(小説)俺が『錬金術師』になった時 第1話
その時、俺の作ったプログラムは、3ヶ月先までの在庫推移を、正確に表にしてくれるものであった。
2023年の今にして思えば、EXCELなどの表計算ソフトで簡単にできてしまうものだったが、未だ記憶装置が非常に高価で、ディスクの入出力でロスしてしまう時間が非常に大きい時代であった事が、俺を『錬金術師』にしたのだった。
要は、言うなれば、仮想データベースを簡易に作ったのだった。
このプログラムのお陰で、従来計算に丸1日掛かって、ほぼ業務での実用を諦めていた処理を、俄然、お昼休みの間に実行可能で、実用的なものにしたのだった。
それは、明け方の4時頃だった。
プログラムはわずか25分ぐらいで、結果を出力してくれたので、
ユーザは飛び上がって喜んで、一目散に走って缶ビールを買って来てくれた。
「川上さん!乾杯しよう!!」
その瞬間、俺は未だ自分が『錬金術師』になった実感を持てていなかった。
ただ、『やり遂げた実感』と、『突然押し寄せた眠気』に。。。
唯々、『幸福な睡魔』に襲われただけなのである。
「家に帰って寝たい。。。」
ただそれだけ、であった。
そもそも前日が締め切り日だったので、前日中に一度は完成していたプログラムであったのだ。
但し実行時間は、当初の目標だった60分を僅かに下回る、ギリギリのレベルだった。
ユーザは実行した結果を見て、少し考えて決心した様に、申し訳なさそうに言った。
「現場では昼休みの間に一度結果を見て、修正を入れて、もう一度再実行をしたいんだ!」
「もう少しだけ早くする、そんな改良点はないか??」
「う~ん。。。なら一点だけ、やってみましょう。。。」
俺はプログラムのデバッグをやっていた際に、一点だけ改良点に気付いていたので、
「できるかもしれない。」と感じていたのだった。
。。。でなければ、もう締切日なのである。
無謀な返事はできない。
そういう経緯で、その日は会社に泊まり込みが決定した。
申し訳なく思ったのか、何もする事が無いはずのユーザも、俺に付合っていた。
お蔭で、完成するまで睡魔は吹き飛んだ!
後から気付いたのだが、この瞬間、俺は『錬金術師』に成っていたのだった!!
その後は、到底あり得ない様な事が次々と俺を襲った。
<続く>
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