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ある日の電車内(陣地取り編)


貴重な休日が出勤に変わった某日、早朝の駅のホームで私は三十分近く電車を待っていた。運休や遅延が相次いだためである。


本来ゆっくり寝られる日なのに急遽早起きして、いざ駅に行ったら三十分の待ちぼうけ。やさぐれちゃうよ、もう。


仕事に行くモチベーションも潰えた頃、電車がやってきた。しかし私のように乗り損ねた人が大勢おり、空っぽな車内は数秒で埋まりそうである。一抹の不安を抱きながら前進する。

すると、すぐ数人先に見覚えのある長身の男性を見つけた。知り合いではない。以前一回だけ車内で見ただけである。しかし、その一度だけで充分なくらい強い印象を私に与えたのだった。


出会いは、幾日か前の帰りの便だった。


男性は乗車するとすぐそばにあるシートにドカッと腰を下ろし、細くて長い足を投げ出した。「ドカッ」という音がふさわしい、これは最初から俺の席だ、くらいの雰囲気。

そしてリュックを下ろし、足元のさらに先に置いたのである。足の時点で面積使っているのに、さらにリュック。
ちなみに、席は通常なら三人は座れるシートなのだが、一人で二人分くらいを確保していた。細身なのに。

ソーシャルディスタンスを独自のやり方で表現しているのか、単純にテリトリーの張り方が大きいのかはわからないが、せめてリュックはその組んでいる腕を使って抱えてもいいんじゃないかと思うのだがいかがだろう。


気づいたときにはその男性はいなくなっていたが、しばらくは残像があるような気がするくらい、私の中での存在感は抜群だった。



その男性が、朝の電車に乗り込もうとしていたのである。

あの人、もしかして……と思った瞬間、彼は足を小刻みに動かし、一目散に一人掛けの席に勢いよく座った。

おそらく駆け足なのだが、足を前に出すというよりも上に持ち上げる動かし方なため、バタバタというかちょこまかしているのである。長い足を活かして大股早歩きすれば、もっと悠然として見えるのに……。


無事に私も席に座ることができ、一息つく。
なんだか朝から散々だなと鬱屈としていたが、あの男性の新たな一面(?)はこんな日じゃないと見れなかったかもしれない思うと、ほんの少しだけ救われた気がしたのだった。



(おそらく見ていないと思いますが、勝手に私の話に登場させてすみません、あの時のお兄さん……!)

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三谷乃亜
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