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国語辞典を作る人たち
私は昔から、頻繁に国語辞典を引く子ではなかった。
小学生のときに初めて買ってもらった辞書は、小学生向けコーナーに並ぶなかから見やすさや触り心地を比べながら選んだ。そのおかげで自分の好みに合うものを持てていたが、最後までほとんど新品同様だった。
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いつからか母のおさがりの辞書を使いだした。三省堂国語辞典の第三版。文庫本とほぼ変わらない大きさなのでフィット感がいいし、棚から取り出してめくるという動作を気軽にできるのもよかった。
小学生のときの反省……ではないが、辞書をたくさん使うべく、調べた単語にペンでチェックを付けていたこともあった。しかし次第に面倒になり、あっさりフェードアウト。今でも、ピンクの小さな丸が横に付いている項目を見つけては、ほんのり気まずい気持ちになる。
そして今。軽く調べるだけでいい場合に限っては、パソコンやスマホで検索して、それでおしまい。辞書との距離はどんどん離れるばかりである。
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しかし、国語辞典の裏側、つまり作っている人たちの話には昔から興味があった。辞書にかかわらず、作家、編集部や本屋、図書館など、本に携わっていればなんでも好きなのだが、「編纂者」はそうした人たちのなかでも実態が掴めないというイメージがあった。
そんななか、先日「マツコの知らない世界」で編纂者の飯間浩明さんが出演されていた。テーマはもちろん「辞書作りの世界」。そして、携わっている辞書は三省堂国語辞典だ。これは見るしかないでしょう!
大学の講師をしているのもあり、非常にわかりやすく、かつ面白い。新語集めのルーティンや言葉の移り変わり、各辞書の特徴など、興味深いお話ばかりだった。
そしてこの番組がきっかけで、飯間さんが本を出されているのを知った。その名も『辞書を編む』(光文社新書)。「マツコの知らない世界」見逃した!という方は、ぜひ読んでいただきたいし、見た方はより楽しめると思う。
本書では、『三省堂国語辞典』第七版を作るまでの作業について、順を追って解説されている。「おわりに」で仰っていたが、なんと編纂作業と並行して執筆されたらしい(そして出版時点で辞書は未完成)。
ご本人の執筆技術によるものなのはもちろんのこと、このリアルタイム感が本書をより活き活きとさせるのに一役買ったのかもしれない。新書を読むのは少しご無沙汰だったが、あっという間に読み終えてしまった。面白いですよ。
ちなみに、タイトル『辞書を編む』は三浦しをんさんの『舟を編む』を意識したものだそう。
私は学生のとき、三浦しをんさんの作品を集めていたのだが、『舟を編む』は小説の中で3本の指に入るくらい好き。なので、飯間さんが第5章でストーリーの一部について言及され、逆に三浦さんが飯間さんのゲラを読み、帯も書かれるなど、お2人が繋がっていたことを知れてうれしくなった。
編纂者の視点(『辞書を編む』)と辞書編集部の視点(『舟を編む』)……この2冊を読むと、国語辞典が今よりも身近に感じられ、あるいは「言葉」にもっと興味がわいてくるかもしれない。そして私は、私の持ってる第三版ってだいぶ年季入ってたんだな……と思ったとさ。
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