日本の水道水、全国汚染調査(PFAS)
概要
発がん性が指摘される
有機フッ素化合物、
「PFAS(ピーファス)」
の汚染実態を把握しよう
と、政府が水道水の全国
調査に乗り出した。
米国は今年、世界的にも
厳しい水準の飲み水の濃
度基準を設定するなど、
地球規模で対策の強化が
進んでいる。
そんな中、
日本の内閣府は、
①出生時の体重低下、
②ワクチン接種後の
抗体低下
との関連が
「否定できない」
とする国内初の
「評価書」
を決定した。
それを受けて、
国は、
「暫定目標値」
の見直しを議論する
のだが、どこまで
迅速かつ適切に対応
できるかが論点とな
る。
欧米で規制強化
PFAS(ピーファス)は、
自然界では、ほぼ分解
されず、生物の体内に
蓄積されやすいため、
「永遠の化学物質」
とも呼ばれる。
そんなPFASだが、
その有害性が明らか
になり、欧米では
「飲料水の規制」
を強化した。
また、
米環境保護局は
今年4月、
PFASの代表的物質
である
PFOA(ピーフォア)、
PFOS(ピーフォス)
について、
1リットル当たり
計70ナノグラム
=PFOS+PFOA
(ナノは10億分の1)
としてきた勧告値を
順守の義務もある、
各4ナノグラム
=PFOSが4ナノ
グラム
=PFOAが4ナノ
グラム
の規制値に改めた。
一方、日本では、
水道水や河川の
暫定目標値
について、
PFOAとPFOSの
合計で、
1リットル当たり
50ナノグラム
としている。
ただ、
各地の水道水や
河川、地下水などで
これを超過する検査
結果が出ており、
住民から不安の声が
上がっている。
証拠不十分・影響不明
国が、実施を始めた
水道水調査の対象は、
蛇口から出る水
などで、
令和2年~6年度に
検出された最大濃度
や、それに関連する
浄水場などである。
最終的に、
目標値を超えた場合
の対応や
検査していない場合
は、
理由や今後の実施予
定について、回答を
求める方針である。
言うまでもないが
小規模な
簡易、専用水道
にも対象を広げた、
とのことである。
冒頭で記したので
重複するが、
内閣府の
食品安全委員会は、
PFASの健康影響に
ついて
初の評価書を決定
した。
その内容だが、
肝機能への影響、
脂質代謝の異常、
ワクチン接種後の
抗体低下、
出生時の体重低下
について、
「関連は否定でき
ない」
としたものの、
「証拠が不十分」
「影響は不明」
などとした。
加えて、
発がん性については、
PFOA
と
腎臓がん
等との関連を示唆
する研究はあるが、
「証拠は限定的」
とし、
PFOS
と
腎臓がん
等との関連は
「証拠は不十分」
とした。
それから、
人が1日に摂取する
許容量は、
PFOSとPFOAに関し
て、それぞれ、
体重1キロ当たり
20ナノグラム
とした。
正確な情報と的確な調査
健康影響を巡り、米国
の学術機関は、
PFAS・7種類の合計
が血液中で
1ミリリットル当たり
20ナノグラム
を超えると、
「リスクが増す」
と指摘した。
そんな中、
世界保健機関(WHO)
傘下の研究機関は、
PFOAの発がん性評価
を引き上げ、4段階中
で最も高い
「発がん性がある」
グループに分類した。
このような世界の
動向に対して、
環境生理学を専門
とする
群馬大の副学長は
「PFASが、人体に
どういう影響が
あるのか?
実際には、
作用メカニズムが
不明なのが現状」
とした上で、
国の水道水の調査に
ついて、
「重要なのは高濃度
の汚染源を特定す
ることと、数値を
集め、公開して
国民の信用を得る
ことである」
と指摘する。
また、
住民に対しては
「水道水のPFASは
活性炭やフィルタ
ーで対応できる。
皮膚からは吸収さ
れないため、
風呂や洗い物に利
用しても問題はな
い。
パニックにならず、
正確な情報にもと
づいて恐れるべき
だ」
と説明した。
岡山県、住民血液検査へ
国内ではこれまで、
水道水や河川などで
国の暫定目標値を
超える濃度のPFAS
が検出され、
各自治体からは国の
対応の不備を指摘す
る声が上がっている。
「非常に高濃度で驚い
たし、健康に影響は
あるだろうと思っ
た。」
岡山県吉備中央町で
発足した住民団体の
A代表は、そう振り
返る。
昨年、同町の
円城浄水場で、
PFOSとPFOAが、
国の暫定目標値を
大きく超える
1400ナノグラム
検出されたことが
判明した。
原因は、
上流地域に置かれた
約600袋の使用済み
活性炭
とみられている。
今後、
町は、希望する住民
の血液検査を公費で
実施する予定である。
町長は、
「国は暫定目標値を
設定した令和2年
に、なぜ水道水の
全国調査をしなか
ったのか?
予想だにしなかった
原因で、多くの町民
が被害を受けた。」
と話した。
一方、環境省は今年、
38都道府県で行った
河川や地下水などの
調査結果を公表した。
その内容だが、
PFASの合計が最も
高かったのは
大坂府摂津市の
地下水で、
1リットル当たり
2万1千ナノグラム
であった。
早急に、摂津市は、
市内の地下水が引
用されていないこ
とを確認した。
市は、
「引き続き、地下
水は飲まない
ように呼びか
ける」
としている。
原因だが、
検出地点周辺の民間
事業所から、漏れ出
したとみられ、
同事業所が遮水壁を
設置したり、浄化設
備を増強したりなど
の対策に取り組んで
いる。
市の担当者は
「PFASの除去や規制
など、
具体的な対応や法整
備が全く定まってい
ない」
とし、国の対応への困
惑を漏らした。
今後の焦点
PFAS規制に関して、
日本は先進国の中で
最も遅れている。
実は、15年程前から、
環境省は小さな調査
を続けてきたが、
有効な手は打って
来なかった。
慣習として、
日本では毒性や病気
との因果関係が明ら
かになった後で、
規制値を設定する
からである。
規制が遅れている
他の理由だが、
PFASは
汎用性が高い
だけでなく、
半導体など
先端技術に使用
されるため、
経済産業省や企業
に配慮した可能性
がある。
ところが、
PFASと異なり、
人体に蓄積しない
代替品の開発は、
国内外で進んで
いる。
そんな中、
米国では、今年、
代表的物質である
PFOAとPFOSを
有害物質に指定し、
厳格な規制値を
設定した。
また、
WHOでは、今年、
PFOAを4段階ある
分類で、1番高い
「発がん性のある
物質」
とした。
米国やWHOの動向を
注視しながら、政府は
調査を進めるであろう
が、願わくは、調査は
丁寧に行って貰いたい。
例えば、
水源が渇水であれば、
高濃度になる、
という具合に
水量がどういう状況
か、
活性炭の交換時期は
いつだったのか、
などの条件次第で、
数値は揺れ動く。
それ故、結果の正当
さを確保するために、
調査は複数回に渡っ
て行い、
数値が高ければ、
住民の健康調査
を行うべきである。
PFAS
有機フッ素化合物の
うち、
ペルフルオロアルキル
化合物と
ポリフルオロアルキル
化合物の
総称。
4700種類以上の物質が
あるとされ、
代表的な物質に
PFOS(ピーフォス)、
PFOA(ピーフォア)
がある。
耐熱や水、油をはじく
特性から、
布製品や食品容器、
フライパンのコーティ
ングのほか、
航空機用の泡消火剤
に使われて来た。
<データと資料>