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アニエス・ヴァルダ監督『冬の旅』彷徨う女がたどり着く先は…


<作品情報>

フランスを代表する映画作家アニエス・バルダが、さすらいの末に凍死した少女が死に至るまでの足取りを描き、1985年・第42回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞に輝いた作品。

冬の南フランス。片田舎の畑の側溝で、18歳の少女モナが凍死体となって発見された。ヒッチハイクをしながらあてのない孤独な旅を続けていたモナが命を落とすまでの数週間の道程を、彼女が路上で出会った人たちの証言を通してたどっていく。

「仕立て屋の恋」のサンドリーヌ・ボネールが主演を務め、「昼顔」のマーシャ・メリル、「ふたりの5つの分かれ路」のステファーヌ・フレス、「セラフィーヌの庭」のヨランド・モローが共演。フランスでは当時100万人を超える動員を記録し、バルダ監督最大のヒット作となった。

1985年製作/105分/フランス
原題:Sans toit ni loi
配給:ザジフィルムズ
劇場公開日:2022年11月5日
その他の公開日:1991年11月2日(日本初公開)

<作品評価>

80点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆

<短評>

上村
素晴らしい。ヴァルダのドキュメンタリーはどれも人の暖かさを感じる傑作だらけで大好きですが、本作はなかなかに厳しい話でした。しかしヴァルダの人間に対する愛はここでも健在。
道ばたで凍死している女が発見され、彼女に会った人々の話を聞くという話です。モナはどうして道ばたで死んだのか、彼女はどういう人だったのかを描き出していきます。
モナの生き方に否定も肯定もしない視点がすごく好きです。「こういう生き方もある」という提示にとどまり、全てを暖かく抱擁してくれるようなヴァルダの視線がたまらなく好きなのです。
モナは哀れに死んでいったのか。そうではない。彼女は自分の生き方を全うしたのです。放浪する人間としての生き方を自ら選び、そしてその生を終わらせたのです。
名前も知らない証言者たちから浮かび上がるモナの人物像。冷淡な中に人間味が見え隠れします。演出からもサンドリーヌ・ボネールからも適度にそれが感じられる温度感がいいですね。
寒空の下死んでいったモナ、彼女は天涯孤独だったのではありません。この空の下、結局は孤独に生きるしかない人間たちのその一部でしかないのです。みんな寂しいのです。
ヴァルダのフィクションをみるのは『5時から7時までのクレオ』以来でありますが、ドキュメンタリーとは異なるテイストながら通底するものは同じ気がします。アプローチは違ってもヴァルダは人間を愛している。そして孤独をも愛している。素晴らしい作品でした。

吉原
私が初めて鑑賞したアニエス・ヴァルダ監督作品は本作でした。と言っても、特集上映が組まれており同日にあと2作の監督作品を鑑賞したのですが… 長年、日本で鑑賞が困難だった本作。海外での評価が軒並み高いので、どんなものかと鑑賞してみるとこれが面白いとかつまらないとかの言葉じゃ表現できない作品でした。
放浪の生活をする主人公の生き方は、ケリー・ライカートの「ウェンディ&ルーシー」や「ノマドランド」にも通ずるところがあり、また多くのロードムービーと同じように「生きること」について考えさせてくれます。
しかし鑑賞する側は、現実は甘くはなく、辛く救いのないものであることもしっかりと受け止めなければなりません。私の言葉では、伝えることに限界があるので、興味のある方には、ぜひ観てもらいたい一作です。

<おわりに>

 アニエス・ヴァルダの暖かさ、厳しさのどちらも感じることの出来る作品です。言葉では伝わらない感覚を共有したくなる一本です。

<私たちについて>

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