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旅行がサバイバルになった日
前回
https://note.com/zeikin3/n/n188653b43071
前回までのあらすじ
マレーシアで人との交流に飢えたわたあめは、出会い系で知り合った中国人女性からデートに誘われ謎のエリア スリ・ペタリンへ向かうのだった。
タクシーで30分ほどかけてスリ・ペタリンに到着。
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写真じゃわかりづらいが、「ここは中国ですか?」ってレベルの中国人街。
観光情報でよく紹介されているクアラルンプール北西部のチャイナタウンよりよほどチャイナしている。
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クアラルンプールの端っこだが結構栄えている。行き交う人々はほぼ中国系。
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リンリンたんに「着いたにょ~ん」と気持ち悪いメッセージを送ると「ちょい時間かかるわ」との返事が。
ではその間、この中華街を散策しよう。
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飯屋が立ち並んでいるがほぼ中華の店。外のメニュー表を見るとなかなか良い値段する。
この後はリンリンたんと食事する展開になるだろう。痛い出費になりそうだが仕方ない。
あえてそこそこ高級なレストランで食事して「外人と高級なお店でディナーなうw」とTwitterにあげてイキリまくるのも悪くないな。
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喉が渇いたのとスマホのバッテリーが切れそうなのでファミマでウーロン茶と充電ケーブルを購入。
ここのファミマはイートインスペースがあり充電もできる仕様。中心部のコンビニより遥かに設備が良い。
このウーロン茶は他のエリアでは見たことない商品。ロゴの字体からしてガチ中国人向けと思われる。
もうマレーシアじゃなくて中国だろ、ここ。
マレーシアに来てからはコーラばかり飲んでいたので久しぶりにさっぱりしたのが飲みたかった。
「甘醇0脂」…。カロリー0という意味だろうか。
カロリーあるウーロン茶なんてあんのか?
と思いつつ飲んでみると………
甘い!!!!
完全に砂糖入り。
東南アジアには砂糖入りのお茶が存在する。
タイではペットボトルのキャップの色で判別可能だが、マレーシアで売られてるこれは回避不能。
てかよく見たら全部中国語表記。本場中国では砂糖入れて飲んでるのか?
日本人の感覚からすると、お茶に砂糖はごはんにマヨネーズをかけるのと同等のヤベー行為だが、いざ飲んでみると悪くない。というか普通にうまい。マヨラーに目覚める人もこんな気持ちだったのか。
次は砂糖入り緑茶も試してみようかと思いつつファミマでリンリンからの連絡を待った。
英語が苦手な20代前半の素朴なイメージの女性。異国の地で苦労してるんだろうなあとか彼女の身の上を想像した。わたあめは中国語話せないけど、いざ会ったらどうやってコミュニケーション取ればいいんだろうか。
……想像、心配、妄想をして30分ほど時間を潰したが一向に連絡が来ない。
まさかブッちされてしまったのか?一番つまんない展開だな。
などと思ってると、ようやく連絡がきた。ファミマ前にいるよと教えて外に出てみるも、なかなか落ち合えない。
中国人が多すぎて誰がリンリンなのか不明。
電話番号を教えてもらい、かけてみた。
すると、超流暢な英語が聞こえてきたではないか。アプリでは英語で会話はしたがらなかったのに。
そして近くでこちらに手を振る女を発見。
ブランド品に身を包んだガチ上流階級っぽいルックスの浮いた女がいるなと思っていたが、まさかそいつだったとは!
夜職の女の派手さとは違う、根っからのリッチさが感じられる見た目だ。
素朴な中国人女性とのデートか、悪い輩に丸裸にされるかのどちらかになると思っていたら、
超上流階級のレディとデートという第3のルートに突入してしまった。
わたあめは嫌な予感しかしなかった。今晩、一体いくら飛ぶのかと。
今まで一食5RM(150円)に収めようと頑張ってたが
その努力がアホに思えるほどの出費になりそうだ。
まだ旅行の序盤も序盤だ。下手したら日本に帰れなくなってしまう。
「どこ行く?」と聞かれ、「どうしようか?」といきなり気の利かないダメな男を露にした。
「んじゃ、行きつけのバーあるから行かね?」
リンリンに誘われ後ろについていく。
どこに連れていかれるのだろうか。輩にカツアゲされるルートの方がマシかもしれん。
頭の回転が早ければそこら辺の飯屋に誘って出来る限り出費を抑えられたかもしれない。
道中、リンリンと英語でトークする。わたあめは英語の成績1だった割にスムーズに会話できてんじゃんと心の中で自賛していたが、
「うふふ、あんた英語超苦手なんやね。まあ気にすんな」となんか慰められてショックを受けた。
今思えば、トークが下手という意味もあったのかも。
意志疎通できる程度ではダメなのだ。
相手は上流階級の女。
流暢な英語を操れるのは当然で、さらに巧みな話術も求められているのだ。
わたあめは今、『上流階級の男らしい振る舞い』を要求されている。
巧みな話術、自然なレディファースト、泉のような財力。
わたあめは何一つ備えていない。大ピンチだ。
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汗だくになりながら連れてこられたバー。高級な店って入ったことないけど、別にそこまで高級っぽくなくね?ちょっぴり安心。
ボックス席に通されると、ウェイターにカーテンを閉められ二人だけのプライベートな空間になった。
これは…デートというより接待で使うような店ではないか。
やはり超高級店じゃないか?また汗が噴き出してきた。
「そんな暑いんか?カーテン開けるか」とリンリンに気を遣われるほどに冷や汗だくだく。
とりあえずメニューに目を通す。
気になるお値段だが、どれも30RM(1000円)程度だった。
普段の出費をおもえば高いといえば高いが、想像より全然安かった。
なんだ、こんくらいなら余裕や!何でも頼めやリンリン!
