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ニンジャスレイヤー第四部とデス・ストランディングから見る21世紀の一側面——磁気嵐の晴れた世界 と カイラル雲で覆われた世界—

はじめに
 ニンジャスレイヤー第四部(以下AOM)とデス・ストランディング(以下DS)は、敢えて現実世界とはかけ離れた世界設定を持つ架空の世界を題材とすることで、逆説的に2010年代後半の現代性・時代の空気を切り取り描写した作品であり、その世界設定には共通点が数多く見受けられる。
今回の研究では、AOM世界・DS世界の相違点を探ることで、両者が描き出そうとした現代社会の有様に迫りたいと思う。

1.世界観の相違点
 AOM世界とDS世界は共に基本的に現代社会の延長線上に存在する社会である。
 AOM世界は歴史の背後にニンジャが存在しており、特にニンジャが世界を牛耳っていた平安時代は現実世界のそれと大きな違いが発生していたものの、それ以降の歴史は、西暦2000年に2000年問題が発生するまで、おおむね現実の歴史の流れに相似している。
 一方、DS世界は、ゲーム開始の数十年前にデス・ストランディング現象が起き、アメリカ合衆国が寸断されるまでは、現実の歴史とほぼ同じ状態だったと作中情報から推測できる。
 まとめると、両世界は特異点となる現象が発生するまでは、裏に隠された真実は存在するものの、現実世界と相似した流れで歴史を積み重ねており、現代文明の産物の影響を受けた上で、特異点以降の現実と異なる展開から独自の思想や社会を発展させている。
 また、AOM世界は現実世界との乖離が始まる特異点(ニンジャスレイヤー第一部より以前)の後、第四部の開始直前に再び大きな世界構造の転換点が発生し、その結果、磁気嵐が晴れ日本の鎖国状態が解決したり、ニンジャソウル憑依現象が更に活性化したり、各地の休眠中のリアルニンジャが活動を再開したりするなど、それ以前とは異なる様相の世界に変化している。
 AOM世界が世界中を自由に往来できるよう過去から変化した一方、DS世界はカイラル雲という電波など通信手段を遮断する存在がアメリカ大陸を覆い、外部との連絡・通行が一切不可能な世界と化しており、ちょうど真逆になっている。AOM以前の世界すら、多くのコストを支払いながらも磁気嵐を抜けて飛行機を飛ばす手段があったことを考えると、より徹底した断絶と言えるだろう。

2.特異点となる現象
・AOM世界:2000年問題でIRCネットワークとオヒガンが重なった影響で死者のソウルがコトダマ空間を通って現世に帰還する現象が大量発生した
・DS世界:死者の世界との接点と目される絶滅体が現世に出現した影響で、死者のソウルがビーチを通って現世に帰還する現象が大量発生した
 両世界が現実世界と乖離した特異点となったのは、死者の世界と現実世界が交錯した現象であり、この点はぴたりと一致している。その結果、両世界とも死者の霊が現実世界に再臨するという特殊な現象が発生しているのも同じだが、両世界の差異として、AOM世界では現世に再臨したのは強力なエゴを持つニンジャのソウルだったのに対し、DS世界ではごく普通の人間の魂が再臨している点が挙げられる。
 この差異の結果として、AOM世界ではニンジャソウル憑依現象が発生し、ニンジャソウル由来の超常的能力を奮う人間が発生し、一方、DS世界では臍帯と呼ばれる紐状の器官で辛うじて現世にしがみつくBTという存在が一定の地帯に出現するようになった。
 ニンジャソウルとBTの違いは、霊魂の持つエゴの強さが両存在の存在強度として現れたものだと推測できる。ニンジャソウルは現世の人間と結びついて憑依現象を起こせるが、BTは手形をベタベタとつけたり、見つけた人間に集団でまとわりつくなど、現世の人間と繋がろうとする本能はあるものの、憑依現象は起こせない。また、ニンジャソウルは個人で存在するものだが、BTは合体して巨大な獣や海獣の姿になることもあり、これもエゴの脆弱性故の特性だろう。 
 そして、両世界とも科学的なネットワークによってオカルト的な死後の世界にアクセスできるようになったという点も共通している。AOM世界では2000年問題とそれに伴うUNIX爆発四散による技術断絶・技術者激減の後、ハッカーがネットワークを通じコトダマ空間にアクセスする能力を獲得したが、DS世界では絶滅体と何らかの形で接触した人間がDOOMSと呼ばれる特殊能力者となった。DOOMSはニンジャではないものの、後述するカイラル粒子への抵抗力を持ち、BTの感知・干渉能力やビーチを介したテレポートなどの特殊能力を発揮す者すらいる。特にビーチを介したテレポートに関しては、テレポートのアクセスポイントが機械か人間かの差はあるとはいえ、ニンジャスレイヤー第三部のエシオが見せたUNIX間移動とほぼ同一の原理と言って差し支えないだろう。
 もっとも、ハッカーは自らのタイピング能力とコトダマ空間認識能力で超現象を起こしているのに対し、DOOMSは後述するが上位コトダマ空間干渉能力者と言える絶滅体との接触によってその能力を行使しており、原理としてはアルゴスとペイガンの関係に近いのではないだろうか。つまり、絶滅体に現象の発生のエミュレートを行ってもらう権限の保有者というわけである。

