顔自動販売機(毎週ショートショートnote参加)
駅前の自動販売機で死んだ姉の顔を買い、母のいるホームへ向かう。
依存していた姉を亡くしてから、母は私を姉の名で呼ぶようになった。
「まぁちゃん、まぁちゃん」
出来が良く、自慢の娘だった姉
いつものように、とうに亡くなった姑の悪口やホームの人の噂話をしていたかと思うと、テレビの話。とりとめなく話し続けるのを、姉がしていたように適当な相槌を挟みながら聞いてやる。
一通り話し終えると、
「まぁちゃん、ユキはどうしてるかしら」
急に自分の名前が出てくると、今でもほんの少し胸がズンとする。
「ちっとも顔を見せないのよ、また変な男と付き合ってるんじゃないかしら」
私がその男と別れてからもう何年も経っているのに、母の中では私は永遠に駄目な娘のままだ。
「最近はちゃんとやってるみたいだから大丈夫、そのうちきっと顔をだすわよ」
姉ならこう返すであろう言葉が、近頃は考える前に口からツルツルでてくるようになった。
帰りに私の顔を買って帰らなくちゃ。
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