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次世代の原子力に活路はあるのか?

はじめに

 今回はエネルギーの話題第三弾として、原子力発電について考察する。筆者はこれまで、太陽光メガソーラーの問題点と再エネ賦課金の廃止または縮小、次世代火力発電の紹介と推進を提言してきた。

 まず代表的電源の太陽光、火力、原子力発電における役割を見て行くと、太陽光発電は天候に依存し不安定だが火力発電がその調整役を果たす。しかし火力発電はCO2を排出する。原子力発電は安定したベースロード電源として重要ですが、福島第一発電所事故以降、再稼働している原発は全体の1/3にとどまっている。CO2排出ゼロの安定した電源として原子力の活用は必須であり、次世代の原子力発電を学び、今後の活用方法を考えていく必要があると考える。

電力需給のイメージ (東芝より)

1. 革新軽水炉

 革新軽水炉は、既存の軽水炉技術を基に、福島第一発電所事故の教訓から自然災害やテロなどへの対策を強化した原子炉で、電源喪失時にも1週間程度冷却を続け、炉心溶融が起こっても放射能物質を封じ込める安全対策を施している。
 さらに、ベースライン電源としての役割だけでなく、出力調整機能により火力発電の調整やカーボンフリー水素の製造も可能である。
 既存技術の応用で実用化に近く、老朽化した原子炉の代替に最適だが、安全策を講じた分、建設コストが高く、耐用年数を延長して運用した方が初期・発電コストが抑えられるため、採用が進まないという課題がある。

革新軽水炉の概要 (三菱重工より)

 東京新聞によれば、候補は14カ所あるが建設費膨大で代替は進まないだろうとされていたが、2024年1月30日 日本経済新聞によると九州電力玄海原発1・2号機において導入を検討している。 

日本では三菱重工の他、東芝と日立GEがこの方式を開発している。

2. 高速炉 (FR/FBR)

 高速炉は、既存の原子力発電所で利用できないウラン238をプルトニウム239に変換して燃料とする発電システムで、冷却にはナトリウムを使用する。
 これにより、ウラン資源の有効利用や高レベル放射性廃棄物の削減が期待され、放射能レベルを8000年から300年に短縮できる可能性がある。
 しかし、1940年代から各国で開発が進められ次世代原子炉の本命とされていたが、炉心材の耐久性や冷却材の安全性、プルトニウムの取扱いの難しさなど、技術的課題が多く実現に至っていない。

ナトリウム冷却タンク型高速炉 (三菱重工)
高レベル放射性廃棄物の 減容化/有害度低減効果
※1 天然ウランと同水準の放射能レベルまで低減する年数
三菱重工より

 日本では、実験炉「常陽」や原型炉「もんじゅ」が稼働したが、もんじゅはナトリウム漏れ事故で廃炉となり、現在、三菱重工が2040年代の運転開始を目指して実証炉の開発を進めている。

 一方、アメリカではビル・ゲイツのTerraPower社が次世代原子炉「Natrium」を2028年稼働目標に6月10日から始まり、これに三菱重工など日本の4団体が技術協力している。

3. 高温ガス炉

 高温ガス炉は、炉材は耐熱性が高い黒鉛を中心としたセラミック材料で構成され、ヘリウムガスを冷却材とする原子炉です。高温ガス炉は約1000℃の熱(軽水炉発電は300℃程度)を取り出せることから、発電以外にカーボンフリー水素製造、海水淡水化、地域や化学工業への熱供給など様々な分野での熱利用も可能で<
この発電の熱利用は80%に達する。
 将来ここで造られた水素供給網ができることにより、水素専焼発電、製鐵時のCO2排出原因のコークス還元を水素に置き換える水素還元製鉄や燃料電池、水素エンジン車など多岐に利用可能で一層のCO2排出量削減が期待できる。

高温ガス炉プラントのシステム構成例

 高温ガス炉の燃料は耐熱性に優れたセラミック材料で多重に被覆されており、1600℃の高温でも破損しない。黒鉛を用いた炉内構造物は高い熱伝導度と大きな熱容量を持ち、事故時にも炉心温度の変化が緩慢である。万一の事故でも炉心の熱は自然に除去され、燃料の破損は防がれ、高温ガス炉は配管破損や電源喪失などで冷却が失われた場合でも、炉心溶融や多量の放射性物質放出が起きない設計が可能である。

優れた安全性

  日本では茨城県にある高温工学試験研究炉が1998年から稼働して各種実験が行われ、現在は、2030年代の実証炉建設に向け、三菱重工が中心となり研究開発・設計を積極的に推進している。

 一方、中国はこの分野でリードしており、山東省威海市でペブルベッド型モジュール式小型高温ガス炉2基が2023年から商業運転を開始し、発電以外に熱を地域暖房に利用している。

4. 小型モジュール炉 (SMR)