わたあめはお酒について詳しくないので、それはリンリンに適当なものを注文してもらった。
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ワインとチキンナゲットが到着し、乾杯した。
なんかグラスを揺らしたりするのがマナーみたいな話を聞いたことがあるが、そんなの知らん。そもそもわたあめはアルコール類が超苦手なタイプ。お酒の味もマナーもわかりません。
しかしワインに口をつけた瞬間、頭に雷が落ちた感覚がした。
わたあめは過去に三度ワインを飲んだことがある。
一つはコンビニで買える数百円のワイン。
一つは1500円くらいのワイン。
一つは貰い物の5000円級のワイン。
今飲んだものは、明らかに5000円級の味だった。いや、万円いってるかもしれない。
そういやメニューにはフード系しか載ってなかったので、酒の値段はわからない。やられた。
リンリンと合流する前は「女の子とのデートだし数千円くらい飛ぶかもな」と不安を抱いていたが、
1万円飛ぶ覚悟を決めた。
旅の予算が20万円しかないのに 1万も吹っ飛ぶのはかなり痛いが、その代わり堪能させてもらうぞとリンリンの上から下までエロエロな視線を滑らせた。
わたあめが底辺だというのはルックスや振る舞いからすでに勘づかれてるはず。
この後甘~いイベントが発生する訳ないだろうから、存分に視姦させてもらおう。正直あんま好みではないが、上流階級の女を目で舐め回せる人生で唯一のチャンスだ。
「私はmay bankで働いとるねん」とリンリンが自分語りを始める。
たしかその銀行のATMでやらかしてわたあめは現金引き出せなくなったんだよなぁ。
ボトルが空いたのでリンリンがウェイターを呼んで追加で注文した。
追加分が来る前に、ウェイターがひとまず現金かカードで支払いしろと要求してきたのでカードでお願いした。
やはり300RM(1万円)くらいいってしまうんだろうか。
noteの記事のネタになったし、3万くらいまでなら払ってやるよと腹をくくり、カードを通した。
ピッ
3,750RM(120,000円)
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呆然としていると「あんた大丈夫か?」とリンリンが顔を覗きこんできた。
わたあめ「あのワインめっちゃ高いんやが……」
リンリン「え、あれ高いん?マジ?ちょっとウェイター!すまん、追加の酒キャンセルや」
わたあめの焦燥っぷりにリンリンが困惑している。
わたあめは、酔ってるのと動揺してるのとでたぶん傍目にかなりヤバい状態に陥っていた。
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リンリン「す、すまんな。もう店出るか」
立ち上がるとかなり足元がふらついていた。ワインの値段のショックもあるが、相当酔っていた。
5000円のワインを飲んだ時もそうだったが、高いワインは飲みやすいのでアルコールが苦手でもついつい限界以上まで飲んでしまい死にかける。
リンリンに介助してもらいながら、外で縁石に腰掛けた。
「ほら見て、あの建物」とリンリンが一帯で特に目立つ超高層タワマンを指差した。
「うちあそこに住んどるんや。歩けそうか?」
まさか…部屋に誘っているのか???
「こんなクソ貧乏陰キャの醜いジャップなんざ何もできんやろし、酔いが覚めるまで面倒見てやるか」と親切にしてくれてるんだろうか。
上流階級の暮らすゴージャスな部屋に足を踏み入れるチャンス…だが、一刻も早く宿でふて寝したかったのでわいはタクシーで帰ることにした。
リンリンがわたあめのスマホでGRABを呼んでくれた。
「今日はすまんかったな、お詫びに明後日うまい寿司奢ったるで。後でアプリにメッセージ送るから見てや」
リンリンに見送られ、わたあめは一泊700円のドミトリーへと帰還した。リンリンからなんかメッセージが来ていたがスルーした。
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日本に帰るまでまだ25日以上ある。それまでどうやって生き延びればいいのだろう……。計算したら、今後1日あたり1400円くらいしか使えない計算になる(宿代込み)。
ちなみに、元の旅の予算20万というのはわたあめの全財産である。残された金額が今のわたあめのすべて。しかもわたあめは初日にやらかしてカードはデビット機能しか使えなくなってる。他のカード類は日本に置いてきた。
残り数万円で1ヶ月近く旅しなければならない。
旅行がサバイバルと化した瞬間だった。
皆さんは金ないのに旅行なんてしないように。
次
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