【3分小説】タコ店長と店内飲食
2019年9月。消費税の増税まであと1ヶ月を切った。
ここはハンバーガーショップ。海の生物であるタコがオーナー兼店長をしている
店の奥から「うーん、うーん」と店長が何やら悩んでいる声がする。
気になって奥の方を覗いてみると、店長が頭を抱えている。横には散乱した算数ドリルがあった。
僕は知っている。
店長が悩んでるのも、算数ドリルが散乱しているのも、全部、消費税の増税のせいだ。
話は少しだけ前に遡る。
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「わーいわーい」
店長は小躍りしながら喜んでいる。
「どうしたんですか、店長?」
僕はこの店のアルバイトだ。
「消費税が上がるだろ?でも、食料品は8%でいいんだって」
店長はニコニコしながら僕に話しかけてくる。
「えぇ、そう見たいですね。」
「うんうん、この軽減税率とかいうのはいい制度だな。」
店長は相変わらず笑顔でこちらに話している。
「でも、このお店でハンバーガーを売るときは消費税10%ですよ。テイクアウトやってないですし。店内飲食は8%になりません。」
僕がそう言うと、店長は不意を突かれたようなぽかーんという顔した。そしてしばらく経って、弱々しげに口を開いた。
「本当か、それは。それはまずいなぁ…ちょっと休憩行ってくる。」
店長は肩を落としながらどこかに行ってしまった。
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30分後、算数ドリルを片手に店長は戻ってきた。
「算数ドリルなんか買ってきて、どうしたんです? 」
僕は尋ねた。
「今から消費税の増税に向けて、10%の計算を勉強するんだ。奥で勉強するからしばらくお店を頼むな。」
「わかりました」という僕の返事を聞く前に、店長は店の奥に行ってしまった。
ここだけの話だけど、実は店長は8の段までしか計算ができない。会計をするときは、いつも8本の足を使って計算している。でも、足が8本しかないから、9の段以上だと計算できない。足の本数が足りなくてしまうからだ。
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しばらくしてから店長が奥から出てきた。
「やっぱり10%の計算ができない。このままでは会計を計算できないから、お店を続けることができないよ。」
そもそもレジを買えば済む話なのだが、その発想はないらしい。
「じゃあ、テイクアウト専門店にしたらどうです?テイクアウト専門店にすれば8%だけで済むじゃないですか。」
「それはいい案かもしれない。ただ、お客様が私のハンバーガーを食べてる顔を見るのが好きなんだ。テイクアウトだとそれができない。お店を続けている意味がないんだ。」
「そうですか…。いい案ないですかねぇ。」
二人で考えていると、新聞配達が来た。「ご苦労様」と言って店長が新聞を受け取った。
「気分転換に新聞でも読むよ。」
そういうと店長は新聞を読み始めた。すると、突然店長はフルフルと震えて泣き始めた。
「どうしたんです、店長。なにか悲しい事件でもあったんですか? 」
慌てて僕は聞いた。
「いや、そういうわけではないんだ。この記事見てくれ。 」
店長は記事を僕に見せてくれた。記事のタイトルはこう書いてある。
「うちの店もマクドナルドのように、店内飲食もテイクアウトも同価格にしよう。これならテイクアウトの計算しかできない私でも計算できる。」
店長は安堵した表情で、店の奥に入っていった。
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