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【ss】騙し絵  #青ブラ文学部

#青ブラ文芸部  企画
#始まらずに終わった恋  

注意 : 一部に軽い性的表現があります



「元セフレがAV監督になったんだって」

何度も誘ってようやくランチデートに漕ぎつけた、真面目で地味可愛いミナちゃん。そんなミナちゃんの口から飛び出したパワーワードにフリーズする俺。

《ん? セフレ? AV? なんのお話?》

「SM界最後の星とか言われてるんだって」

《SM!! 畳み掛けてくるじゃん!》

情報の濃厚さに茫然自失の俺を無視してミナちゃんは続ける。

「いいよねー何とかの星って生涯一度は言われてみたい」

「う、うん」

かろうじて返事を返したものの混乱はまだ収まっていない。澄ました顔でアイスカフェラテのストローを咥えているミナちゃんの口元が急に気になって、真昼間のカフェだというのにソワソワが止まらない。

前の職場の先輩だったその彼とは、割り切った関係だったらしい。15歳年上のぽっちゃりさんだったと聞いた時には動悸が激しくなり、頭を掻きむしった。

ミナちゃんが離席した隙に検索してみると、鼻フックで天井から吊るされている女性のパッケージ画像が出てきた。

想像の100倍ガチのやつだった。

《ノックアウトや…》 

戦意は完全に喪失した。

ミナちゃんが戻ってくるのが見えたので慌ててスマホを閉じる。席に座ったミナちゃんは再び語り出した。

彼には同棲中のキャバ嬢がいたこと、それを聞いてもなんとも思わなかったこと、行為はけっこう“普通”だったこと。
でも普通の線引きってよくわからないよね。
だってさ。

もう、相槌も返せない俺を前にしてミナちゃんは更に続ける。

「そういえば、一度ホテルで寝落ちしたことがあってね、叩き起こされるかなと思いながらも睡魔に勝てずにいたら、シャワーから出てきた彼がそっとオデコにキスしたんだよ」

《アーソウデスカ》

「ドブに咲く一輪の造花みたいな話だよね、これが唯一の思い出だなんてやっぱり普通じゃなかったね」

ミナちゃんはそう言って、老婆にも天使にも見える騙し絵みたいな顔をして笑った。

この話が嘘で体よく振られただけなのか、はたまたミナちゃんからの挑戦状だったのはわからないけど、ミナちゃんとは結局それきりになった。

数年後、ミナちゃんは同期の荒木と結婚した。荒木にもあの話をしたんだろうか、だとしたら、荒木なんかすげーなと俺は密かに荒木を尊敬している。


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