一時支援金とOK牧場
あの税理士さん、頼まれたことは絶対に断らないんですって。
そんな噂で持ちきりの税理士がいました。
「確定申告してください。」
「OK牧場」
「領収書を持ってきたので、丸投げしていいですか?」
「OK牧場」
「自分でfreeeに完璧に入力したんですけど、念のため見てもらえませんか?」
「OK牧場」
なんでもかんでも「OK牧場」と快く受け入れます。
いつも「OK牧場」と言っているので、いつのまにかその税理士には「ガッツ石松」というあだ名が付きました。
ガッツ石松は、なんでも心良く引き受けてくれるので、みんなに愛されています。
いじわるな人だと「確定申告を500円でやってくれない?」なんて無茶なことを言いますが、それでもガッツ石松は快くうけいれ、確定申告を行います。しかも懇切丁寧に。
売上や経費の漏れがないか、資産や負債の計上が正しく行われているかを丁寧にチェックすることはもちろんのこと、税金が有利になる方法がないかなど必死に検討します。
税額がまとまれば、お客様が完全に理解するまで何日もかけて説明します。ユニクロや家族との食事代が費用にならないことについての不満を残したりしません。
申告後は、確定申告書の控えを和紙に印刷して、霧の箱にいれて納品します。預けた資料はビシッとファイリングして返してくれるし、おまけにバナナまでつけてくれます。
そんな仕事ぶりを見たいじわるな人は改心して「やっぱり通常料金払います。いや、これだけやってくれるならそれ以上の料金を払います。おいくらですか?」と言うことも少なくありません。
そんなガッツ石松は最近大忙しです。
繁忙期である3月に入り、確定申告作業は佳境を迎えています。
そこに加えて、一時支援金という制度が始まりました。一時支援金というのは売上が下がった人にお金が支給される制度です。
ガッツ石松は一時支援金の仕事をしており、それを知った一時支援金が欲しい人たちはガッツ石巻に連絡します。
10件、20件と連絡がきます。
ガッツ石松が知らない人からもドシドシ連絡がきます。
どうやら一時支援金のホームページにガッツ石松のことが書かれていることが原因のようです。
ガッツ石松は仕事が増えすぎて困りました。しかも一時支援金のホームページで「約9割の方が無料で事前確認を受けてます」「機関には国から一件あたり1,000円の報酬を支払います」なんて書いてあるのでお客さんから報酬をもらうわけにはいきません。
でも、依頼されれば「OK牧場」と言って請け続けました。
ガッツ石松はもちろん一時支援金の仕事も懇切丁寧に行います。本当に一時支援金を受けていい人なのか細かくチェックしていきます。一件あたり何時間もかかることもザラでした。
「早く一時支援金をもらいたい」と言う人ばかりだったので、ガッツ石巻は確定申告をそっちのけで、一時支援金の業務を行うほかありませんでした。
毎夜毎夜、徹夜で一時支援金を行いました。30日連続徹夜をした頃、ついにガッツ石松は倒れてしまいました。
救急車で搬送されそのまま入院です。
倒れた原因はもちろん過労でした。
実はガッツ石松は、一時支援金のせいで、通常業務に手が回らず、確定申告が全く終わってませんでした。
でも、体が動かず、仕事ができません。
ガッツ石松はお客さんを病院に呼び、確定申告ができないことを詫びて、自分の代わりに他の税理士に確定申告をお願いしてもらうように頼みました。
そして全てのお客さんに謝罪が終わると同時に、病院を抜け出してどこかにいってしまいました。
それからガッツ石松を見た人はいません。
村の人々は必死になって探しましたが、ついに見つかることはありませんでした。
そうそう、ガッツ石松が失踪してからしばらく経った後に、一時支援金の事務局にこんな電話があったようです。
「あのー、収入がなくなってしまったのですが、一時支援金をもらえるのでしょうか?」
えぇーちょっと待ってくださいねと事務局の人が言うとこう返事がありました。
「OK牧場」