骸骨を乞う
「帝国憲法によって信仰の自由は保障されております。従って、貴殿の『息子の霊を神殿で祀るな』というご要望にはお応えできません」
「馬鹿な!確かに、我らが一族は帝国に戦力を提供する契約をした。だが、死後の作法まで貴様らに委ねたわけではない!」
神殿官は眉一つ動かさない。
「帝国は貴民族の信仰を尊重しております。葬礼を邪魔することはありません。同様に、我らは帝国のために命を捧げた忠勇なる霊を祀り――」
「貴様らの礼拝もどきを受けて、倅が神の国へ行けるか!」
族長は激高した。
「葬礼を邪魔するなというなら、なぜ倅達の遺骨を返さない!」
「遺骨は衛生上の理由で国立施設内で然るべき礼遇を受けることになっております」
「話になるか!」
投げ捨てられた神殿官は、それでも態度を崩さない。
「帝国は周辺諸民族の長兄として、貴殿らに文明の恩沢を施すのが使命というもの。納得はできないかもしれませんが、いずれはご理解頂けると我々は信じております。お帰りはあちらです」
その神殿は白一色ながらも、信仰の場というにはいささか華美な装飾が目立っていた。
「兄者、準備はできた」
枚を噛ませた軍馬と屈強な男達が、神殿を密かに包囲していた。
男達はいずれも既に壮年を過ぎており、髪に白いものが目立つ者も少なくない。
「うむ。……皆の者、これは帝国への反旗に非ず。文明とやらに辱められた我らの家族の尊厳を取り戻すための挙兵。略奪などは厳に慎め」
一同は無言で地面を石突で鳴らす。
「死者を足蹴にして金に埋もれる宗教屋に思い知らせよ、貴様らが売り物にしているのは我らの精と血の結晶であることを」
「なんだ、これは」
神殿の廊下には、武器を構えた人影がずらりと並んでいた。
一瞬、空気が凍り付く。だが、その人影は身じろぎ一つしない。
逡巡の後、近寄ってその姿を見据える。
その人影は骸骨であった。
「ぐわっ!」
悲鳴をした方を振り向く。
骸骨の構えた槍が兵士の腹を突き破っていた。(続く)
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