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竜狩りの槍

 掌ほどの大きさの一枚の鱗を透かして見た。輝く青が波のように寄せている。
「若竜の鱗です。専用弾を装填したライフルで貫通できました」
「中華街に居るのか、龍が。だが、なぜ狩らねばならない?」
「東洋の竜は繁栄をもたらします。中国が富み栄え、我が国を喰らう、いうなれば一種のオカルト兵器です」
「竜も形無しだ」
 俺は車から降り、華美な装飾を施された長槍を引きずり下ろした。
「手に馴染まん」
「聖ジョージの槍です。傷一つ無くお願いします」
 俺はその場で槍をへし折りたい衝動を抑え、彫刻の天使の顔を橋の欄干に擦り付けた。
 中華街では人の戦闘は既に終わっていた。肌色を問わず死体が転がっており、翌日には理屈は知らんが隠蔽されるだろう。
 血の匂いの最も濃い建物に入る。殺風景なのは外側だけで内部は神殿だ。特殊部隊は俺の予想よりは勇敢で、数人が玉座(文字通り玉の椅子だ)まで辿りつき、肉塊になっていた。 
 青竜は雨を降らせるという。屋内だというのに俺のコートを刺すような雨が襲う。いや、「ような」ではない。コートに穴が開いた。奴は雨で人が殺せるのだ。
 長槍を人の背ほどもある竜の口に投げつけた。長槍は竜の顎に噛み潰される。その瞬間、俺は竜へと走り、コートの裏から短槍を取り出した。何の謂れもないただの鉄の槍だ。雨が血に濡れるのを感じながら、俺は竜の鱗に槍を突き立てた。
 生きた竜の鱗はライフルなどでは貫けない。竜を仕留めるのは、獣の命を奪うのは自分だという狩人の意思だけだ。俺の槍は竜の仙気を上回った。不砕の鱗が砕け、肉を割き臓腑を抉る。竜の目から光が消えた。
 血みどろの俺は神殿を出た。外は信じられないほどの荒天だった。
 「爆弾低気圧です、いやこれは――」
 川に巨大な蓮の葉が浮き、妙なる香りを漂わせていた。溢れ出る仙気が場を染め変化させている。
 「あの竜は子か。ならば」
 俺は欄干から飛び降り、蓮の葉の上に乗り、槍を構えた。
 成竜が嘶きを上げる。

(続く)

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