秋大会雑感
はじめに:時間が余った時にラベルを確認しないために
立論で時間が余ってラベルを確認すると、相手に準備時間を与えることになります。ある先輩によると、ラベルを確認するくらいなら、立論で既に読んだ資料を、そう言わずにもう一度読んで、相手の思考リソースを奪う方が望ましいそうです。
これを避けるために、肯定側立論は、解決性に実証等をもう1枚多めに用意しておくと良いでしょう。内因性→重要性→プラン→解決性の順で読むと、解決性に一枚追加しやすいです。
否定側立論で時間が余った場合には、ダウトを代わりに済ませる、短い資料を読むといった形で、端的に第一反駁を開始すべきです。そのために、否定側立論の担当者は反駁原稿を持参して、必要に応じて適切な反駁をできるようにすべきです。こうしたいわゆる0反は望ましくないという謎の風潮がある気もしますが、立論で黙る方が悪いでしょう。
本題:2Rの比較をめぐる奇妙な風習について
ジャッジをしていると、2Rの後半で「それでは比較に移ります」と述べた上で、メリットとデメリットの内容を繰り返して「確実性で比較してください」という謎の基準を出すスピーチが散見されます。
しかし、確実性(=発生確率)はメリットとデメリットの評価に織り込まれているわけで、こうしたスピーチには基本的に意味がありません。2Rのスピーチは、全てがメリットとデメリットの比較なので、特段このようなパートを設ける必要はありません。また、比較の視点として相対的に有効と思われるものについては、こちらの記事を参照してください。
こうしたスピーチの問題点については、こちらの記事も参考になります。よく見るので、おそらくどこかでスピーチの最後の時間で確実性の観点で比較するという指導がなされているから生まれた風習なのでしょう。
補論:ブロックから2NRを始める悪習について
ジャッジをしていると、「ブロックから入ります」から始まる2NRに出会うことがあります。そのようなスピーチは大抵、冒頭の再反論に時間を使いすぎて、自分のサイドのフローの焦点がよくわからなくなった上で、相手側のフローにほとんど触れない、という形になりがちなので辞めた方がいいように思います。
三要素ごとに自分たちのデメリットを再説明した上で、適宜反論に触れて再反論を行うという形の方が、自分のサイドの投票理由がわかりやすいと感じます。また、自分たちの議論を再説明してからの方が、再反論がしやすいという側面もあります。
おわりに:応答者は黙秘しなくて良いのか?
刑事弁護では、取調べにおいては原則黙秘すべきと考えられるようになりつつあります。それは、
1) プレッシャーのある中で記憶違い等により真実とは異なる供述を行うリスクがある上に、
2) 供述内容の真偽に関わらず捜査機関に情報を与えてしまうからです。
これは応答にも当てはまるように思います。まず、
1') 応答者はディベート経験が浅く、立論の作成者ほどには立論を理解できていないことが多いため、間違った応答を行うリスクがあります。また、
2') 相手の追及にうまく応答しすぎると、この反駁はうまくいかなさそうだということが相手方に伝わってしまい、簡単に返せる反駁を相手方が読むのをやめてしまう可能性があります。
これに対して、応答で黙るのは、ジャッジへの心証が悪いという反論があります。しかし、およそひと言も話さなければ、質疑者も質問を積み重ねて追及することができませんから、立論段階から心証が変わることはないように思います。
では、応答者は黙秘すべきなのでしょうか。歴戦のディベーターが、質問に正面からは答えず、事実上黙秘している局面はよく見ますが、それを初心者に要求するのは酷でしょう。秋大会までは、(コミ点廃止を前提とした上で、)2分あるいは3分黙秘すべきという考えに説得力を感じていました。
しかし、あるジャッジの方が、「先輩が後輩に、まだ下手だから応答では黙ってこいと言ってくる部活に入りたいか」と仰っており、それもそうかという気もしました。とはいえ、質疑の不用意な応答が最後まで響く試合もそれなりにあるところであり、どのようなアドバイスをすべきなのかは今後の検討課題と感じた大会でした。