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ミッドナイト・もも・クライシス

特に意味のないタイトルである。ミッドナイトクラクションベイビーに意味がないのと同様である。

桃はなんと美味しいのだろう。

何年か前、大阪に行ったときに、バーに入ったら、イチジクが出てきて、それが信じられないくらい美味しくて、美味しい果物を食べるとそれが何であれ、大阪イチジクがフラッシュバックする。

この間、北坂戸へ行った。この文章を読んでいる人のどれくらいの人が北坂戸を知っているであろう。埼玉の西のほうにある小さな駅である。

東京住みの友人を呼びよせて、埼玉で飲み会をしていた。横暴である。北坂戸を通過する少し手前で、そういえば、北坂戸って降りたことないなと言ったら、じゃあ降りてみますかと友人が言って降りてみることになった。

びっくりするくらい静かな駅だった。駅前だというのに、ほとんど誰もいなかった。降りたけどどうするかという話になった。当然である。適当に歩くことにした。特に何があるわけでもなく、民家が並び、夜空は高く、むしむしと空気は淀んでいた。信号機がちかちかするのがやたらと誇大に見えてくる。

ベトナムの食料品店があった。入ってみることにした。ベトナムの若者たちが6人ほど集まって、パーティーのようなことをしていた。鍋を振っている20代前半くらいのお兄さんが「日本人ですか」と元気に話しかけてきた。

「そうです!」とこたえると、「そうですか!」と元気に答えた。隣のもう一人のやはり若いお兄さんは、大きな包丁を大きく振り下ろして、ゆでた豚か何かをばつばつと真っ二つにしていた。

赤ちゃんを抱いた女性もいた。レジの女性に「これなんですか」と聞くと何かを説明してくれたけれどいまいちよく分からなかった。

甘いミルクティーみたいな感じの味がした。

一駅歩いた。「あんな、異国の地に来て、20歳前半くらいの人たちで集まって、料理して食べてとかやってたら、それは楽しいだろうね」と僕は述べた。友人は、「まあそうでしょうね。楽しいでしょうね」と言った。

「僕、ベトナム人に見えるって言われるんですけど、見えますかね」と友人は言った。

「たしかに、ちょっと東南アジア系にみえるかも」と言った。友人はそうですか、なるほどというようなことを答えた。

ひたすら歩いた。すれ違う人もほとんどいなかった。坂戸はキリンジの堀込兄弟の出身地だ。遥か空にボーイング音もなく どこへ行く。本当にそんな気分だ。気分だけ抱え、体から、汗がだらだら流れた。


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