【3分小説】イカと売上と消費税
オフィスには大量のダンボールが積み重なっていた。
ダンボールは日に日に増えていく。
僕はこのダンボールに押しつぶされそうになりながら事務仕事をしている。
ピンポーンとインターフォンが鳴った。宅配便だった。「いつもありがとう」と言って荷物を受け取った。
かなり大きめの箱だ。
ダンボールを開けてみると、中には大量のイカが入っていた。
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「売上が落ち込んでいる。」
「消費税の増税があったせいだ。」
「たった2%の消費税が上がっただけで、こんなにも売上は落ち込むのか。」
「消費税が8%のままなら、うちの売上はこんなに落ち込まなかったのに」
…と、ことあるごとに社長は言っていた。もはや社長の口癖だ。
社長の言うとおり、消費税増税後に売上が落ちた。いま積み重なってるダンボールは売れ残った在庫だ。
日が落ち始めたころに、社長が帰ってきた。
「おぉイカが届いたか。」
社長は帰ってくると開口一番に言った。
「これはなにに使うんですか?イカの販売でも始めるんですか。」
「あぁ、イカの販売を始める。」
ついに、食料品まで手を出すつもりなのか。食料品は消費税が8%で売れるから。
「スーパーでも始める気ですか?」
僕は頭を抱えながら言う。
「スーパーは始めないが、スーパーでイカを売る。」
スーパーにイカを卸す事業を始める気なのか。
「どういうことです?」
「このイカを文房具に加工して売り出すんだ。」
僕は絶句した。
「文房具に加工するが、文房具としては売らない。食料品として売るんだ。」
社長はついに気が触れたのであろうか。
「文房具なのに食料品として売って大丈夫なんですか?」
「大丈夫。正真正銘の食品だ。ナマモノだから2、3日しか使えない。腐る前に食べてしまうからな。文房具としての用途はあくまでおまけだ。」
本当に食料品といっていいのか不安は残るが、一応納得はできた。
でも、売れるかどうかは別だ。
イカの文房具なんて本当に売れるか疑問だ。
でも、社長の熱意に負け一緒に商品を考えた。
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やっとイカの文房具が完成した。
出来たのは、イカのメモ帳だ。
意外とこれが書きやすい。
イカのヌルヌルで滑らかに書ける。
色はシースルー。とってもオシャレで完全にインスタ映えするやつだ。
使用期限は短い。長期間メモを残したければスマートフォンで写真を撮ればいい。
商品は満足のいくものができた。
でも、こんな突拍子もないものが売れるか不安だ。
そんな不安をよそに売り出してみると、イカのメモ帳は売れた。
スーパーの店頭販売にもかかわらず売れた。
売れに売れた。
空前の大ヒット。
イカ文房具は、タピオカの次のブームとなった。
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しかし、世の中は世知辛い。
売れば売るほど、客の要望の声も大きくなるものだ。
「もっと長く使えるものにしてほしい」
「焼きイカの色やスルメ色も増やしてほしい。」
「においをどうにかしろ」
うちの会社は要望をどんどん取り入れてイカのメモ帳を改良していった。
使える期間を長くしたし、色のラインナップも揃えた。
もはや食品とは言えない。
もちろん消費税を10%で売らざるおえなくなった。
でも、消費税のことなど全く関係なく売れ続けた。
社長はぽつりと言った。
「売れなかった理由は消費税なんかじゃなかったんだ。」