オオカミ少年と無申告
村一番の人気者がいた。
多くの町民から愛されていた。
とにかくシャベクリが上手いんだ。
少年がいるところには、いつだって人が集まった。
特に、おいしいキュウリを作る人になりたいという漫才は、みんなのお気に入りだった。
でも、少年には悪い癖があった。
ある場所に行くと嘘ばかり付いていた。
少年はある場所がとっても嫌いだったのだ。
自分のお金をたくさん持っていってしまうから。
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「狼に家を燃やされたので、税金が少なくなりますよね?」
「バーベキューをしていたら、狼に襲われれて、医療費がこんなにかかりました。」
「狼にチリンチリンを盗まれたので、買い替えました。」
毎年こんな感じで税務署で騒ぎたてる少年がいた。
私は渋谷税務署に赴任したばかりだったったので、このときが初対面だったんだけど。
「オ、ザワざわしてるね。まったくシブヤノオトはうるさいわ。うわさの少年は彼か…。」
目の前で少年が騒いでいる。
「火事で愛犬のマルチャンが亡くなったんだぞ!!」
少年は、年に一回、3月になるとやってくる。
そしていつもわかりやすい嘘をつく。
何回もつく。
証拠を出すように言うと、ないと言う。
それでは税金が少なくならないと説明すると、ふざけるなと言って大暴れする。
一通り暴れたら「じゃあキュウジエンだけ払っていくよ」なんていう。
「90円と言ったのですか?申告書にはもっと高い金額が書いてますよ。」と言うと
「フカイだ」と言って、申告書に書いた税金を払ってさっさと帰っていく。
その申告書に書いた税金だって、本当に合ってるか疑わしい。
こんなやりとりがこの後何年も続いていた。
税務署内では誰も彼のいうことを信じなくなった。
そして、ある年から彼は来なくなった。
来なくなってから3年は経つのであろうか。
上司にアノヒトニアッテミタらと言われてに行くことにした。テラスハウスの立派な家だった。
「ごめんくださーい。」と声をかけると、「はーい。」と返事があり、すぐに少年が出てきた。
3年前より少し大人びていた。着ているのは茶色い犬が描かれたフクダった。
「あぁ、あの税務署の方ですね。どうぞ。」といって家の中に招きいれた。私はハイヒールを脱いで家に上がり、居間へ向かった。
居間から台所が見える。ぴっかぴかのレイゾウコやスイハンキがある。新しく買ったのだろうか。
「最近、申告してないですけど、どうかしましたか。」
私は単刀直入に聞いた。
「ここ数年、収入がないんですよ。」
彼は間髪入れずに答えた。
「収入があるのはわかってますよ。それに証拠も持ってます。」
「あぁすいません、白状します。税務署に行くのがめんどくさかったんです。私がだらしなかったです。怠慢でした。」
「想像を絶するルーズさですね。では、しっかり申告しましょう」
「どうにか見逃してもらえませんか。同郷のヨシミということで。」
「だめです。そんなこと。」
「はい…すいません。実は私、計算がトクイではないんです。」
「じゃあ私がチュートリアルをしてあげますから、一緒に計算してみましょう。」
「まとめて税金を払うとオトクになるわけないですよね?」
もともと払うべきだった税金とクラベテミると、結局、たくさんのお金を払うことになった。
毎年ちゃんと税金を支払っていれば、払う必要のなかったお金が多額にある。
サイコウノレストランで何十回も食事をできるほどの金額だ。
「税金を払っていなかったこと、テレビで大々的に報道されてしまうんでしょうね。」
彼が遠い目をしながらそう言った。
予想通り、税金を払っていなかったことがテレビで報道された。世間に知られてしまった。少年はすっかり人気がなくなった。
仕事が一切こなくなり、収入もなくなってしまった。
今では細々と農家でバイトして生活しているらしい。
皮肉なことに、ビニールハウスで自分が育てたキュウリばかり食べてるんだってさ。
本当に漫才通りになってしまったね。