夏と夜と、ときどきアイス
夏の楽しみといえば、夏祭りに花火、かき氷にりんご飴、数え始めたらキリがないくらいたくさんあるが、僕にとって一層楽しみなことは散歩である。
散歩といっても日中のくそ暑い中をだらだらと汗をかきながら歩くのではなく、夕飯を食べた後、日が落ちて涼しくなってから腹ごなしに少し歩こうかといった心持で歩きはじめる時間が好きだ。
夏の夜、一人で歩いていると思いの外散歩している人が多いことに気づく。仕事終わりのサラリーマン、おじいさんに、犬を連れて散歩をする人、高校生のランナーに、ダイエット中の主婦、様々な人が思い思いの動機を抱えて夏の夜を闊歩する。僕の場合はたいていそんな人々を避けて街灯の少ないほうへ少ないほうへと歩きつづけ、気づいたときには知らない場所にでていて「おやおや、これはどうも迷ったな」と思案したあと、今度はきたときと反対に光を求めて歩き出す。このときの気分は昆虫だ。
実家にいた頃、網戸にしてスタンドライトの明かりで勉強しているといつの間にか窓の外に多くの羽虫がたむろしていて思わず「うわっ、気色わるっ」と吐き捨ててなるべくそちらを見ないようにしながら窓を閉めていた。しかし、今光を求める僕はその気持ち悪がった昆虫たちと同じ心持の中にいるのである。
そんな奇妙な気分に陥りながら歩きつづけると、三回に一回の確率でコンビニに出逢う。何も考えずそのまま中に入り、まっすぐアイスコーナーにたどりつくと新商品をざっとチェックしておいしそうなものを一つ選びだし、そいつをつまみながらまた歩き出すのだ。
アイスの甘さをかみしめながら、ぼんやり灯った明かりを数えて進んでいくと家の前についている。自室に戻って一息つくとその夜の匂いがどこか遠くから漂ってきて、まるで夢を見ていたような気持ちにさせられるのだ。
今年は梅雨が早々に開け、もう夏がやってきた。今年はどのくらいあの夏の夜の甘い香りについていってしまうだろうか。
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