病室の戸口にあらわれたもの
「アサコの裏アカあったんだけどさ……変だわコレ」
イッキのスマホを覗き込んだら、アサコが生け花してた。
「その前はバイオリン。更にその前は芸術鑑賞。変なモン食った?」
表アカウントはフォロワー目当ての自撮りに食い物、愚痴ばかり。
「こっちを裏アカにしろよ」
「ちょい待て。表と裏の投稿時間、綺麗にズレてるな。裏アカって普通、表のついでに書くもんだから投稿時間は隣接するはずだけど、数時間空いてるわ」
「相変わらずマネは変なトコばっかり気にするなあ」
「とりあえずアサコん所に行くか」
アサコはマクドでグリマスシェイク飲んでた。
「ブドウうまいわぁ」
裏アカを説明すると、予想通りアサコは知らんと言った。
「このアカの投稿が始まったのは1ヶ月前だけど、なんか心当たりあるか?」
アサコは目をパチクリさせた。
「えー、そんな昔忘れ……あ、待てよ。ばーちゃんの病院に見舞いに行ったっけ。会ったことなかったんだけどさ、意識不明でウチに電話かかってきて、母ちゃん行きたくなさそうだったから自分が行ったんだ」
「裏の投稿のあった時間、お前何してた?」
「えっと、この生け花ん時はバイトだと思う。覚えてないけど」
バイト先に電話したら無断欠勤だった。
「死にかけの婆、覚えのない投稿、そして狭まる投稿の間隔――アサコ、お前婆に身体乗っ取られそうなんじゃないか」
「へっ!?」
困惑したアサコの顔が、真剣な自分の表情を見て凍り付く。
「完全に入れ替わったら裏が表アカになるんだろう。現代の精神交換者はまずSNSから入れ替わるってか」
「でもさ、アサコ成績悪いし、ソコーもアレだしさ。入れ替わって貰った方がよくね?」
イッキをぶん殴った。
「冗談でもそんなことは言うな。お前の価値は何円なんて他人に言われてたまるか」
「いてて……マネーにならないのにマネらしくないじゃん」
「明日からタダと呼んでくれ」
顎をしゃくり、三人で店を出た。
ガシャン。
病室の扉をバットで割った。
(続く)
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