ブルームバーグ「政策の失敗じゃなかった!金融規制の穴が招いたトラス政権崩壊の真相」
https://www.bloomberg.com/opinion/articles/2022-10-26/liz-truss-s-ouster-wasn-t-the-markets-doing
イギリスでは日本と違い、金融規制は政府と独立した機関によって行われています。日本の場合は金融庁によって監督されており、その金融規制の監督責任は政府にあります。その点を考慮すると日本でおなじことが起こった場合は日本では政府の責任とみなされるでしょう。
この記事は、リズ・トラス前首相の政府崩壊について、従来の「市場が罰を与えた」という見方に異議を唱え、実際には金融規制の失敗と中央銀行(イングランド銀行)の危機管理が主要な原因であったと論じています。以下、記事の主なポイントを解説します。
選挙での支持と政策の背景
トラス前首相は、保守党のリーダーシップを獲得し、選挙で国民から委任を受けた状態でした。彼女は大規模な減税や政府支出の増加を掲げ、その政策は国民からの明確な支持(=マンドate)を受けていました。
記事では、これらの政策が中長期的には高いインフレ、金利上昇、失業の可能性をもたらすと予想されるものの、通常はその影響が数か月~数年かけて現れるはずだと指摘しています。
市場の反応とその限界
一般的には、トラス政権の迷走する財政政策に対して市場が厳しい反応を示し、それが政府崩壊の原因とされています。しかし、実際の市場の動きは、ポンドやFTSE 100指数ではそれほど大きな変動ではなく、即座に政府崩壊を招くものではなかったと述べています。
国債市場とパニックの発生
問題の核心は、30年物国債(ギルト)の価格が急落した点にあります。記事によれば、ギルト価格は23%も下落しました。
この急落の主な原因は、合理的な投資家の見通しが変わったわけではなく、むしろ金融規制の甘さによって、年金基金がレバレッジをかけた長期国債の購入とデリバティブ契約に依存していたことに起因しています。
価格下落と利回り上昇により、これらのファンドは大きな担保(コラテラル)を要求され、資金繰りのために更なる国債売却を強いられ、悪循環(いわゆる「doom loop」)が発生しました。
イングランド銀行の役割とその対応
この記事では、金融システムの監督を担うイングランド銀行がこの状況をうまく管理できず、結果的に緊急介入(国債の買い入れ)に追い込まれたと批判しています。
しかしながら、同銀行は10月14日以降、さらなる支援を行わず、その判断が政府崩壊につながったとしています。
さらに、国債購入は財務省によって完全に補償されていたにもかかわらず、中央銀行のこの対応は金融安定の使命に沿わないものだと指摘されています。
民主主義への示唆
最後に、この記事は民主主義を支持する立場から、選挙で与えられた明確なマンドate(政策遂行の権限)を持つトラス前首相が、金融規制の欠陥と中央銀行の対応によって政策実現のチャンスを失ったことが、民主主義にとって懸念すべき事態であると結論付けています。
まとめ
この記事は、トラス前首相の政府崩壊は、彼女の政策自体や市場の自然な反応が原因ではなく、金融規制の不備とそれに伴うイングランド銀行の危機管理の失敗が大きな要因であったと主張しています。政策のマンドateは国民からの信任に基づいており、その実現の過程で生じた技術的・制度的な問題が、結果として政府の崩壊を招いたという視点を提供しています。