#夏色の翼2021 「2021.11.05~07 天王寺・SPACE9」観劇レビュー
朗読劇「夏色の翼」が上演されるSPACE9に足を踏み入れてまず目に飛び込んできたのは、劇場の中心にある舞台。そしてその舞台の左右に客席が設置されていた。
対面舞台。私は何度か演劇の観劇をしたことはあったが、このような光景は初めて見たこともあり、目から入ってくる光景とともに、左右どちらの客席に座るか決めてから進んでくださいという耳から入ってくるスタッフさんの声も合わさり、頭の中に??がいくつも浮かんでいた。
私は左に進み着席。目の前にある舞台の先には、右側に進んで着席した観客の姿が真正面に見えていた。今からどんな朗読劇がはじまるのか想像が出来ず、???が浮かんだままの私。ただ当然そんな私のことはお構いなく客電が消え、鳴っていた音楽の音量が徐々に大きくなった。少しすると真っ暗になった舞台の端にうっすらとスポットライトが点いた。朗読者があらわれ一礼、着席して朗読が始まった。
建物が陽炎のようにゆらゆらと歪んで見える猛暑の終業日。「暑い...!」嫌でも口に出てしまう高校の教室が舞台。その教室に登校してくる5人の生徒たち。
頭脳明晰才色兼備の才媛でリーダー格「月代 沙夜香(つきしろ さやか)」、写真部でミーハーなギャル「市井 奈々子(いちい ななこ)」、芸術肌で女の子を愛でるお姉さん肌「大塚 寧々(おおつか ねね)」、清楚で大人しい委員長「蓮水 詠子(はすみ えいこ)」(ちなみに私の推しメンこの役柄)、そして明るく優しく人見知りせず人を惹きつける魅力の持ち主「日ノ本 輝(ひのもと てる)」
それぞれの性格が分かるようなセリフ、関係性が分かるような動きもたくさん盛り込まれ、冒頭の教室のシーンから、朗読劇????と私の頭の中ではさらに?が増えていた。ただ、暗がりの照明の舞台だがキラキラしている高校生活の様子が描かれ、また舞台と客席のあまりの近さから演者さんの躍動感も大いに感じられ、夏色の翼の世界がはじまっていくというワクワク感が漲ってきていた。
そして担任「西大路先生」が呼び込み現れたのが、黒髪に蒼い瞳の物静かな転校生「朝凪 夕(あさなぎ ゆう)」
このミステリアスでクラスの雰囲気になじめない、どこか懐かぬ黒猫を思わせる夕のことを放っておけない輝は、彼女に関わろうとする。沙夜香はその様子に小さな嫉妬を覚える。旧校舎の掃除を任され、地学室の開かずの扉の先の部屋に、壊れたプラネタリウムマシンを発見した輝、沙夜香、夕。輝はこのプラネタリウムマシンを「カールさん」と名付け、再起動させることを自由研究にしようと提案。この旧校舎の地学室、カールさんとともに、3人の距離が縮まりながらストーリーが展開していく。
浴衣姿で夏祭りにやって来た輝、沙夜香、夕。花火大会が終わり帰途につこうとしたとき、沙夜香が誰かにつけられていることに気づく。必死で逃げようとするも逃げられないと分かり、夕が輝と沙夜香を逃がそうとするが、そのまま3人でつけてきた相手と相対する。相手はキメラと呼ばれる暗殺組織に所属している暗殺者「アンドレス」(ちなみに私の推しメンの一人二役)
そして、夕とアンドレスが対決。身体能力が異常に高い夕がアンドレスを撃退。だがその後、夕は姿を消してしまい、学校にも来なくなってしまう。
実は夕は過去に暗殺組織キメラに所属していた母親から猫として、父からは人形として育てられていた。そして輝と沙夜香を暗殺するという役割を与えられている暗殺者だった。だがそんな夕のことを、猫でも人形でもなく、ひとりの人間として温かく接してくれる輝と沙夜香にどんどん惹かれていき、人間としての感情が膨らみ役割を果たせずにいた。
物語の中盤。この夕に関わって大きく展開するシーンが2つ出てくる。ひとつめは、夕とアンドレスの対決シーン。輝と沙夜香を暗殺するという目的を達成するどころか、そんな動きも見せることが出来ない夕に対しアンドレスが詰め寄る。
私はこのシーンが一番好きだ。もちろん推しメンが出ているシーンだからという理由もあるが、今まで本当の自分を隠してきた夕の本音と本当の姿が分かり、胸が苦しくなるシーンでもあったからだ。
