【3分小説】軽減税率と白い豚
うちの牧場にはちょっと変わった豚達がいる。なんでも「軽減税率」とかいうものの対策だそうだ。
僕はその変わった豚達とお友達で、毎日必ずお話をしている。
「ボウズ、俺達はなんで肌の色が真っ白なんだろうなぁ」
ある日、一匹の白い豚がボヤくように呟いた。
「他の牧場の豚はピンクなんだろ?それなのに俺たちは真っ白だ。なんか自分達が豚じゃないみたいで恥ずかしい」
悲しげな表情で僕に向かって言う。
「軽減税率とかいうものの対策らしいよ。」
軽減税率というのは消費税が少なくなる制度。食べ物、飲み物、新聞だと軽減税率の対象となることがあるらしい。
「色が白ければ、食べ物としてだけでなく、飲み物に加工しても売れるんだって。白い具なし豚汁って、うまそうだから売れるって父ちゃんが言ってたよ。」
「税金のせいなんだな。その加工っていうのもこの牧場でされるんだろうな。」
苦々しそうに白い豚は空を見上げた。
「そうだね、敷地内に豚を加工する工場あるしね。」
「あぁそうだったな。俺は食べられるために産まれてきたのはわかっている。そして受け入れている。でも、 加工されてから出荷されるということは、外の世界が見れないということだろ?」
「そうだね。生きているうちは外にでれないね…」
僕は豚が可哀想になり、すこしためらいながら返事をした。
「一度くらい外が見たかったなぁ。何か方法はないかなぁ」
相変わらず空を見上げながら豚が呟いている。
「体の色を変えればいいんじゃないかな?体が白くなければ加工しようと思わないかもしれない。」
僕はとっさに思い浮かんだことを口に出した。
「いい案かもな。でも、色を変えるにはどうしたらいいんだ?」
豚はこちらに目を向けて複雑そうな表情で言った。
「色が変わるものを食べればいいんじゃないかな?いつも白いものばかり食べているだろ?それは体を白くするためだから。」
また僕は思いついたことを口に出した。
「おぉ、そうだな。その手があるな。何色にしよう?」
豚の目にかすかな輝きが宿った。
「緑にしたらどうだろう? 草を食べれば緑になれるだろう。緑の食べ物ってピーマンだからみんなきらいだろう? 」
僕は少し自分のテンションが上がるのを感じながら言った。
「食べ物にするにはいいかもしれない。でも、緑の飲み物にはメロンソーダがある。うまそうに見えるからだめだ」
僕は豚がメロンソーダを知っているのは意外だったが、さらに別の案を出した。
「青にしたらどうだろう?」
豚は少し考えて言った。
「だめだ、食べられるもので青いものなんてほとんどない。それに青の食材なんてあまりないから、目をつけられそうだ」
「なかなかいい案が見つからないね」
僕と白い豚は少しトーンダウンした。すこしして豚がゆっくりと興奮を隠すような口調で口を開いた。
「そうだ、灰色にしよう。石を食べれば灰色になれる。俺はアゴが頑丈だから石でも余裕で食べれる」
僕は豚が発した名案にびっくりした。
「おぉーいいね。そうしよう。早速食べてみて!」
豚は石を食べ始めた。みるみるうちに体は灰色になった。
「やったー、これで体が灰色になったぞ。食べ物や飲み物にならなくて済む!」
「よかったね。また明日からもいっぱいお話しようね!」
「ああ、そうだなボウズ。」
豚は嬉しくなって走りまわっている。そこへお父さんが通りかかった。
「あらら、この豚、灰色になっちゃったよ。たまにいるんだよな、石や砂を食べちゃうやつ」
「お父さん、この豚さん、石を食べたら灰色になったんだって。この色なら食べ物や飲み物に加工できないでしょ?」
父を見上げながら僕は言った。
「あぁそうだな。食べ物や飲み物にはもう不向きだな。そうとなるともうアレしかないか」
父は困った表情をするわけでもなく、淡々といって家に戻って行った。
翌日、僕は灰色になった豚に会いに行った。
豚はどこにもいなかった。あたりを探していると父に出くわした。
「お父さん、灰色の豚は知らない?」
父は淡々と答えた
「あぁ、あそこにいるよ。」
父は牧場の入り口の方を指差した。
「最近、新聞工場も新設してな。灰色のものならどんなものでも新聞にできるようになったんだ。」
牧場の入り口には、配達する前の新聞が山積みにされていた。
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