3.カラテとカイラル
・AOM世界:世界の一新と共に謎の鉱物エメツが新素材として注目を集めるようになった。エメツの色は黒色。
・DS世界:世界の一新と共に謎の鉱物カイラリウムが新素材として注目を集めるようになった・カイラリウムの色は黄金色。
 両世界の大きな共通点の一つとして、人間の精神の結晶とも言える新鉱物が大規模に算出するようになり、新技術の発展に大きく寄与している点が挙げられる。
 AOM世界ではエメツ、DS世界ではカイラリウムと呼ばれる新鉱物は、その原理の全容は把握されていないものの、半重力装置・通信・ワープなど様々な新技術の開発に寄与し、これらの産物の利用に欠かせない存在となった。
 これらの新鉱物は人間の持つエゴと深い関わりがあり、実際AOM世界では個人の持つエゴ=カラテ伝導率が異常に高い物質として知られており、エメツ抽出の悲惨な光景が作中で描写されている。一方、DS世界ではBTがこのカイラリウムを保持しており、エゴ=カラテによって現世に留まっていることが推測できる。
 また、DS世界では時雨という、触れたものの時間を急速な速度で経過させる雨が発生しており、物質を安定して設置することが極端に難しくなっている。この時雨による劣化の有効な対抗手段がカイラリウムであり、時間の経過に抗う朽ちざるものこそ人間のエゴ=カラテであるというメッセージが読み取れる。芸術や文学作品などを通して、個人のエゴが時を超え遺り続けることを暗喩しているよう思える。なお、時雨は雷発生時の高エネルギーを帯びたカイラリウムが時間加速の作用をもたらしているのではないか、という説が作中では提示されている。例えるなら喧噪の中で忘れられている故人のようなものだろうか。

3.狭間の空間
・AOM世界:個人は自らの持つローカルコトダマ空間を介してグローバルコトダマ空間に接続している
・DS世界:個人は自らの持つ下位ビーチを介して上位ビーチに接続している
 コトダマ空間とビーチは彼世と現世を繋ぐ狭間の空間という共通点がある。ビーチの名前の由来が彼岸・此岸であろうことは想像に難くない。更なる共通事項として、コトダマ空間もビーチも個人に属する空間(ローカルコトダマ空間・個別ビーチ)が存在し、そこからより広大な空間(グローバルコトダマ空間・上位ビーチ)に繋がっていること、強力な意思を持つ存在や集団によって共有空間が発生することがあること、個人空間は属する個人の心象と密接な関係にあることなどが挙げられる。また、これらの空間は時間や物理法則を無視することができ、AOM世界ではウキハシ・ポータル、DS世界ではカイラル通信など、その特性を生かした新技術が開発されている。
 そして、両世界ともに狭間の空間全体に干渉することができる上位空間が存在することが最も重要な共通点と言えるだろう。AOM世界は未だ完結せざる物語なので、現時点での推測に過ぎないが、コトダマ空間に浮かぶ黄金立方体が上位空間と考えられる。一方、DS世界では上位空間は明確であり、絶滅体に所属するビーチが上位ビーチである。絶滅体は言うなればサーバー全体の管理権所有者であり、先述の通り、DOOMSは絶滅体を通して現世の法則を捻じ曲げることが可能になる。
 また、絶滅体は肉体と魂が別々の存在として現世・ビーチ両方にあるという特殊な人間だが、これはたびたび肉体と魂が乖離するナンシー・リーと重なるところがある。AOM世界ではナンシー・リーの本格的な復帰はまだ始まったばかりだが、その魂の行きつく可能性であろうバーバヤガは既に過去の部で登場しており、バーバヤガには現世とコトダマ空間で見た目の年齢に差異が発生しているという絶滅体との共通点も見受けられる。もっとも超絶的ハッカーであるバーバヤガにとって外見はその気になれば自由に変更できるものだが、逆説的にその姿に必然的な意味が存在することが推察できる。

まとめ
AOM世界とDS世界は偶然の一致では済まされない数多くの共通点を持つが、その共通項をまとめると、個人のエゴとより大きな意識との接続、高度に発達した科学とオカルトの交わり、彼岸・此岸の中間点へのアクセスによる両岸の境界の曖昧化などが挙げられる。
 これらは個人が強力な発信力を持つようになった一方、もっともらしい虚報に踊らされ真実がないがしろにされる状態が横行していることや、社会のクラスタごとの分断、アイデンティティと過去との乖離と再発見、新解釈などを背景にした「現代性」をシナリオに導入する試みではないだろうか。
 (作者・翻訳チームに不幸がない限り)AOM世界はこれからも続いていき、より深化した情報が明かされ、この稿も訂正する必要が生じる可能性は少なくないだろう。DS世界も「細片化された情報を繋いで全体を把握する」という理念から、ゲーム内設定情報はばらけており、今後再確認で新しく発見したり勘違いが発覚したりすることも考えられる。夏休みの自由研究という一過性の思考実験ではあるものの、今後も継続して考察していきたい課題である。

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