炒飯とは人生である
1:炒飯とは人生である
一人暮らしをしたことのある、もしくは自分で自分のご飯を作ったことがあるであろう諸氏にとって、一度は作ったことのあるレシピといえばなんであろうか。西の横綱は炒飯で決まりである。自炊に炒飯は欠かせない、ということに異論はなかろう。ちなみに東の横綱はパスタである。
百人の腐れ自炊民がいたとすれば、これはもう間違いなく、少なくとも八十通りのレシピが存在し、卵が先か具材が先か、あらかじめ卵とご飯を混ぜておくべきではないか、味覇の存在は是か非か、王将の炒飯を再現するための秘伝の方法とは等々の諸説が入り混じり、さながら戦国武将たちの群雄割拠のごとき様相を呈するだろう。
なお残り二十名のうち十五名は自炊民であるにもかかわらずその実態は完全な外食派であり、残り五名に至っては、友達や彼氏彼女に作らせて自らは専ら食べるだけであったりする不届き者である。すなわち彼ら彼女らは、すべからく市中引き回しで世間の好奇と羨望の目を一身に浴びた挙句、河原に引き出されては打ち首獄門に処せられるべき輩たちである。
話を戻そう。
気だるい休日の昼下がりに、冷蔵庫の中身を漁り、今日は焼き飯にでもするかなと、冷凍ご飯をチンし、この卵の賞味期限は大丈夫だったと一抹の不安を抱えながら、しかし炒めるから良いやと開き直りつつ溶き卵を作り、具材を刻み、「中華は強火で一気に!」というテレビで仕入れたおぼろげな知識をもとに、テフロンのフライパンにありったけの火力を投入して、卵と具材とかろうじて常温に戻った冷やご飯を順次炒めていくと出来上がる謎の塊。それこそが炒飯である。
うーんやっぱりお店のやつとかとは違うなー、でもこれはこれで悪くないよな、そういえば冷蔵庫の干からびかけた納豆もついでに入れて納豆チャーハンにしちゃえばよかったんじゃんね、なんかどっかで食べたレタス炒飯が美味しかったよなぁ、などと思いながら片手に持ったスマホを見ている間に食べきってしまい、あーフライパンと卵の器と食器洗うのめんどいなぁと流しに放置したたま、うーん今日の夕食はなんか外で食べるかと考えているうちに、もう外の陽がだいぶ暮れてきて、今日もまた1日を無駄に過ごしてしまったことに気づいて、後悔に苛まれるうちにだんだん眠くなってくる。そうなるのが炒飯である。
家で作る炒飯とはそういう星の下に生まれたご飯である。これまでに成し得たことが、自分の内なる弱さが、自分の頑張り、疲労と慰労、そう言った自分のこれまでや生活が渾然一体となって冷蔵庫の在庫や、昼食を炒飯にしようという思いつきを経て、生半可な知識で超強火にして外はパサっと中はべちゃべちゃにしてしまうが、なんとなく味は悪くないのだ、という結果に帰着する。これが自宅炒飯であり、それがきっと私の、諸氏の、そして皆の人生を意味するものなのだ。
あきりんがその持ち前の追求ぶりで謎の炒飯追い込み記事を書いた後に若干の無茶振りをされたので、「自分なりの炒飯の作り方」を書いておこう。
書いてみてからわかったのだが、あきりんレシピとそう変わらない作り方に着地している。おそらくこのレシピ通りに作った炒飯はそれなりに美味な仕上がりとはなるであろう。しかしたとえ美味しくできなくても良いではないか。自宅炒飯とはそういうものなのである。得てしてべっちゃべちゃだったり、イマイチの味付けだったり、やっぱり強火にしてしまったり、面倒で結局作らなかったりするのだ。それで良いではないか、炒飯とは人生なのである。では始めよう。
2:美味しい炒飯を作るコツ
【炒飯を作るコツ】
1:炊きたてご飯をつかう
2:香味油を作っておいて、使うと美味しい
3:油を多めに
1:炊きたてのご飯を使う
⇒これは唯一絶対で最強のコツであることは間違いない。明らかにレベルの違うフワッフワでさらっとパラっとした美味しいご飯の炒飯ができる。