 上記3つの原子炉方式と冷却装置など一体化し、工場で組み立てたモジュールを、ユニットとして運搬・設置する炉の総称をSMR (Small Module Reactor)とするが、SMR (Small Module Reactor)は軽水炉ベース、高速炉や高温ガス炉のモジュール化したものをAMR (Advanced Module Reactor)と区別して呼称することもある。
 既存の原子力発電の1/3~1/4以下の発電出力であるが複数のユニットを並列化すれば再エネが発電中に、一部の原発ユニットを停止しフレキシブルに需要に応えることができ、また、既存の原発のような立地以外にも僻地、離島、都市部、データセンター、工場用の地域発電や船舶にも応用でき、世界各国で積極的に開発されている。
 また、小型モジュールのため、万一事故が起こった際も自然冷却されたり、放射性物質はモジュール内にとどめられたり安全性が高いことと、工事期間が短く初期コストが低いことであるが、立地基準が未整備であることと、小規模発電のため発電コストが高いのが課題である。
 日本では日立GEの軽水炉型の「BWRX-300」、ナトリウム高速炉の「PRISM」東芝のナトリウム高速炉の「小型高速炉4S」、冷却をヒートパイプ、減速材を水素化カルシウムにした超小型炉「MoveluX」がすでに開発が進んでおり、三菱重工も軽水炉型SMRの概念設計が完成し、それぞれ2030年代の実用化を目指している。
 前述の2028年運用予定の米TerraPower社の次世代原子炉「Natrium」や2023年に商業運転を開始した中国山東省威海のペブルベッド型モジュール式小型高温ガス炉もSMRに属するものである。

5. マイクロモジュール炉 (MiMR)

 SMRよりさらに小型の原子炉は、トラックで運搬可能で発電出力が既存原発の数千分の一である0.5万KWです。この原子炉は、僻地や離島、被災地、イベント会場、潜水艦での発電に適し、発電だけでなくカーボンフリー水素製造も可能です。また、地域のEV車充電やFCEV、水素エンジンの充填ステーションとしても活用できる。SMR同様に自然放冷可能で安全性が高く、燃料交換は長年不要で、運用コストも安いが、小出力のため発電コストは既存原発の2~3倍となる課題がある。
 日本では、三菱重工が水を使わない全個体タイプの「マイクロ炉」を開発中で、黒鉛を冷却材と制御材に使用している。
 アメリカでは、Westinghouse社の「eVinci」がヒートパイプ冷却式で0.2万~0.5万KWの電気出力を持ち、2024年までに実証炉を建設予定です。USNC社の「Pylon」は、小型高温ガス炉方式で送電網が届かない地域や宇宙への輸送が容易で、出力は0.15万kW~0.5万kWですが、複数基連結で出力増強が可能です。Radiant社の「Kaleidos」は、最大0.1万kWの小型高温ガス炉方式で、遠隔地域や軍事基地、病院、データセンターなどの戦略的インフラ施設にエネルギーを供給し、一晩で設置可能です。

三菱重工が開発するマイクロ炉

6. 核融合炉

 「地上の太陽」と称される核融合炉は、超高圧・超高温環境下で水素原子が結合し膨大なエネルギーを放出する反応を利用するもので、太陽の輝く原理と同じです。この反応を人工的に起こしてエネルギーを利用する研究が進行中です。
 核融合では、海水から取り出した水素同位体を1.5億℃まで加熱し、プラズマ核融合反応を引き起こし、燃料1グラムで石油8トン分の熱エネルギーが生成可能です。核融合は海水から燃料を得られ、危険性が少なく、高レベル放射性廃棄物を生成せず、CO2も排出しないため、究極のエネルギー源として注目され、各国が研究に投資している。

核融合の原理

 核融合発電の実現には、高温でプラズマを制御し、核融合反応を維持する技術が必要です。しかし、現在の技術では、高温に耐える炉壁の開発やプラズマ制御の向上が課題で、高温に連続して耐えられる安全な炉壁の開発は困難であり、また、設備の建設費用が高額になるため、核融合発電の実用化には膨大なコストがかかり、これらのコスト面の課題が解決されていないため、実用化は2050年以降とされていが、アメリカのベンチャー企業が本年から発電開始するとされ、動向が期待される。

まとめ

 次世代原子力発電は福島第一原発事故後の不安を払拭し、安全性が高いものばかりで、これらはベースロード電源として導入すべきであり、方式によってはコスト面でも再生可能エネルギーより安価で、CO2排出がなく、さらに、熱源利用やカーボンフリー水素生成など多くのメリットがあると考える。
 特に水素供給網が整えば、水素専焼火力発電や燃料電池、水素エンジン車の導入が進み、カーボンニュートラルに大きく貢献する。
 SMRやMiMRは発電コストが高いものの、設置場所の自由度が高く、災害対応や船舶利用に適しており、再エネとの共存で安定的な電力供給が可能になると考える。

次世代原子炉方式のまとめ
各発電方式の1KWhあたりの発電コスト

 私が支持している日本保守党のエネルギー政策には、原子力発電については言及がないが、「わが国の持つ優れた火力発電技術の有効活用」と掲げている。
 今回次世代の原子力について調べてみたが、わが国には次世代原子力技術に関しても優れた技術を持っていることがわかった。
 これらも有効に活用して日本を強く豊かにしたいものだ。


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