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疲れた人に癒やしを届ける本
悩みを抱えた人が食事を通して道を開いていく、というような枠組みの作品を書店でよく見かけるようになって久しい。
大体ハッピーエンドになるのはわかっていながらも、前半の悲しい雰囲気で自分も落ち込んでしまうのでここしばらくそういう本は読んでいなかった。
しかし先日コミックエッセイの棚にふらっと立ち寄った際、とある表紙のおにぎりに惹かれてパラパラとめくってみたところ、お迎えせずにはいられなかったのである。
クマやゴリラといったキャラクターたちが、疲れて体力も気力も失いかけた人間たちに夜食を振る舞う。そしてその食事のレシピが隣のページに掲載されているという「漫画+レシピ本」。
漫画内の世界とは違って自分で作る必要はあるものの、一瞬で全回復しそうな料理たちを二次元から三次元に召喚することができる。あとは『これをクマが作ってくれた……』と妄想をたくましくすればOK。カンタンカンタン。
え? 私ですか? 私は現状漫画だけを繰り返し読んで楽しんでおります!
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※ここから少し内容に触れます※
私がいいなあと思うのは、人間が急に現れた謎のキャラクターたちを意外と受け入れているというところである。
夜道でネコがシチューを作っていたり部屋にピンポンもなくクマとサケがやってきたりすることに一応しっかり驚くものの、あれよあれよという間に提供された食事を混乱しながらも『おいしい……!』と食べる。無駄に怖がったり興味津々でウザ絡みしたりしない反応がちょうど良いのだ(それくらい疲れているという話もあるけれど)。
あるときは同僚に「ネコがシチュー屋してた…!!」(60頁)と告白し、その同僚はほどなくしてクマの屋台を発見。その話を職場で耳にした部長は部下の疲労を案じて『どうにか部下の負担を……!』(62頁)と思いながら夜道を歩くのだが、彼の前にもゴリラの屋台がやっぱり現れて……というか、その会社疲れ過ぎでは。
しかし、楽しい・癒されるといった話だけでもない。
私の1番好きなキャラクターは魔王なのだけど(ええ、動物以外もいるんです)、無職(推定)の吉村という男を気に入り、基本的に彼の元にしか出向かない。だんだんお母さんのように世話を焼き始めるのだが、そんなとき吉村の実母が訪問してくる。
3人で机を囲むなかで、実母は「昔からな〜〜んの取り柄もない子で」と他の兄弟と比較しながら出来ないことを何個も挙げていく。そこに魔王が「お言葉ですが…」と割って入るのだ。
私は彼を気に入ってここに来ているのです
彼は真面目な青年です
お母様が思っているよりずっと
立派な人間です
この見開き2ページに吉村のバックボーンと魔王の優しさが現れていて、いろんな意味で心がキュッとなった。
今回取り上げた「魔王&吉村」編だけでなく、提供する側だったクマが疲れてしまって……とか、料理をある人物に提供しようと奮闘する謎の生き物が……など、他にも読み応え抜群なストーリーが収録されている。
特にクマのストーリーに関しては『そうだよね、クマだって疲れるよね』とハッとする思いがした。未知なる存在なのもあって疲労とは別次元にいると勝手に思っていたが、クマだって仕事が終われば家に帰ってご飯を食べて眠るのである。
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ちなみに、こちらの本は第2弾でございます。
帯に書いてあるので知ってはいたが、残念ながら1巻は置いておらず……。
1巻は『泣きたい夜の甘味処』ということなので、今回とは違ってスイーツに特化しているのかもしれない。近々手に入れたいところである。
開くだけで心が満たされる、そんな本。
さらにこれを台所へ持っていけば、きっとお腹も満たされることだろう。
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