ちなみに「チンタラやってんじゃねーぞ」 「わいてんのか!?」.....このセリフ、一人二役でアンドレス役を演じた推しメンが口にしたセリフ。いつもとは全く違う新たな俳優としての一面を見せてくれ、また貴重な体験をしていて輝いている推しメンを見ることが出来て感慨深いものがあった。
そして夕に関わって大きく展開するシーンのふたつめ。輝と沙夜香が夕の自宅マンションを訪れ、過去にキメラに所属していた夕の母親「朝凪 色(しき)」(西大路先生との一人二役)との対面シーン。色は夕を猫として虐げており、輝と沙夜香の目の前で、夕に対し早く2人を暗殺するように命ずる。ここで初めて輝と沙夜香は、夕が自分たちを暗殺しようとしていた暗殺者だったと知ることになる。
このシーン、母親である色の不気味さ、迫力、狂気、本当に怖いと思えて、こんな嫌なシーンなのに凄い演技力だと感動してしまった。
大きなショックをうけた輝。そんな輝を慰めたいのに自分では役不足であり、輝は夕のことを待っていると分かっている沙夜香。そんなどうしようもない思いで悩んでいる沙夜香のもとに現れたのは寧々。
ここから沙夜香が寧々に相談する2人のシーンになるのだが、私はこのシーンもかなり好きだ。寧々は人のことをよく見ていて言葉は多く発しないが的確に助言をする。この寧々の距離の取り方、発する言葉、仕草や態度は自分が最も好きで、このような泰然自若な人になってみたいと思える表現だった。(このシーンにより軽率に寧々推し)
この沙夜香と寧々のシーンは2人のシーンだったが、この夏色の翼では6人の生徒など複数人の存在がおり、基本は大勢のシーンか輝と沙夜香の2人の組み合わせシーンでストーリーが進んで行くが、時に別の2人の組み合わせシーンが出てくる。輝と夕、沙夜香と夕、沙夜香と寧々、夕とアンドレス、、どのシーンも素敵な言葉、距離感、思い、仕草や態度があって、本当に心を動かされた。
その中でも私が大好きになった言葉、思い、距離感が2つ。
両親が事故で無くなってから夜が嫌いと言う沙夜香に返す夕のセリフ「夜は誰よりも優しいから。夜があるから人は眠り、癒しを得ることが出来る。君のご両親もきっとそういう優しい人になるようにと願って、沙夜香って名付けたんだと思うよ。」
輝のことを元気づけることが出来ず、自分では役不足だと感じ悩んでいる沙夜香にかける寧々のセリフ「輝が待っているのは夕ちゃんだけじゃないよ。沙夜香のことも待ってるよ。そういう子じゃん。」
物語の後半。夕が全く来なくなった学校。輝の夕への思い、沙夜香の輝への思い、夕の沙夜香と輝への思いが複雑に絡み、また奈々子が起こしてしまった出来事から寧々と詠子の思いや関係性、胸を締め付けられるようなシーン、鬼気迫る迫力のシーン、様々なシーンが展開され惹きつけられ心を動かされた。
舞台劇では演者さんの声や行動、仕草はもちろん目に見えて分かりやすいが、心を動かしているところに共感し、観客も自分の感情を動かし揺さぶられる。それは一般的な朗読劇でも同じことが言えると思っている。動きはあまりないが、声や表情で表現する演者さんは明らかに心を動かしていて、それに共感し呼応して観客も心を動かされる。感情が揺さぶられる。
今回の少し変わった朗読劇。演者さんは動き、ダンスシーンもある。朗読劇というだけではなく、さしずめ”舞台朗読劇”(勝手に私が言ってるだけ)と言えるのではないだろうか。
今回の演者さんはみな、声や表情はもちろん、動きの静動、視線、立ち姿や座り姿、自身が表現できる全てを駆使し、心を動かしていた。
そして今回の舞台朗読劇「夏色の翼」という題名さながら、設定、若さ、パワーをも加え、最後の飛翔は見事なまでの跳躍感のあるシーンにつながっていったのではないだろうか。
笑って、怒って、悩んで、泣いて、そしてまた笑って。95分間の濃密な時間。たくさん惹きつけられ、心を動かされ、感情を揺さぶられた。もちろん開始時に私の頭の中を占拠していた朗読劇????という?はとうの昔に消え去っていた。
