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消費税の仕入税額控除は、個別対応方式と一括比例配分方式のどちらを取るか

からあげ屋シリーズは不人気のため打ち切りました。
要望があれば復活するかもしれませんが。。。
ということで、路線をいつものに戻します。


1.まずは消費税のおさらい

事業者にとっての消費税は、売上に係る消費税(預かった消費税)から仕入に係る消費税(支払った消費税)を差引、納税するものである。
課税売上割合が95%以上であっても、課税売上が5億円超になると、仕入税額控除の計算は、個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかを選ばなければならない。

自分で作りました

課税売上割合とは、売上のうち、課税売上が占める割合をいう。
例えば、不動産販売業で、総売上が1億円、その内訳は建物売上が7,000万円、土地売上が3,000円だったとした場合には、課税売上割合は70%となることになる。この場合において、上記のフローチャートに照らせば、課税売上は5億円以下であるが、課税売上割合は95%に満たないため、個別対応方式又は一括比例配分方式のいずれかにより消費税の控除額を計算することになる。

2.方法が2つあることはわかったが、結局計算はどう違うの?

一括比例配分方式は、端的に言えば(かなりざっくりです。)、課税仕入に係る消費税に課税売上割合を乗じて仕入に係る消費税額が求められます。

例えば、課税売上割合60%、課税仕入に係る消費税額1億円だった場合には、
1億円×60%=6,000万円が控除される消費税額になります。
差額の4,000万円は消費税の計算上、控除することができなかったため、控除対象外消費税と呼ばれます。

また、一括比例配分方式は、スマホのように2年縛り(つまり、3年目にならないと個別対応方式に切り替えられない)がある点に注意です。

個別対応方式は、ややめんどくさいです。
先ほどの課税仕入に係る消費税額1億円を3つに分けないといけません。
課税売上にのみ要するもの、非課税売上にのみ要するもの、共通して要するもの。
本社に係る経費は共通になってしまいます(利息という非課税売上があること間違いなしだからです。)。

前提を補足しましょう。
当社は自転車及び車椅子を製造するメーカーでした。
自転車売上(課税売上)が60%、車椅子売上(非課税売上)が40%でした。それによって、課税売上割合は60%でした。
ここで仕入に係る消費税の内訳も見ていきましょう。

  • 自転車にのみ要する部品等に係る消費税(課のみ):6,500万円

  • 車椅子にのみ要する部品等に係る消費税(非のみ):2,500万円

  • 両方に要する製造費用、本社経費に掛かる消費税(共通):1,000万円

この場合、個別対応方式による仕入税額控除額は以下の通りになります。
6,500万円+1,000万円×60%=7,100百万円

つまり、非課税売上のみに要する2,500万円及び1,000万円×(1-課税売上割合)の合計額2,900百万円が控除対象外消費税となるわけです。

個別対応方式は何年縛りなどはありません。
ただ、手間がかかる、そこは理解いただけたのではないかと思いました。
どうやって分けるかは、帳簿上で分けます。消費税コードが増えることにな
り、入力は大変になります。

課のみ、非のみ、共通にいつ分けるかは、原則は課税仕入れ等を行った日の現況ですが、用途が明らかでなかったものについては、課税期間の末日までに用途区分が明らかにされた場合は、その用途で区分してOKです。

国税庁HP
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shohi/11/02.htm

「どうやって、帳簿上で分ければよいか。そりゃ、取引ごとに分ければいいのでしょうが、それだと手間が・・・」といったところが疑問が湧くわけですが、以下の方法がよろしいかと思われます。

  • 事業部門ごと

  • 勘定科目ごと

  • 補助科目ごと(勘定科目ごとでいけるなら、補助科目ごとを否認される論拠が見つからない。)

国税庁HP
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/shohi/kaisei/pdf/kihon.pdf

個別対応方式を導入するうえで、一番大事なことが仕組みづくりです。
そこは税理士と伴奏して築き上げるのがベストだと考えております。

3.個別と一括を行うことによる消費税の納税額への影響

前提を置かないと話になりませんので、先ほどの自転車と車椅子メーカーで前提を置きましょう。
前提1
課税売上割合:自転車売上60%、車椅子売上40%のため、課税売上割合は60%
自転車の直接原価の割合(≒自転車原価/自転車売上)(課のみ):70%
車椅子の直接原価の割合(≒車椅子原価/車椅子売上)(非のみ):60%
課税仕入れの共通原価の割合(共通):5%
課税仕入れの本社経費の割合(共通):2%
人件費等の粗利益に対する割合
(不課税):30%
会社は個別対応方式か一括比例配分方式かは有利なものを選択するものとする。

