午前5時、警察が突入してきた。私の弁護士は、電話に出なくなった。
■2
「なんですか、あなたたち! 本当に警察ですか」
時計を見ると午前5時。団地の玄関で、いとこのKちゃんが来訪者と押し問答をしている。子供を奪い返した私たちは昨夜、Kちゃんの家に逃げ込んだのだ。
私は飛び起きて玄関に向かった。気丈に振る舞ってはいるが、Kちゃんの小さな背中と声は震えていた。
「ありがとう。あとは僕が対応します」
心配そうにしていたが、従姉妹はすぐ私と入れ替わりに奥の部屋の子供たちのところへ行ってくれた。
「事情を聞かせてほしい」刑事はそう言った。この時、私はうかつにも捜査令状や逮捕状の有無を確かめなかった。そこまで頭が回らなかったのだ。今にして思えば、その狙いもあっての早朝突入だったのかもしれない。
八人の刑事がズカズカと団地の部屋にあがりこんできた。ひとりは玄関にたち、逃走を警戒している。各部屋の窓際にもひとりずつ人員が割かれている。ひとりはひっきりなしに状況を報告するような電話を大声でかけている。
娘は泣き出してしまった。私は娘を抱きしめ、頭を撫でながら、「大丈夫、大丈夫」と言い続けるしかなかった。
刑事たちは私と母、子供たちを隔離して事情聴取をはじめた。
私は子供たちが恐怖を感じている事実、実際にされていることなどを話したが、刑事たちはそれには興味を示さなかった。彼らがひたすら知りたがったのは、私が移動したルートと、他に協力者がいなかったかだ。
また電話をかけた先をすべて把握しており、誰とどんな話をしたのかなどを聞かれた。朝五時から、同じ質問を入れ替わり立ち替わり三人に聞かれ、時刻は十一時に近くになっていた。
「子供たちはお母さんが待つ新潟北警察署へ連れて行きます。お父さんはどうしますか」と刑事。
「新潟に子供たちを連れて行く権利が、あなたがたにあるんですか?」
「あります」刑事は、はっきりと答えた。
私は弁護士に電話をかけた。このようなかたちで子供たちを連れて行かれるのは、法に照らして妥当なのかを尋ねるためだ。法的にグレーゾーンならば、弁護士による話で警察による連れ去りを止められるかもしれない。
彼は私の奪還計画を勧めこそしなかったが、止めはしなかった。子供を奪ったほうが有利になるという現実を知っているからだろう。だが、何度かけても弁護士は電話に出なかった。
昨日、私が「決行」したことを、彼は知っている。
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