ドゥーユーハブテンサウザンドエン

帰るぞ〜今すぐ帰るぞ〜と席を立った。パソコンを勢いよく閉じた。会社を出るため、出口でカードキーをかざそうとしたら、SUICAをかざしていた。おっとっとと、あわててカードキーを取り出す。

乗りたい電車まで走る。時間もわりと遅いので人気もまばらである。暑さがひけてきたので、走っても風を感じて気持ちいいくらいだ。九月、東京の夜空は静かである。心拍数があがっていく。

駅が見えた。改札まであと15メートルだ。どうやら今日は大丈夫そうだ。こちらは小走りだというのに、突然、エクスキューズミーと目の前の外国人観光客が話しかけてきた。なにやら急を要する雰囲気だったので、急停止する。

ハイ

ドゥーユーハブテンサウザンドエン

と言って、一万円札を差し出してきた。

僕はえ?テンサウザンド!?と言って、まあなんか旅行先で心細いこともあるだろうと、財布を取り出した。もっぱらキャッシュレス進行が進む我が財布の中にはワンサウザンドエンしか入ってなかった。

オーソーリーソーリーアイドントハブと言って申し訳ないが、別れを告げた。コンビニまで行って崩してあげてもよかったのだけど、僕には電車があるのだ。僕は財布を後ろのポケットにしまった。

さていよいよ改札だと青く光る接触部に勢いよくカードキーをかざした。改札は警告を発した。

さっきまで財布を触っていたのに、僕は会社のカードキーをかざしていた。疲労である。勢い余って改札に食い込み気味だったので少し戻ると、白シャツ男がなんだコイツといった表情を浮かべている。こっちだって好き好んで改札に弾かれてないのだと思いながらも、すみませんと一言告げた。

ホームに電車はいなかった。


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