[イベントレポート①][書き起こし]『MONOS 猿と呼ばれし者たち』公開記念トークショー
『MONOS 猿と呼ばれし者たち』の公開を控えた10月12日、代官山のサイレントシアター「シアターギルド」で特別上映会が開催され、上映後にはBase Ball Bearの小出祐介さん、映画音楽作曲家で演奏家の世武裕子さん、映画評論家の森直人さんが登壇した公開記念トークイベントが行われました。映画の見どころからミカ・レヴィの音楽まで、大盛り上がりのトークの模様を一部書き起こしでレポート!『MONOS』を観る前でも観た後でも、ぜひご覧ください。
ゲスト:小出祐介さん(Base Ball Bear)
世武裕子さん(映画音楽作曲家/演奏家)
進 行:森直人さん(映画評論家)
森直人さん(以下、森):実はお二人とは、ちょっと前まで「M-ON! MUSIC」の「みんなの映画部」という連載で、私はまとめ係という形でご一緒していて。でも小出さんとお会いするのは数年ぶりですね。
小出祐介さん(以下、小出):7年くらい連載してて、初回と真ん中くらいで1回みたいな…。
森:ですよね。大分ご無沙汰してしまいました。世武さんとは初めましてですね。
世武裕子さん(以下、世武):はじめましてですね。
森:お会いするのを楽しみにしておりました。ではでは、色んなお話をしていきたいと思いますが、まず改めて『MONOS』いかがでしたでしょうか。じゃあ小出さん…。
小出:すごい好きだなと思いました。
森:最初に言っちゃいますけども、大傑作だと思うんですよね。
小出:ですよね。今日はヘッドフォンで観て、音もサントラもいいなと思ったし、素晴らしいなと思いました。
森:世武さんはいかがですか?
世武:私は、だいたい小出くんと映画の意見が割れるんですが(笑)、この作品はめちゃくちゃ好きでした。「みんなの映画部」で年末にいつもベスト映画を出してたんですが、もしやっていたら年間ベストに上げてた可能性があるっていうくらい好きでした。
森:ざっくり、魅力はどこにあると思いますか?
世武:説明するのが難しいんだよなぁ(笑)
森:印象に残ったところでも。
世武:すごいリアリティがあるというか、地獄みたいなものを描いてますよね。音楽も、普通は違和感のないように作っていくんですけど、思いっきり自分のお家芸です、みたいなことをやっていて。煽りもすごいし、わざと映画をぶった斬ってるみたいな。あと、色彩もわざとやっているように感じました。もちろんこの場所には行ったことがないので、実際に生で見たら分からないですけど、おそらく作り込んでいるんじゃないかな、と。でも狙い過ぎた感じはせず、インテリジェンスと野生的なもののバランスがいいと思いました。
小出:モノスたちの背景や舞台設定がまるでどうでもいいもののように作られていることで、彼らの中で何が起きるのかという部分に、よりフォーカスが当たっているように感じました。僕が観ていて感じたのは、これは猿山なんだなと。冒頭、メッセンジャーがいなくなった後で、ウルフっていうボスザルをトップにした秩序が始まりますよね。だけど、ウルフは責任を感じていなくなってしまう。そしてトップがいなくなった結果、いよいよ秩序が乱れて、そこで何が起きていくのかっていうことが描かれている。そういったことを、こういう色彩と音楽で描いているのが、非常に面白かったです。
森:たしかに、描写としてはある種リアリズムに近いものがありつつ、南米文学や映画にあるマジックリアリズムのような、めまいのするような映画体験だなと思いました。コロンビアの少年兵というリアリズムを基盤に、寓話的なものを描いているのかなと。一方で世武さんが仰られたように、明らかに作り込んでもいますよね。
森:シーンとかで気になったところはありますか?
小出:もう一度観て改めて思ったのは、最後の川下り、あれ本人たちにやらせるには激しすぎない?っていう(笑) 大丈夫?っていうくらい急じゃないですか。あれやばいですよね(笑)
森:殺そうとしてるのか!(笑)
小出:画面の下に「特殊な訓練を受けてます」って出してもらいたいくらい、すっごい激流!って思って。
森:しかもガチっぽいですもんね。VFXとかそういう世界ではないじゃないですか。ロケーションの世界なので。
小出:スタントっぽくなかったですよね。あれ自分が俳優さんだったら役とはいえ「ちょっと!早くないですか!」ってなると思います。
森:生っぽい感じが、そういうところからも出てるんでしょうね。世武さんはいかがですか?
