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「普及」という言葉だけがひとり歩きする現状をどう捉えるか
近年、日本においてウォーキングサッカーやウォーキングフットボールといった新しいスポーツが注目を集めている。しかし、その普及においては多くの課題が存在し、「普及」という言葉だけがひとり歩きしている現状が見受けられる。この現象を振り返り、何が原因なのか、そしてどのように解決できるのかを考察してみたい。
〇普及の先にあるものが不明確
まず最初の課題として、「普及の先にあるものが不明確」という点が挙げられる。ウォーキングサッカーを導入する目的や、それによって実現したい未来像が明確でないため、参加者や関係者にとっての動機付けが不足している。例えば、何をもって成功とするのか、参加者数の増加なのか、地域における親睦の促進なのか、それとも他にあるのか。明確なビジョンがないまま「普及」を唱えても、具体的な活動に落とし込むことができず、結果として一過性の活動に終わってしまう危険性がある。
◯ビジョンの不透明さ
このビジョンの不透明さは、普及活動自体の目的を見失う要因ともなる。例えば、ウォーキングサッカーを通じて高齢者の健康促進を図るのか、地域のコミュニティを強化するのか、それとも障がい者スポーツとしての側面を重視するのか、それらすべてなのか、明確な方向性が見えなければ、各種の活動がバラバラになり、全体的な活動の質が低下する可能性が高い。そのためには、各地域や団体が何を目指しているのかを共通認識として持つことが必要であり、それが普及の基盤となる。
◯体験会などスポット的なイベントの多さ
また、現在の普及活動においては、体験会などのスポット的なイベントが多数行われているが、これもまた課題の一つである。確かに、体験会は新規参加者を募るための良い手段であるものの、その後の継続的な取り組みがない場合、参加者の関心は薄れやすい。体験会に参加した人が、その後も続けるための後押しやフォローアップが不足していることが多い。このように、短期的なイベントの成功を追求するあまり、中長期的なビジョンが疎かになることが、普及活動全体の持続性を脅かしている。
◯指導員などの情報共有がされていない
最後に、指導員や関係者間での情報共有が不十分であることも忘れてはならない。指導者やボランティアが、どのようにスポーツを展開しているのか、国内外でのトレンド、成功事例や失敗事例を共有することは、普及を進めるうえで重要な要素である。しかし、情報伝達が不十分なために、それぞれが孤立した活動を行ってしまい、他者の成功を学ぶ機会が失われている。このような状況では、各団体が同じ失敗を繰り返すことになり、結果的に普及活動が停滞してしまう可能性が高い。
ウォーキングサッカーやウォーキングフットボールの普及活動は、ただ「普及」という言葉を唱えるだけでは意味がない。普及の先にある目的やビジョンを明確にし、継続性のある取り組みを設計していく必要がある。また、指導員や関係者間での情報共有を促進し、活動の質を向上させることが重要である。これらの課題を克服することで、ウォーキングサッカーの本来の魅力を多くの人々に伝え、持続的な普及を実現していくことができるだろう。