エフェクチュエーションと事業承継①基本的な問い

こんにちは。ジルコヴァパートナーズ代表の谷口です。

当社ではエフェクチュエーションの論理に基づいた事業承継支援に取り組んでいます。
現在の日本各地で進められている事業承継は、エフェクチュエーションの論理でいうところの「コーゼーション」(因果論・因果推測・計画性)に基づいて進められることが多いのではないかと考えていますが、本来その性質からしてエフェクチュエーションの論理を組み合わせた方が好ましいのではないかと考えており、様々なご縁があって現場での事業承継支援に取り組ませていただいています。

※エフェクチュエーションの入門的知識については、こちらの記事内のスライドをご覧ください。(「エフェクチュエーション入門」
※手前味噌ですが、当社が運営していますサービス「ジルコヴァ図書館」上でファミリービジネスについての書籍をまとめたブックリストを3点ほど掲載しています。ご興味がおありの方は是非ご参照ください。(「その1」「その2」「その3」)

今後、継続的に「エフェクチュエーションと事業承継」について発信していければと思いますが、現時点ではたとえば次のような問いに基づいて活動を行っています。

  1. 事業承継計画に基づく承継(コーゼーション)では、多くの機会損失が生じているのではないか。むしろエフェクチュエーションの論理を活用し、計画・目的をアップデート(ピボット)する前提で進めることが有効ではないか。

  2. 事業承継は経営や相続対策、補助金・助成金といったいわばハードスキルが議論の中心になりやすいが、心理・家族関係・キャリア・モチベーションといったソフトスキルも非常に重要である。これらを扱う際に、エフェクチュエーションの論理が有効なのではないか。

  3. 事業承継後に次世代自身が事業をコントロールしなければならないことを考えると、「目的主導」ではなく、次世代側の「手段主導」の視点に立って事業を紡いでいくべきではないか。

  4. 事業承継は往々にして(長期の)不確実性にさらされており(そもそも継ぎたいかどうかすらわからないなど)、不確実性に対処する意思決定論理であるエフェクチュエーションに基づいて進められることに合理性があるのではないか。

  5. 「事業を継承するというよりも創業の精神そのものを継承したい」と考える創業者において、エフェクチュエーションの論理を踏まえて起業家精神を継承することは有効なのではないか。

  6. 昨今の「ベンチャー型」なる事業承継スタイルに違和感を持つアトツギの方々に対して、「手中の鳥」や「クレイジーキルト」の考えを持ち込むことで、家業の歴史や文脈を重視した手触り感のある事業承継スタイルを提示できるのではないか。

  7. 事業承継にエフェクチュエーションの論理を持ち込むことで、承継者・被承継者それぞれの「個人」にとっての価値を中心に据えて承継していけるのではないか。また、承継者・被承継者の「自発性」によって推進することができるのではないか(それにより当事者意識を高められる)。

  8. 経営者を退く承継者(日本においては多くの場合は承継者の父)に、次の活躍の場を提供することができるのではないか。また、同じように、ファミリーのメンバー、特に女性メンバー(日本においては多くの場合は被承継者や承継者の妻)にとっても、ファミリー内の手中の鳥を活かしてやりたいことに取り組めるのではないか。

  9. 「家を継続する」ことが基本理念となりやすい同族企業においては、(スタートアップ企業や上場企業のように)期待利益の大きさに基づくコミットよりも、許容可能な損失に基づいて存続可能性を重視した取り組みが適するのではないか。

  10. 承継者・被承継者個人の手中の鳥だけではなく、「家族・一族の手中の鳥」に注目することは、該当企業の競争優位性や持続性の構築に大きく寄与するのではないか。たとえば、先代および先代世代の社員の持つ資産や経験を手中の鳥やクレイジーキルトの観点から可視化することで、それらを次世代が活用しやすくなるのではないか。そうすることで、次世代アトツギが下手に「新しいこと」「新しい体制」にゼロからチャレンジしなくて済むのではないか。(ファミリービジネスはわざわざゼロイチでチャレンジしない方がよい)

  11. ややもすると家父長制的人間関係になりやすい家族をクレイジーキルト化することで、家族メンバーによる共創という枠組みで捉え返すことができるのではないか。そのように考えることは、一種のセーフティーネットとしても機能しうるのではないか。

  12. 家族関係に課題がある際に、家族療法のような「マイナスをゼロに」というアプローチだけではなく、エフェクチュエーションのような「ゼロからプラスに」というアプローチも必要になってくるのではないか。

  13. 上記のような営みを積み重ねることで、親子の不和などを遠因とした被承継者による所謂「大なたを振るう」対応を避けられるのではないか。(先代世代メンバーの大幅なリストラなどは、結果的にその後の被承継者のモチベーションに対してマイナスの影響が大きいことがしばしば観察される。)

  14. 事業への責任だけではなく、未来社会や地域・家族に対しても責任を負うアトツギのあり方を示すことができないか(アカウンタビリティとレスポンシビリティの問題)。また、ファミリービジネスという複雑なものを複雑なまま扱うための枠組みを提示できないか。

現時点での基本的な問いの一部を、上記のとおりご紹介しました。それぞれのテーマについて、また今後の記事でも解説していきたいと思います。

当社のnoteでは、今後も「エフェクチュエーションと事業承継」をテーマに記事を公開し、考え方のみならず取り組み事例も含めて紹介していきたいと考えています。
ご興味がおありの方は、是非お声がけいただけたら嬉しく思います。

ジルコヴァパートナーズ合同会社
谷口 正樹

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