世武:最初に観た時は、人類の進化みたいな、あそこが好きだなと思ったんですけど、今日観たら、衝撃的で象徴的なシーンより、民家のシーンとかそういう細部の方が気になりました。そういう一個一個の画作りがしっかりしてると言いますか。細かい作りが面白いというか。
小出:画をしっかり作ってる感、すごいですよね。一個もペターっとしてるシーンがない。
世武:分かる!そう、なんか残念なとこがない。
森:少年たちのサバイバルということで、この影響下にあるのがゴールディングの「蝿の王」なんですけど、たとえば「ハンガー・ゲーム」とかあるじゃないですか。ちょっと最初思ったんですよ、ティーン・サバイバルものの感じが「あれ、これハンガーゲームかな」って(笑) でも終わってみて、ハリウッド映画との違いって、要は今世武さんが仰られたことですよね。細部の詰まり方がすごいなと思って。表象としては出さないけれども、各シーンがどういう意味を持つのか、監督の中でしっかり出来上がっている気がする。かといって理詰めの窮屈な感じもなくて。野生味とか野蛮な感じが、肉体性をもって勢いよく解き放たれている。それはさっき小出さんが仰った川下りのシーンの「これ大丈夫か?」っていうのにも繋がると思うんですよ。本当に欠点がないなって思います。
森:音楽はいかがでしたか?
小出:ミカ・レヴィさんの『アンダー・ザ・スキン』のサントラどうだったかなと思って聞き直したんですけど、結構共通点あるなと思いました。これ世武さんに聞きたかったんですけど、頭から最後まで同一モチーフを用いてるじゃないですか。『MONOS』も、笛の音とか、アナログシンセのシュワンシュワンシュワンとか(笑)が、序盤からずっと効果的に使われていて、それの組み合わせとか、変奏的なもので展開していくっていう音の作り方。『アンダー・ザ・スキン』も、結構そういう感じですよね。こういう音の作り方を、ミカ・レヴィの作家性って言っていいんですか。
世武:そこ難しいですよね。全然夢のないこと言いますけど、例えば『アンダー・ザ・スキン』のサントラが評価されたじゃないですか。で、そのあと『ジャッキー』がきたんですよね、割と同じような感じ。もう少しオケっぽいけど、シンセのザンザンザンザンって言うの、好きですよね。彼女がおそらく得意っていうのも一個あると思いますけど、ある映画で一回いいって評価されたら、「そういうのやって下さい」って絶対言われると思うんですよ(笑) 全然夢のないこと言いますけど(笑)
小出:発注がね(笑)
森:それなんか実感こもってますよね(笑)
世武:(笑) 分かんないですけど、でも彼女がちゃんと得意だとは思います。ヨルゴス・ランティモス監督の音楽もいつも同じパターンじゃないですか。構造としては、ミカ・レヴィと一緒なんですよね。3つくらいのモチーフがあって、それがだんだん一緒になってきて、グチャグチャってなっていくにつれて、映画のテンションも上がってくような作り方。これは予想ですけど、一時期からハンス・ジマーがめちゃくちゃきて、音響系のが流行りましたよね。で、そろそろ違う波がくるっていうのはハンス・ジマーも感づいてると思うんです。だから『007』とか、ああいう感じになってきたんじゃないかと。おそらく、そこの波を読んでると思うんです。ランティモス作品もだし、クリフ・マルティネスはヨーロッパの人じゃないですけど、あと『ジョーカー』を手掛けたチェリストのヒドゥル・グドナドッティルとか、ミカ・レヴィといったヨーロッパ勢が出てきて、この作り方がだんだん流行ってくると思います。サントラは絶対波があるので。
森:ミニマムですけど派手は派手ですよね。不思議だなって思ってました。同じパターンを繰り返しつつ、楽器を変えていたり、流し方を変えていたり、組み合わせを変えていたり。『アンダー・ザ・スキン』も『ジャッキー』もですけど、映画音楽の印象としてはけっこう鳴っているなぁと。
小出:それでも音数でいったら、全然少ないですよね。
森:印象と実際はちょっと違うってことですよね。
