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ミルチョ・マンチェフスキー監督『ビフォア・ザ・レイン』突如現われたマケドニアの才能


<作品情報>

マケドニアを舞台に、ギリシャ正教徒とアルバニア系ムスリム人住民のあいだで高まる緊張を、マケドニアとロンドンを結び、時間軸が複雑に交錯する三つの挿話で描きだすドラマ。監督・脚本のミルチョ・マンチェフスキーはマケドニア出身で、ニューヨークを拠点にミュージック・ビデオやCMを手掛け、これが初の劇場用長編映画になる。製作はジュディ・コウニハン、チェドミール・コラール、サム・テイラー。撮影は「野性の夜に」のマニュエル・テラン、音楽はエスニック音楽グループのアナスタシア。出演は旧ユーゴ出身の国際的名優レード・セルベッジア、「オリヴィエ・オリヴィエ」のグレゴワール・コラン、「ネイキッド」のカトリン・カートリッジ、ほか。94年ヴェネチア映画祭金獅子賞(グランプリ)受賞。96年度キネマ旬報外国映画ベストテン弟9位。

1996年製作/115分/イギリス・フランス・マケドニア合作
原題:Before the Rain
配給:大映
劇場公開日:1996年2月3日

https://eiga.com/movie/48420/

<作品評価>

80点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆

<短評>

上村
「言葉」「顔」「写真」の三つの章からなるオムニバス…ではなくそれぞれが微妙に、かつしっかりと繋がっています。端的に言うと最初と最後が同じシーンになり円環構造になっています。
三つの「愛する者の死」を描くが、一概に愛といってもそれぞれ異なります。男女に芽生えつつある愛、離婚を切り出した直後の愛、血縁者という愛…それぞれが様々な人に影響を及ぼし悲劇がもたらされるのです。
マケドニア人とアルバニア人の対立が背景にはあるが、普遍的なテーマを持った作品になっていると言えるでしょう。
画面が美しく、月はありえないほど大きく輝いています。また繊細な音演出も素晴らしいです。
ヴェネツィア映画祭らしい芸術的に優れた映画であることはもちろん、エンタメとしても非常に面白く良くできています。

吉原
マケドニアの山岳地帯とロンドンを舞台に、ギリシャ正教とアルバニア系のムスリムの対立を描いた作品。「悲劇」についての3つのチャプターがオムニバスのようにも見えますが、しっかり繋がっています。
本作の構成の素晴らしさには度肝を抜かれます。1つ1つのチャプターがそれ単体として存在していても短編映画として評価できる出来なのであり、3つ全てが揃わなくては評価できないというものでは決してないです。
特に、2章はマケドニアが舞台ではなく、民族間対立とは全く関係のないロンドンでの物語が展開しますが、その内容は1章、3章とも繋がります。
一見バラバラに見える3つの物語を合体させた本作は結局、何についての物語だったのでしょうか。
TSUTAYAでレンタルした時に、本作がラブストーリーのコーナーにあったのが非常に驚きでしたが、鑑賞してその意味がわかった気がします。宗教観を超えた愛、失って初めて気づく愛、ジャーナリストとして、人として、見過ごせない人類愛。様々な愛の形が本作では描かれています。
よく「歴史は繰り返す」と言うが、人は愛し愛され、そして失うことを幾度となく繰り返してきました。それは民族間の対立も同じです。終わらない負の循環の中で、その循環を断ち切る術を人類は見つけなければならないのです。

<おわりに>

 それぞれが独立しながらも実は繋がっている。不思議な作品です。ミルチョ・マンチェフスキの上手い構成が見ものの作品です。

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