とある落語会 その1
ザトーを名乗って5年、これまでにのべ200カ所ほどでおしゃべりしてきた。
いろんなイベントに出たけど、やはり高齢者を対象とした落語会が多い。また、そういう会はよくウケる。
しかし、高齢者とはいえ様々。
どうしても年齢とともに気力体力時の運は低下してくる。
ある時落語の依頼を受け向かったのは小さな高齢者施設。
スタッフさんは元気。施設の雰囲気もとても穏やか。
お客さんは20~30人ほどのおじいちゃんおばあちゃん。
なんと平均年齢90超え! 100歳越えもチラホラ。
出囃子とともにいざ舞台へ。
その瞬間一抹の不安が胸をよぎる。
だってだって拍手がない!
いやいや登場時に拍手が来ないことなぞままある。それはよい。
それよりなにより気配がない! 反応がない! 生命徴候がない!
(これはいかん。)
彼らの魂を呼び戻すためにも鉄板ネタ投入。
しかし、何をしようと何をしゃべろうと彼らは、
「………………」
にじむ冷や汗高まる鼓動 お口の中はパッサパサ。
それを見ていたスタッフさん、これはいかんと思ったんでしょう。ボクがしゃべっているにも関わらず、
「ほら! みんな! 笑って! お・も・し・ろ・いからぁあぁあぁあぁ~!」
…。
(待て待て! 気持ちはうれしいが、ボクはしゃべってんだ! 横で大声出すな~!)
それを期にスタッフたちが動き出す。
わざとオーバーに笑う人、ネタを大声で復唱する人、ギャグの解説を始める人…。
(地獄絵図だ。)
しかし、そんなスタッフさんの努力もむなしく、いまだ反応しない彼ら。
スタッフさんもいよいよ焦ったんでしょう。一人のおばあちゃんの両肩をつかむと悲痛な声で、
「ほら! るみ子さん! しっかりして! 笑うのよぉっ!」
…。
(雪山で遭難したんじゃないんだから!)
しかし、そんなるみ子さんも実はちゃんと話を聞いてくれてた。
彼らは単に笑う体力がなかっただけだ。
会が終わり、一人一人のおじいちゃんおばあちゃんたちと握手して回った時それがわかった。
みんな喜んでくれてた。
中にはボクの手を握り、
「よかったよ。ありがとう。」
涙流してる方まで。
うれしい!ありがたい!
ところが、ずっと手を握ってる。
「よかったよ。ありがとう。」
…なかなかその手を放してくれない。
なんかこう…ちょっとでも若さを吸い取ってやろう! って感じ…。
しかしながら、会場を後にする時には、なんともほっこりした落語会でした。