世武:こういうミニマルな音楽でやりきろうとすると、やっぱり脚本と画力がないと続かないんですよ。ヨーロッパに留学してたからっていうのも多少あるかもですけど、私も元々そういうタイプでミニマルにいきたいんです。ただミニマルにいこうとすると、画と演技と脚本で相当もっていかないと、全然続かないんですよね。結局音楽で物語を作って足して、もっていかないとだれるんです。『ジャッキー』や『アンダー・ザ・スキン』も印象的な画作りと脚本と構成じゃないですか。ミカ・レヴィと仕事をするのであれば、本編がちゃんとしてないときついかなと思います。
森:監督のほうが試される…。
世武:とにかく彼女の音楽って、気持ち悪い感じにさせますよね。もっと嫌なことが起こるんじゃないかって思わせる。依頼されてそういう音楽を作ってるんじゃないかって先ほど言ったものの、やっぱり彼女の発想で、この映画にはどうするかって考えて作っていると思うので、やっぱりセンスがすごいですよね。そして何よりもパンク精神がある。意に対して、私はこうするけど?っていう。自分の存在感が強い人。作家性が強いというか。
小出:映画にサントラつけてって言われて、あのシンセの音だけ出すのって、ちょっと怖い気もするんですよね(笑)
世武:いや、でも想像してみると、めちゃくちゃテンションぶち上がってるだろうなと。このクオリティの映画のオファーがきたら、本当に「これ作ったら死んでもいいよ」って気持ちになる気がします(笑)
森:ご自身だったらどうやるみたいなの思ったりします?映画観ながら。
世武:実は、来年公開する映画のサントラで、この映画みたいなことをしようとしてたんです。最終的にはもうちょっと、みんなが知ってる劇伴に寄ってるんですけど。でも割とシンセとかグォーみたいな感じでやってて。で、『MONOS』観た時に、めちゃくちゃすごい!!ってテンション上がった一方で、悔しいっていうのもありました。でもその悔しさが、前向きな悔しさというか。「そうよ、こういうのがやりたかったのよ!」みたいな気持ちでした(笑)
小出:映画音楽作ってる人の話、めっちゃ面白い(笑)
森:小出さんは、映画を全体的に分析してご覧になるじゃないですか、映画音楽ってことで特化すると、なんかまた違った視点があったりするんですか?
小出:そういう意味でいうと、失礼な話ですけど、映画音楽が気になったことがあまりないんですよ。映画部で観終わったあとに、皆けっこう音の話をしてて。音楽映画とかならまだしも、普通の映画でも話していて「すごいな!」と思って。みんなミュージシャンじゃん!と(笑)
森:小出部長は、作品のバックボーンになっている背景とか、情報的な部分を詰めて語られるなという印象がありますね。
小出:だからこそ、背景がぼかされている映画で面白いっていうのが、あまりないんですよ。この背景に何があるんだろうと考えたり、調べたりしながら観ているので。でも『MONOS』について、これだけぼかされてて面白いと思うのは、根本的な構造がまず面白いんだろうなと思いました。
世武:だから珍しく意見があったんだ(笑) これがもう少しクオリティ低かったら、ここ意見割れてるよね。
森:では最後に見どころを。
小出:僕は意外と、そんなに観る人を選ばないんじゃないかなと思って。
森:ハイブロウなようで、そうでもない。
小出:いわゆる万人向けに作られているものではないけど、見てみたら、ちゃんと誰にでも刺さるような。深掘りして観ることもできるし、映像や音といった観点からアート的な見方もできると思うし。開かれた映画なんじゃないかなって思います。この監督の次の作品も気になりますね。
世武:『ミッドサマー』とかA24の映画って、普段映画を観に来なかった層が来てバズってたじゃないですか。でもあれも万人が観るような映画じゃないし、気持ち悪いっていう人もいっぱいいましたよね。でも結果として、沢山の人が観て、それについて話したくなっていた。『MONOS』もそういう映画だと思います。あと、邦題は柔らかめにしたのかもしれないけど、この原題の『MONOS』って、「猿」って言いきっちゃてる感じがすごい好きで……。広く刺さるにはどう言ったらいいの(笑)
小出:今の世武さんの言い方でも十分観たくなったよ(笑)
森:本日はありがとうございました!
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