
エコとありがとうの人
どこにでもあるような普通のコンビニがありました。
私はそこの店員さんが好きでよく通っていました。
親切ですし、面白いですし、私が困ってるときには、よく相談に乗ってくれるんですよ。
店員さんは夢があって、夢の実現のために頑張っているんだそうです。でも、それだけでは生活ができないので、生活費を稼ぐためにアルバイトをしていると言っていました。
ある日コンビニに買い物をしにいくとこんなことを言われました。
「エコのため、ビニール袋を廃止しました。」
「あぁ、そうなんですね、では、そのまま手持ちで持って帰ります」と言って商品を受け取りお店を出ました。
また、別の日に行くと、今度はこんなことを言われました。
「エコのため、スプーンを廃止しました。」
自宅にあるスプーンで食べればいいやと思い、了承しました。
また、別の日に行くと、廃止しているものが増えていました。
「エコのため容器を廃止しました。ご購入の際には、容器を持参ください」
どこまでエコを求めていくんだろうと思いましたが、これもエコのためだと思い、家に帰って容器を持参して再度コンビニに行きました。
「ビニール袋、スプーン、容器といろいろとなくなってますね。エコのためとは言え、大変不便なことですね。」
「お客様には大変ご迷惑をおかけして申し訳ありません。これもエコのためなのでご理解いただければと思います。」
「えぇ、そうですね。仕方ないですよね。」
「そういえば最近お話ししてなかったですね。お悩みないですか?」
「あぁ、最近家を買ったのですが、住宅ローン控除とかいう制度がわからなくて困ってるんですよね。新築で3,000万円ほどで買ったんですが...」
「その場合だと、税金が....」
店員さんは、我が家の状況に合わせて住宅ローン控除について丁寧にわかりやすく教えててくれました。
こんな親切な店員さんだから、ビニール袋や容器がなくなっても通いたくなります。
また別の日にコンビニに行きました。
「すいません、今度は食品の販売を廃止しました。エコのためです。」
たしかに食品が全くありません。仕方なく雑誌だけ買って帰りました。
これではいくら店員さんがいい人でも、このコンビニに行く気になりません。
それからしばらくそのコンビニに行くことはありませんでした。
3ヶ月ほどたったある日。雑誌が欲しくなり、久々にコンビニに行くと、コンビニには誰もいませんでした。
レジには張り紙で、「エコのため、店員を廃止しました。」と書いてあります。
あら、あの親切な店員さんまで廃止してしまったんだと。
残念だなぁ。
いつかあの人に聞きたいことあったのに。
あの店員さんいつも「ありがとうございます」の代わりに「さんきゅう」っていうのがとっても不思議だったんですよね。なんで「さんきゅう」っていうのか聞きたかったのに。
その後一度だけ、テレビでその店員を見たことがありました。
「芸人の確定申告、全部やってる」と芸人さんが紹介していました。
あぁ、あの人芸人だったんだ。税金の相談まで乗ってくれてとてもいい人だったのに。
そもそも税理士でないのに、税金の相談してよかったのかしら?という疑問も浮かんだので、いつかまた会ったらあの店員さんに聞いてみたいなどと思ったりしてました。
でも、二度とその店員さんと会うことはありませんでした。
そして例のコンビニもいつの間にか、なくなってしまいました。
そうそう、コンビニがなくなった空き地にはこんなことが書かれていたそうです。
「エコのために、お店を廃止しました。」