…出来るのだが、何が悲しくて炊きたてのご飯で炒飯を作らねばならないのか。ご飯を炊いたりするのが面倒な時にチャチャっと作るのが炒飯ではないのか。僕もそう思います。なので、最強のコツであるにもかかわらず、僕の作る炒飯では守られることはほとんどない。もったいないから。
2:香味油を作っておいて、使うと美味しい
⇒野菜くず(ニンジンやピーマンやニンニクのヘタ、ネギや大根の端材、ショウガの皮など)を、低温のサラダ油でじっくりと完全に水分を飛ばすまで火を通した油を作ると、炒飯に関係なく美味しい。うちでは炒飯に使うために作ったのだが。シンプルな味付けの炒め物とかに使うとすごい美味しい。
3:油を多めに
⇒健康のことはいったん忘れよう。健康に気を使うのであればそもそもご飯を油で炒めるべきではない。塩分と油分は多いほど美味しい、はチャーハン作りにおいても完全な真理である。ラードを使うと美味しくなるが、冷めると食べられなくなるので注意。私は香味油かサラダ油を使う。
3:炒飯作り方の例
【材料例】(1人前)
(1)ご飯(炊きたて)1杯
(2)卵1つ
(3)ひき肉(大さじ1杯くらい)
(4)ネギ(適当に。5cmくらい?)
(5)搾菜(あると美味しいけどなくても良い)
(6)野菜(冷蔵庫にあるもの。あんまりたくさん入れない)
(7)塩
(8)香味油
1:材料を準備する
火をつける前にやっておくべきことを全部やっておこう。
(1)野菜を細かく刻み、水分の多い野菜は塩もみしておく
(2)搾菜も細かく刻む ( 塩気の強い漬物も一緒に入れると美味しい )
(3)卵は溶いておく
(4)お塩とか調味料は入れたい分だけ皿に分けておくと良いかも
(5)ご飯は(冷めないように炒める直前に)一杯分を分ける
(6)盛り付け用のお皿もすでに準備しておきましょう
2:肉そぼろを作る
(7)中華鍋に少量のサラダ油(分量外)を引いて、中弱火でひき肉を炒める
じっくり煮るような炒めるような感じにして、仕上げに香りづけにちょっとだけ醤油(分量外)を入れ、火が通ったら、皿に置いておく。出来上がり。
(8)中華鍋を一旦洗う
3:材料を炒める
(9)中華鍋をもう一度火にかけ、水分を飛ばし、香味油を入れる
(10)鍋は中火よりちょい強めくらいにしておく。強火でなくて良い
(11)軽く油から煙が出始めたら、溶き卵を入れる
(12)すぐにご飯を入れて、木べらでほぐす(炊きたてだとすぐほぐれる)
(13)ほぐれたら卵の生っぽさがなくなるくらいまで数回鍋を煽る
(14)ネギと野菜と肉そぼろ、搾菜を入れて、鍋を煽って混ぜる
(15)軽く塩をして一度味見をし、好きな味に整える(僕は塩だけ)
(16)パンチが欲しい人はオイスターソース、スープ顆粒、味の素を投入
(17)好みで、鍋肌にかるく醤油を垂らして香り付けをする
(17)炒めすぎないで、良い感じになったら火を止めて皿に盛る
4:食べる
(18)出来上がったらさっさと食べる
カメラを構えて撮っているその瞬間にも、目の前の炒飯はどんどん美味しさのピークから外れていくのだ。「写真なんか撮ってる場合じゃねぇこれは何よりもカメラを置いて一刻も早く食べるべきだ」という気持ちが、自宅ご飯撮影には何よりも大事なことである。心して撮影と調理に勤しんでください。健闘を祈る。
※なお、このレシピの多くは、私の敬愛する四川家庭料理「中洞」の教えに依拠するところが多々ある。このお店は巣鴨にある小さな中国料理屋であり、なかでも麻婆豆腐や炒飯、里芋の餡かけなどは絶品である。興味ある方は是非訪問されたい。
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