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建築とWeb ―多重下請け構造

建築とWebは似ていると思います。(5回目)

前回までは建築の設計論とWebの設計論の類似性について書いていましたが、今回はWeb業界に限らずIT業界全体の構造の類似性についてです。

「IT土方」という揶揄

「土方」という言葉自体、近年では適切な言葉ではありませんが、「IT土方」なる表現があります。プログラマーといった知識集約型産業であるはずの労働者が、末端では狭いスコープの中で単純にコードをただ書いていくだけの(建設現場の作業員と同じように)肉体労働と化している様を皮肉った言葉です。

この言葉自体が建設現場作業員を見下したような表現で、侮蔑的表現ですが、言葉としてあることを紹介しておきます。

ただ、建設の言葉が援用されるように、その産業構造は建設もITも似ています。

多重下請け構造

どちらも大規模なプロジェクトにおいては多重下請け構造になることが多いです。下請け構造それ自体が悪だとは思いません。建設にせよ、ITにせよ、それぞれの専門分野を組み合わせないと完成しませんし、また得意な分野もあるので、組み合わせることでよりよいものができるようになります。

しかし、あまりにも複雑で多重な下請構造は、搾取的関係性や責任の所在の不明確化、不透明な指示系統などの問題の温床にもなります。結果として問題が発生した際には責任のなすりつけ合いになり、立場の弱い下請けにその責を追わされます。

横浜のマンションで杭に不備があった問題7Pay問題とその顛末は、業界構造の問題を浮き彫りにする事件でした。

建設にみる下請構造の適正化への試み

多重下請構造の歴史は当然ながら建設の方が長く、そのために対策も講じられています。大きな枠では建設業法による規制等があり、建設工事を請け負うために(軽微な工事を除いて)建設業の許可が必要*になります。

ITの場合、名乗りさえすればフリーランスなることもできますが、建設業の場合は行政からの認可を受けなければなりません。許認可制度があるということは、なにか問題を起こせば許可を剥奪され、仕事ができなくなるということでもあります。

丸投げの禁止

建設業法では下請けへの一括請負、つまり丸投げを禁止しています。実態はいかにせよ、少なくとも建前上では明確に禁止し、細かい規定もあります。例えば、自社の監督者を現場においただけ、みたいなものも丸投げに該当し、建設業法違反になります。

体制の明確化

一定規模以上のあるいは、公共工事を行う場合には施工体制台帖や施工体系図の作成が義務付けられています。これはどのような会社がどのような工事を請け負い、どのような関係にになっているのかを明確にするためです。

この中に記載されているのは、業者名・建設業許可番号はもちろんのこと、工事に必要な有資格者の氏名、保険の加入の有無、外国人労働者の有無といったことまで書かれます。

そしてこれらを発注者(クライアント)へに提出しなくてはなりませんので、発注者もどのような業者が携わっているか確認することができます。

ほかにも様々な規制があり、より良い品質の建物がたつように法律レベルで定められていたり、標準仕様といった細かいものは省令レベルで告示されていたりもします。

建設業法は銀の弾丸にはならない

いくつか建設における規制を紹介しましたが、IT業界もこれにならえば、万事問題が解決するとも思いません。現に建設業法があっても先程ののような問題が起こっているので、万能ではありません。

しかし、これらを参考にすることで、業界の是正には役立つと思います。こうした法律による規制は行政レベルで動いてもらわないと、難しいですが夏期の参考リンクにあるように経産省も多少は考えてくれているようです。

行政レベルでなくても、自主的に大手発注者は下請けまで含めた体制図の提出を求めることで、発注した商品の質を高めることができるのではないでしょうか。

また元請けになるような大手ベンダーはそれらを作成することでクライアントへの信頼につながるのではないでしょうか。


Photo by Mae Mu on Unsplash

参考

・IT産業における下請の現状・課題について(経済産業省 情報処理振興課)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/joho_keizai/it_jinzai/pdf/002_07_00.pdf (PDF)

・建設業者のための建設業法(国道交通省 北陸地方整備局 建政部 計画・建設産業課)
http://www.hrr.mlit.go.jp/kensei/sangyo/kensetsu/kyoka/1903orangebook.pdf

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