エンディング。「夏色の翼」の朗読者として95分間存在していた2人は、沙夜香と輝それぞれの未来の姿として表舞台へ。夕の姿はそこにはなかったが、あの記憶は忘れることはない。
わたし達の広げられた手は翼になって、紅い空気の中を切るように、私達は飛んでいた。どこまでも、飛んでゆける。そんな気がした。
ーENDー
【ここからは、勝手ながら、失礼ながら個人評】
・岡田 由紀さん(日ノ本 輝の未来の姿):朗読者のおひとり。スッと物語に入っていける素敵な声。そして輝の未来の姿として本当に存在していると思わせてくれた方。ご本人が舞台劇をされている姿を観てみたい。
・高瀬川 すてらさん(月代 沙夜香の未来の姿):朗読者のおひとり。岡田さんとはいい具合に反して力強い声。だからアクセント、インパクトの表現が素敵だった。そして同じく沙夜香の未来の姿として本当に存在していると思わせてくれた方で、同じくご本人が舞台劇をしている姿を観てみたい。
・栗山 えみりさん(西大路先生/朝凪 色):一人二役。劇評でも書いたが、不気味さ、迫力、狂気、本当に怖いと思えて、こんな嫌なシーンなのに凄い演技力だと感動した。
・久代 梨奈さん(月代 沙夜香):6人の高校生役の方の中で断トツの存在感、演技力。お持ちの台本がボロボロになっていたのも印象的。それだけ練習も重ねられたんだろうし、感情移入して握りしめてしまった要素もあったんだろうし、一挙手一投足、全てに惹きつけられた。
・伊藤 日菜さん(日ノ本 輝):輝という名前がぴったりハマる、華がある方。劇評でも書いた、笑って、怒って、悩んで、泣いての全てを体現していて、自然と惹きつけられて目が離せなくなった。
・中川 美音さん(朝凪 夕):NMB48ファンの私にとっては可愛いアイドルの存在として見ていたが、今回はずっとカッコいいと思って見ていた。物語の中盤から後半に向けて、感情を激しく表現するシーンもあったが、今までの可愛いという印象とは異なって新たな一面が見れた。いつもアイドルとして見ているのとは違う姿を目撃できたのは本当に貴重な時間だったなと思う。
・西川 陽菜さん(市井 奈々子):ギャルを演じているのがこれほどハマるのは、生徒役6人の中でこの人しかいないと思えた方。演技ではあるけど、そのままの自分を出しているところもあるのかなと思えて、見ていて自然と笑顔になれた。でも物語後半の感情を露わにするシーンでは、その迫力のある演技に心を動かされた。
・横堀 菜々美さん(大塚 寧々):この方の話し方、仕草、演技力、全てに余裕が感じられて、惹きつけられた。舞台の経験も多いのかなと思えて、今回の舞台では出演シーンはそんなに多くは無かったのかもしれないけど、出てきたときには全ての動作と雰囲気に魅了されてしまった。
・泉 綾乃さん(蓮水詠子/アンドレス):推しメン。本編ではないけれど、最後の"天使の涙"に全てが詰まっているんだろうなと思う。新しいことに挑戦している人は本当にカッコいい。新しいことに挑戦する期間なのに、アイドルとしての自分も同時に考え、動かないといけなかったのは本当に大変だったと思う。心が折れそうになる瞬間もあったんじゃないかなと思う。もしかしたら何度かは折れてたのかもね。本人も楽しかった思い、嬉しかった思い、やり切った安堵感もあると思うけど、恐らく自分の未熟だった部分や自分に納得がいっていない部分もあって悔しいと思ってることもあるんだろうなと思う。なんせ負けず嫌いだから、他人だけじゃなく、本人の理想像とも戦っているんだろうなと。でもね、誰だって最初は初心者。最初はうまく出来なくても当然。新しい世界に一歩踏み出して、悩みながらもキラキラしている時点で凄いことなんだよ。貴重な体験をし、貴重な時間を過ごしている推しメンは本当に眩しく見えた。こっち側は何もできないけど、これからもずっと応援し続けようと思えた時間だった。そんな貴重な時間を過ごさせてくれて、本当にありがとう!!
ーENDー
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