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「無」から「有」へ イノベーションを起こす「ご縁の接線」とは

クライアントであるITコンサルタントの太田記生さんが、このたび著書を出版されました。

『DX時代に成長する製造業のIT戦略〜 ITプロジェクトを成功させるためのノウハウ〜』

太田さんは、製造業の経営ビジョンとITシステムの構築をサポートしています。コーチング・ファシリテーションを指導したご縁で、独立当初から、もう10年以上にわたってのお付き合いです。

今回、ITプロジェクトで培った経験と知識を本にまとめるサポートをさせていただきましたが、出版するまでに2年近くかかりました。

本にするというのは、「無」から「有」を生み出す作業と言えます。

自分とは何者なのか?を言葉にするのは、なかなか大変です。

というのも、本人は、自分の価値に気づいていないからです。私も含め、本人が一番自分のことを分かっていません。

また、自分で当たり前にできていることほど、言葉にするのが難しいです。だから人は、特別なことを探しがちなのですが、真の価値は普通にやれていることにあります。

コーチの役割の一つは、その当たり前のことを、あえて言葉にしてお伝えすることです。

たとえば、中小企業診断士でもある太田さんは、ITシステムの導入をするときに、常に経営との整合性を大事にしていました。経営陣としっかりと話し合い、いかに経営戦略とIT戦略を一致させるか。もし経営戦略が曖昧であれば、まずしっかりと経営のビジョンを固めるところから関わっていました。

多くの企業で、ITに多額の投資をしても、システムの課題としてしか捉えていないがゆえに導入に失敗していたのです。一方で、システム会社側もITの専門家ではあっても、未来の経営戦略を実現するシステムを提案できていないという問題がありました。

その一つが、「現場のやり方にITシステムを合わせるのか」「ITシステムに現場の作業を合わせる」のかという点です。

現場の表面的要望だけを聞いていくと、現場のやり方に合わせてシステムをカスタマイズしなければいけません。一見すると現場にうまくマッチしたシステムができそうですが、これでは古い現場のやり方をそのまま踏襲してしまいます。

太田さんは、新システム導入のときが、古くなった業務をアップデートするチャンスと捉えているのです。いかに不必要な作業を削って大胆に効率化できるか。そのために、現場から大きな抵抗にあっても、経営戦略として現場のやり方を変えてもらうのです。根本から現場のやり方を見直すことで、本当の課題が浮かび上がってきます。結果として、現場で使ってもらえるシステムになるそうです。

「IT戦略は経営戦略」が太田さんの一丁目一番地でしたが、最初は本人の中でもうまく言葉になっていませんでした。そのために、経営陣との関わりが薄くなり、結果としてプロジェクトが途中で頓挫することもありました。そうした苦い経験も、本の中身の厚みになっています。

この本を読んだ年商100億円の製造業の経営者は、「我が社がこれまでIT導入に失敗した原因のすべてがここにある。そして、成功への光が見えた。」とコンサルティングを依頼されたそうです。



ちなみに本というのは、形を作っていく作業といえます。「形」が作られるには2つのアプローチがあります。

ひとつは、こういう本を書くというあらかじめイメージや目的があるところからスタートするやり方です。すでに目指す形があり、それを言葉にしていく作業になります。

今回の太田さんの本は、最初に形はありませんでした。ひとつひとつ経験を積み重ねる中で、10年以上かけて、少しずつ形が現れてきました。

形が生まれるもう一つのアプローチは、太田さんのケースのように何もないというところからスタートするやり方です。



これは禅の修行と同じ方向性と言えます。

あるとき、老師が「禅は接線」だと言われました。一本の接線を引いても、それはただの線に過ぎない。しかし、たくさんの接線を引いていく中で、次第に円の形が浮かび上がってくる。

普段私たちは、いきなり円という目に見える形を書こうとします。それは、形ある物でないと、分からないし、説明出来ないからです。

一方で、一本一本の接線にどういう意味があるかと考えるよりも、ただ引くことそれだけ。不完全な何かを持ち寄りながら、いろいろな線を引いていく。

ちなみに今回の太田さんの本は、たくさんの接線をひき続けた結果、自然に現れた「円」といえます。

一本の線はバラバラです。方向もバラバラ。太さもバラバラ。一見すると無秩序に見えるさまざまな線。

人生においてもビジネスにおいても、無から有へのイノベーションを生み出すには、このバラバラの方向の線が大事になります。

ちなみにビジョンやゴールを決めてそれに向かっていくというのは、形があるところからのスタートです。形が最初にあるというのは、人生や組織がまとまっていく働きを生み出します。描いたビジョンから外れないために、短期のゴール設定や目標管理が有効なアプローチになります。

ただ、どんなにPDCAサイクルを回しても、イノベーションは起きません。これは「有」から「有」の思考だからです。

イノベーションは「無」から「有」へのエネルギーの動きです。「なにもない」というゼロ地点からスタートできるかが、創造性の鍵になります。

さらに申し上げると、引いてきた線は、ITコンサルタントとして経験だけではありません。太田さんは、中小企業診断士の会や地元の経済団体、岡山県の観光振興を行うNPOなど、さまざまな社会活動に事務局としてボランティアで関わっています。面倒臭い裏方の役割を幹事として支えてきた経験が、コンサルティングの隠し味になっているように思います。「デジタルこそアナログな関わりが肝」だというのが、太田さんの口癖というのは面白いです。



さまざまなご縁は、一本一本の接線です。一本の線は無意味に見えても、「ご縁の接線」から何かが現れてきます。それは、人でいえば全人格であり、組織の風土です。

ご縁の接線はどんな形になるかはわかりません。また、いつ形になるかもわかりません。

無から有へのイノベーションの第一歩とは、無意味な一本の線です。無意味とは無駄とも言えます。さまざまな方向の接線をひき続けることで、どこかで無から有が浮き上がってくるのです。

・最初に形がある。(夢やビジョンに向かって進んでいく)
・なにもないところから無数の線を引いていく。(次第に形が現れてくる)

どちらが良い悪いではありません。どちらも真実です。今どちらが必要かに応じて、アプローチがまったく違うことを理解し、行動していくことが必要です。

組織をまとめるためには、まずは形を描き、メンバーに示しましょう。人生は長いようで短いです。貴重なときを無駄にしないために、一心不乱に目標に向かって進んでください。

一方で今、あなたの人生や組織にイノベーションが必要だとすれば、いかにさまざまな方向の線を引けるか。組織でいえば、さまざまな個性の人材がいることで、さまざまな線をひいてくれます。これは葛藤や混乱をもたらしますが、それがイノベーションのステップなのです。

ちなみに、私の役割は、「無から有へのイノベーション」を人生や組織に起こす仕掛け人です。なので、さまざまな線をクライアントの人生や組織に投げかけています。

今、あなたの人生や組織が、行き詰まっているとすれば、線が一方向に偏っているのかもしれません。一度ゼロに戻って、さまざまな線を引くことからはじめてはいかがでしょうか。

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