日本が1人あたりGDPが韓国下回る理由ー円安、構造改革、そして今後の課題
日本の1人あたりGDPがOECD諸国内で相対的に順位を下げ、韓国よりも低い水準になっている背景としては、以下のような経済的・構造的要因、そして政治的要因が複合的に作用していると考えられます。
1. 為替要因(円安)
• ドル換算GDPの目減り
1人あたりGDPをドルベースで比較した場合、日本の順位が低下している大きな要因の一つは円安の進行です。2019年に1ドル=109.01円だった為替レートが、2023年には140.5円に達するなど、円安が大きく進んだことで、ドル換算したときのGDP額が相対的に下がり、ランキングを押し下げています。
2. 国内の構造的な低成長
1. 長期にわたるデフレと経済停滞
1990年代初頭のバブル崩壊以降、長期的な低成長とデフレが続いた結果、名目GDPの伸びが他国に比べて著しく小さくなりました。
2. 少子高齢化と労働力人口の減少
人口構造の変化に伴い、生産年齢人口が減少し、国内需要や労働供給に限界が生じています。これらは潜在成長率の押し下げ要因となり、経済の活力を削いでいます。
3. 新陳代謝の遅れと生産性の課題
デジタルやサービス産業など成長分野への投資、人材育成の遅れが指摘されています。既存産業が依然として大きな比重を占める一方で、新分野へのシフトが進まず、生産性の向上が限定的になっている面があります。
3. 他国のGDP上方修正や成長要因
1. 韓国のGDP算出基準改定
韓国は2023年6月、GDPの算出基準を見直し、過去分も含めてGDPを上方修正しました。これにより日韓の順位が逆転し、日本の順位低下が一段と顕在化しました。
2. 世界の高成長分野との比較
アメリカやイスラエルなどイノベーションやデジタル技術に強い国、あるいは欧州各国のサービス産業の拡大と比べると、日本では新規産業への移行が比較的遅れているため、GDP成長の差が生まれやすい状況です。
4. 賃金水準の伸び悩み
1. 物価上昇に対し賃金が追いつかない
日本では名目賃金の上昇が緩やかで、個人消費の拡大が制限されがちです。消費の伸び悩みは企業の売上拡大に波及しにくく、結果的に名目GDPの伸びも抑えられます。
2. 企業収益と人件費の問題
国際競争力を保つため、企業が人件費を抑制し続けた結果、従業員の所得が伸びにくくなり、内需の活性化を阻害する要因になっています。
5. 政治的・政策的要因
1. 構造改革の停滞
バブル崩壊後、金融・産業・規制分野の改革には取り組んできたものの、抜本的な制度変更は十分に進まず、硬直的な労働市場や複雑な規制が新興産業の成長を妨げています。
2. 少子高齢化対策の遅れ
移民政策や出生率向上策など、人口減少に歯止めをかける施策が十分な成果を上げられていないため、将来的な労働力の確保や国内需要の底上げが困難となっています。
3. 財政支出の構造的制約
高齢化に伴う社会保障費の拡大や財政赤字の膨張により、研究開発・教育など成長に直結しやすい分野への投資が限られ、イノベーションが育ちにくい環境に陥っています。
4. 金融政策への評価
日本銀行の超低金利政策は企業の資金調達コストを下げるメリットがある一方で、インフレ率の引き上げには結びつきにくく、名目GDPの拡大が限定的にとどまりました。また、近年の急激な円安は輸出企業にはプラスに働くものの、ドル建てGDPを下押しし、輸入コスト増による国内消費への影響も懸念されています。
まとめ
日本の1人あたりGDPがOECD諸国で順位を下げ、韓国を下回るに至ったのは、急激な円安によるドル建てGDPの目減り、長期的なデフレ・少子高齢化などの国内構造要因、そして韓国のGDP算出基準改定による上方修正などが複合的に重なった結果です。これらの課題は、短期的な政策対応だけで解決できるものではなく、産業構造の再編や労働市場改革、研究開発投資の拡大、少子高齢化対策の抜本的強化など、長期的かつ総合的な取り組みが求められています。