大きいということは、汚染されていないと仮定すると、回収スキームによって材料を再利用して新しい命を与えられる可能性が高くなります。
    使い捨てのものは、複数回使用すると炭素が多くなる場合があります。汚染された鋭利物の取り扱いには課題がありますが、回収スキームに新しい廃棄物ストリームを採用するなど、処分をより持続可能にするための措置を講じることができます。

  • シンプルで明確なユーザー インタラクションの確保
    既に業界のトレンドになっている2ステップオートインジェクターは、ある程度成熟しており、すでに高性能のものが多いです。つまり、同様のシンプルさを備えた再利用可能なデバイスをイチから作成するのは困難です。強いて言えば、初期段階からユーザーインタラクションと適切な設計のヒントを考慮することで、最終製品に対するフラストレーションや誤用の可能性を減らすことができると言えるでしょう。

  • 適切な機能セット
    再利用可能な要素があると、機能過剰につながる可能性があり、そのたびに少しずつ機能が追加されます。例えば画面やIoT要素を追加すると、一部のユーザー層にはメリットがあるかもしれませんが、製品のコストと持続可能性モデルも大幅に変わる可能性があります。

デバイスの持続可能性を高める

これら要因に対処するために、メーカーが実行できる手順はいくつかあります。
まずは市場を理解し、開発プロセス全体を通じてコストと持続可能性の指標に関して市場のトレードオフが考慮されるようにすることが有用です。たとえば、慢性療法を受けている患者は再利用可能なデバイスを好むかもしれませんが、時々治療を受ける患者は使い捨てデバイスを受け入れるかもしれません。

次に成功する製品に必要な要件と「ストレッチ ゴール」を明確にすることが重要です。これらの追加目標がベースラインコストと持続可能性の指標に与える影響を考慮する必要があります。たとえば、より広範囲の容量と粘度を提供する必要があると、コストと複雑さが増す可能性があることを考慮する等です。

開発段階では、要素を交換して機能を増減できるモジュール式製品を製作すると便利です。たとえば、低力または高力の両方のスプリングで動作するようなデバイスを設計するなどです。そうすることで、より安価で効率的な開発および将来的な生産が可能になり、より持続可能な製品の実現に一歩近づきます。

結論

再利用可能な要素は、使い捨てのオートインジェクターシステムと比較して、頻繁に投与される薬剤の二酸化炭素排出量を削減するのに役立ちます。ただし、これは必ずしもすべての使用シナリオに当てはまるわけではなく、特に投与期間が短い場合はそうです。
デバイスメーカーは、幅広いユーザーと製品のニーズを満たすことと適切なコストで持続可能なデバイスを提供することの影響を考慮する必要があると言えるでしょう。


本コンテンツは、日本オフィシャルパートナーであるzenius株式会社がFrederick Furness Publishing Ltd. が所有・運営しているマガジン『ONdrugDelivery』から許可を得て翻訳・転載したものです。

引用元:Willoughby A, Tank P-S, “Reusable Versus Single-Use Devices: Trade-offs in Improving Sustainability”. ONdrugDelivery, Issue 159 (Apr/May 2024), pp 24–27


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