アニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』彷徨う女がたどり着く先は…
<作品情報>
<作品評価>
80点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆
<短評>
上村
素晴らしい。ヴァルダのドキュメンタリーはどれも人の暖かさを感じる傑作だらけで大好きですが、本作はなかなかに厳しい話でした。しかしヴァルダの人間に対する愛はここでも健在。
道ばたで凍死している女が発見され、彼女に会った人々の話を聞くという話です。モナはどうして道ばたで死んだのか、彼女はどういう人だったのかを描き出していきます。
モナの生き方に否定も肯定もしない視点がすごく好きです。「こういう生き方もある」という提示にとどまり、全てを暖かく抱擁してくれるようなヴァルダの視線がたまらなく好きなのです。
モナは哀れに死んでいったのか。そうではない。彼女は自分の生き方を全うしたのです。放浪する人間としての生き方を自ら選び、そしてその生を終わらせたのです。
名前も知らない証言者たちから浮かび上がるモナの人物像。冷淡な中に人間味が見え隠れします。演出からもサンドリーヌ・ボネールからも適度にそれが感じられる温度感がいいですね。
寒空の下死んでいったモナ、彼女は天涯孤独だったのではありません。この空の下、結局は孤独に生きるしかない人間たちのその一部でしかないのです。みんな寂しいのです。
ヴァルダのフィクションをみるのは『5時から7時までのクレオ』以来でありますが、ドキュメンタリーとは異なるテイストながら通底するものは同じ気がします。アプローチは違ってもヴァルダは人間を愛している。そして孤独をも愛している。素晴らしい作品でした。
吉原
私が初めて鑑賞したアニエス・ヴァルダ監督作品は本作でした。と言っても、特集上映が組まれており同日にあと2作の監督作品を鑑賞したのですが… 長年、日本で鑑賞が困難だった本作。海外での評価が軒並み高いので、どんなものかと鑑賞してみるとこれが面白いとかつまらないとかの言葉じゃ表現できない作品でした。
放浪の生活をする主人公の生き方は、ケリー・ライカートの「ウェンディ&ルーシー」や「ノマドランド」にも通ずるところがあり、また多くのロードムービーと同じように「生きること」について考えさせてくれます。
しかし鑑賞する側は、現実は甘くはなく、辛く救いのないものであることもしっかりと受け止めなければなりません。私の言葉では、伝えることに限界があるので、興味のある方には、ぜひ観てもらいたい一作です。
<おわりに>
アニエス・ヴァルダの暖かさ、厳しさのどちらも感じることの出来る作品です。言葉では伝わらない感覚を共有したくなる一本です。
<私たちについて>
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