
真実はあとでわかる アクが抜けた言葉とは?
前回から「プロセス」と「コンテント」についてお伝えしています。
前回の記事はこちら
本当に言いたいことが言えないとき 「場の空気を読む」とは?
何かをしているとき、人との間にはいろいろなことが起こっています。している何かを「コンテント」といい、起こっていることを「プロセス」といいます。
たとえば、会議を例にすると、議題、目標、役割。これらはすべて「コンテント」です。
話し合いの中で、発生している様々なものは、すべて「プロセス」です。たとえば、お互いの関係の中で揺れ動く感情。相手やグループに対して思っていることなど。
本当に言いたいことを、その瞬間に言葉にするのは結構、難しいです。
「人間関係プロセストレーニング」では、ワークのあとで振り返りをすることで、ワークのときに起こっていた「プロセス」を見える化していきます。そこで、本当に言いたかったことが見えてくるのです。
「瞬間的に反応して言葉にしたことは本心ではなかった」という経験は、多くの人がされているのではないでしょうか。
大げさになったり、相手を責めてしまったり・・・
後から振り返ると、「なんであんなことを言ってしまったのだろう」と後悔したりします。
嘘も、瞬間的に起こる現象です。
最初から嘘を言おうとしている場合もあると思いますが、瞬間的な反応で言ってしまったという嘘が多いのです。
私たちが言葉と付き合う上で理解しておきたいのは、日常で交わされる言葉は、あまり当てにならないということです。私の感覚では、反応して出た言葉に含まれている本心は、一割に満たないのではないでしょうか。これがオレンジジュースだと、ほとんど元のオレンジの味は分かりませんよね。
これが悪いのではなく、言葉はそういうものなのです。
でも、人生においては、どうしても言葉を大事にしたいときがあります。
本当の気持ちを知りたい。
本当の気持ちを伝えたい。
どうすれば本当の言葉に出会えるでしょうか。
本当に言いたいことは、後で分かってきます。
私の例でいえば、経営している食堂では、日々辛いことがあります。だから、その瞬間を言葉にすると、ネガティブなことが次から次へと出てくるでしょう。
でも、これは本当に言いたいことではありません。
3年後に今を振り返ると、どうでしょうか。
3年後には「食堂をやってよかった。かけがえのない経験だった」と言っているという確信があります。
今は大丈夫ではないのに、3年後は絶対に大丈夫。
なぜこんなに今と3年後にはギャップがあるのでしょうか。
それは、今の言葉には、エゴというアクがあるからです。
今、食堂での体験を言葉にしているとき、「疲れた」「お金が心配」「思うようにならない」「傷つくことを言われた」「評価されていない」「未来が見えない」「大勢の人といるのが疲れる」など、さまざまなエゴが混じっています。
エゴは植物に含まれるアクのようなものでしょうか。
頭で分かっていても、エゴというアクは、その瞬間には抜けません。
水に漬けておくと、アクが自然に抜けていくように、言葉のアクが抜けていくには時間がかかるのです。
時間が経つにつれて、自我で作ったエゴというアクは、自然に抜けていきます。
そうすると、ありのままが見えてくるのです。
先程の食堂の例でいえば、イキイキと動いていた自分、とても楽しかったこと、スタッフやお客様との触れあい、おかげさまという感謝、実は豊かな時間だったことが見えてくると思います。
辛いと思っていた体験も、自分の糧になっていることに気づくでしょう。
これがエゴのアクが抜けた本当の言葉です。
3年後の言葉を知っているかどうかで、今この瞬間の体験は変わってきます。
私は、後からではなく、なんとか今、本当の言葉に近づけないかと模索しています。禅とは、ありのままを見られる目を持つこととされています。それは今この瞬間、エゴが抜けた体験を修行していくことではないかと思うのです。
すぐに夫婦や親子で喧嘩になってしまう経営者のクライアント(男性)がいました。
その方は、思い通りにいかないとき、腹がたったまま怒りを言葉にします。
時間がないとき、その苛立ちを相手にぶつけます。
何か問題が起こったとき、人のせいにします。
自分で責任をとるのが怖いので、人任せにします。
このクライアントさんに、「今の関係性を3年後に言葉にすると、どうなっていますか?」と質問しました。
すると、とても悲しそうな表情になり、「寂しさしかありません。とても後悔していると思います」と肩を落とされました。
本当は、親のことも、子供のことも、奥様のことも、とても大事に思っています。でも、それは言葉にならないのです。
このクライアントさんには、週末にご自身の発言を振り返ってもらうことにしました。月から金までの経験を思い出していくのです。
そのとき何を言ったのか、どんな気持ちだったのかを書いていきます。
また、このときに大事なのは、気持ちだけではなく、出来れば、身体の状態を思い出すことです。
すると、胸がいっぱいだったこと、頭が熱かったこと、お腹が痛かったことなどが思い出されてきます。
そして、この振り返りをやっていく中で、本心とは逆のことや、まったく別のことを言っていたことに気づきました。
あるとき、ふいに涙が溢れてきたそうです。自分では、何がなんだか分からないけど、「本当の気持ちはこうだったんだ」という感覚はあったそうです。
いかに固く重い鎧を着ていたか。
自分の痛みや傷ついた気持ちに出会うことで、少しずつ言葉が出やすくなったそうです。気がつけば、言葉の数が大分減っていました。
今の夫婦や親子関係が3年後にどんな言葉になっているか再び聞いてみると、「まだよく分かりませんが、以前のような暗さはないです。自分にも『よく頑張っている』と言ってやれそうです」と笑顔で話されていました。
コーチングのセッションでは、最後の方で「今ここまで話してみてどうですか?」という質問をします。
この質問から、少しずつ本当に言いたいことの核心が見えてきます。
1時間以上話して、最後の振り返りの5分で霧が晴れることもよくあります。
誤解を恐れずに申し上げると、最初の方の話は、笑顔で聞き流しています。最初に出てくる言葉は、ほとんどの場合、真実ではないからです。でも、真実にいたるには、この「どうでもいい話をする」ステップを踏むことが必要です。
やがて、どこかで振り返りをするタイミングがやってきます。そこからが、セッションの肝です。
仕事でも家庭でも、最初から意気込みすぎている上司や親が多いです。最初は言葉に引っかからずに、ただ「どうでもいい話」を聞き流していくことが大事です。
もし、振り返りのタイミングがなければ、それで終わってもいいのです。次のセッションや半年後のセッションにつながっているかもしれません。
その瞬間の言葉にこだわりすぎると、言葉の罠にはまっていきます。
私自身も最近、言いたいことを言葉にするのが難しいと感じることが増えました。
以前は、自分は言葉を上手く使えていると思っていました。それは、表面的な言葉を掬い取っているだけだったのでしょう。
それから比べれば、難しいと感じている今の状態は、健全ではないかと思っています。
今、あなたが自分の言葉に違和感や疑問を感じているとすれば、本当の言葉に出会うタイミングかもしれませんね。
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