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『最果て』第二話
店を出ていくらも進まないところに海水浴場があって、少しだけ回り道して砂浜を歩いた。海は暗くて見えなかったが、その上を東へ飛んでいく飛行機の灯りが見えた。目で追いながら、同じように東へ飛んでいったクラスメイトの姿と重ねた。
県道へ戻ろうと、海水浴場の端にある階段を上っている途中で、改造したマフラーで、騒音を立てる原付が四、五台かたまって通り過ぎていった。少し緊張した。乗っている連中はみな、自分と変わらない歳に見えた。
海水浴場からあとは、人の住む場所の切れ目というのか、海沿いの車道と歩道の横に線路が通っていて、線路の向こうはすぐに山という道がしばらく続いた。
点々とある街灯だけでは道は暗く、たまに通る車のヘッドライトに照らされて、道路脇の地蔵が浮かび上がり、初めてその存在に気づいて怯えたりした。
線路がトンネルの中に潜っていき、道幅が少し広くなったところにローソンが現れ、そこでトイレを借りて、飲みきってしまっていたライフガードの代わりにコーラを買った。
コーラを飲みながら、駐車場でアーチ型のポールに腰掛けて少し休んだ。ずいぶん長い時間歩いた気がしたが、まだ九時半だった。 正直もう十分で、駅さえ近くにあれば電車に乗ってしまいたかった。しかし戻るにしても進むにしても最寄りの駅までは距離があった。
「おにいちゃん、この辺の子け」
コンビニから出てきたオジサンにそう声を掛けられた。驚いた私の反応は、小さな声で、「いえ」と言い首を振るだけだった。
「この道歩いて気よったろ。車ん中から見えたんよ――どこまで行くんで?」
オジサンは私の反応なんかどうでもいいようで勝手に話を続けた。
「家まで帰るところです」ボソッと言った私の答えに続けたオジサンの、「家どこで?」という質問に、私は、「溝辺の方です」と素直に自宅の地名を答えた。
「歩いて帰るつもりけ、遠いで!」オジサンは驚いた声を出した。確かにこれだけ歩いてきた後でも、家まではまだまだ遠かった。それで、
「どうせ市駅の方まで行くけん、乗せてっちゃろか?」というオジサンの言葉に、心を動かされた。世間知らずの私にはオジサンは親切な人に見えた。
黙っていると、オジサンは、
「遠慮せんでいいけん、乗るなら乗りや」と自分の車の方へ歩いて行った。
私はオジサンの後を追い、黒いセダンの助手席に乗り込んだ。