※身体障害者用物品は非課税であるが、部品はまだ身体障害者用物品ではないため、課税仕入れとなります。

自分で作成しました

それぞれの構成比が変わらない状況であったとしても、事業規模が拡大するにつれて、個別対応方式と一括比例配分方式との間で差が広がることがわかりますね。


前提2

年商は毎年5億前後であったとしよう。
製造研究部門からとある報告が上がったとしよう。
「車椅子にのみ要していた部品ですが、研究を重ねた結果、自転車にも利用できることが分かりました。」
今まで非課税仕入れとしていた部品が、一部自転車売上にも使えることから、非課税仕入れが共通対応仕入れに入れ替わることになる。
その結果、消費税の控除税額はどのようになっていくのか。車椅子の直接原価を60%を基準として、5%ずつ共通対応に振ることができた場合の影響額は下表のとおりとなる。

自分で作りました。

売上の構成比は変わらないことから、一括比例配分方式の控除割合は依然として60%であるが、非のみ仕入れが共通対応仕入れへ振り替わることから、個別対応方式による控除割合は増加する。この例では、車椅子のみの原価割合が60%から35%(つまり、25%相当は自転車製造でも使えることになった)となったことで、営業利益が300万円改善することとなったのだ。

何故なら、非のみ仕入れに係る消費税の控除額は、0であるのに対して、共通対応に振り替えられた消費税の控除額は、課税売上割合(今回は60%)部分が控除されるからだ。

60%から35%となることで、非課税対応課税仕入れは5,000万円減少し、その消費税額は500万円であったとしたばあいには、
500万円(非のみ消費税→共通対応消費税)×60%(課税売上割合)=300万
となる。

常に本当にこの取引は非のみなのかと考える姿勢と、課税仕入れを細分化するには経理部だけではなく、社内(今回は製造部)でのコミュニケーションが大切なのではないかと思慮される。

前提3

営業部からこんな提案があった。
「当社の車椅子は評判がいい。国内販売だけではもったいない。日本人と体型が近い国に輸出するのはどうだろうか。」
つまり、非課税売上である車椅子販売を海外に輸出した場合に及ぼす影響を見ていきたい。

非課税資産の輸出を行った場合には、所定の条件を満たす場合には、輸出免税取引となる。
輸出免税取引は消費税がかからないのは非課税売上と同じであるが、課税売上割合の計算上、課税売上と同じ扱いを受けるのだ。

手始めに車椅子売上2億円のうち1,000万円の輸出を開始した。
輸出品の仕様は国内と同じとして、今までと同じ場所、同じ方法で製造したものとする。

自分で作りました。
インパクトがデカすぎて驚き

課税売上割合自体は、非課税売上であった1,000万円が輸出免税売上扱いとなり、分子に入るが、金額は小さいため、60%が62%に上昇するのみとなった。

一方で、非のみ対応消費税が共通対応消費税となるため、1,200万円がそっくりそのまま入れ替わったことから、個別対応方式を選択した場合には、個別同士の比較で700万円近く多く控除が取れる結果となった(国内のみ一括と輸出あり個別では1,000万円近くの差異が生まれる。)。
実際には輸出を行うにあたって、状況が変わるため、実態にあわせて、再計算してみないと定かではないが、それなりのポテンシャルを持っていることが分かる。

一括比例配分方式は確かに楽です。経理・税理士双方に取って。個別対応方式は、やはり大変ですが、経理や税理士が会社の利益に直接貢献できる見せ場でもあります。
ここに挑戦する会社を当事務所では、全力でサポートしていきます。

一旦、消費税の話はここまでとして、控除されなかった消費税額(控除対象外消費税)は、どうなるか・・・。という話は次回に回したいと思います(長々書いていて疲れてしまいました。)。

南山圭税理士事務所のご紹介

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お問合せ | 東京都三鷹市下連雀の税理士|南山圭税理士事務所 (tkcnf.com)

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(ブログの内容についてのお問い合わせにはお答えできかねますので、ご了
承ください。)

<略歴>

  • 2011年:資格の大原 税理士試験社会人課程専任講師(所得税法)
    2014年 実力判定公開模擬試験(計算)の作問
    2015年 直前予想公開模擬試験(計算)の作問

  • 2015年:辻・本郷税理士法人 入所 
    主に法人顧問業務(中小企業から上場企業まで)に携わる
    2018年 川口東事務所の所長に就任

  • 2020年:KPMG税理士法人 入所
    資産流動化の部署を経て、M&Aの部署にて主に税務DD(デューデリジェンス)業務に従事

  • 2024年:独立開業

  • 2024年:TKC全国会 入会

<資格>

  • 税理士(合格科目:簿記論、財務諸表論、所得税法、法人税法、消費税法)

  • 2級ファイナンシャルプランニング技能士

  • 普通自動車運転免許(運転は下手なため、お飾りです笑)

<趣味>

  • 登山(低山中心です)

  • 家族で井の頭公園を散歩

最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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