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新婚旅行のエジプト (みらいさんの場合) + エジプト漫画連載予告!
最近、立て続けに
「新婚旅行をエジプトにしたいのですが」
と相談を受けた。
「なにゆえにエジプト?」と尋ねると
「ヨーロッパはごたごたしているし、近場のアジアはつまらないかなと思って。有給休暇もまとまってとれるし、思い切ってエジプトにしようかなと。だってエジプトはもう安全なんですよね?」
「...」
昔からしょっちゅう聞かれた、「最近のエジプトは安全ですよね?」。
これは返事に困る。
「日本は今なら大地震が来ないですよね?」 と同じで、答えようがない。
それでも戦争とテロは大丈夫と仮定しよう。だけどエジプトを新婚旅行先に選ぶのは
やめておけ
というのが、50本以上の新婚旅行ツアー(一組カップルのみつきっきり、集団カップルツアーどちらも)をガイドをした私の意見である。
エジプトに新婚旅行で行きたい、というカップルはイメージ先行で、
雄大な砂漠(湿度ゼロで暑い)、巨大なピラミッド(物売りがうるさい)、ほっこり椰子の木(ハエが多い)、壮大な遺跡(疲れる)でうっとりし
「ああなんてロマンチック。インスタ映えも間違いない!」。
でもはっきり言おう、
甘い。
かつて、東京のエジプト大使館主催のエジプト観光誘致イベントでは、エジプト旅行について語れと依頼され私は
「ハネムーンにもエジプトは最高ですよ!」
と話してきておいて何だが、一言で言えば
「ハワイにしなさい、グアムにしなさい」。
もちろん、エジプトが新婚旅行先ですごく良かった愉しかったというカップルもおられる。
しかしそういうカップルは総じて夫婦共体力があって、"クセのある"国に免役がある。
また既に長い付き合いでお互いをよく理解しており、そしてそれぞれが天然なぽわんとした性格だったり、おおらかでポジティブ思考、どんなトラブルも笑って楽しめる性格だ。
絶対エジプトに向かない人は、潔癖症で神経質で細かい性格。こういう人は新婚旅行でなくても、
エジプトには来世まで行かない方がいい。
あとタイミングも大きく、例えば結婚式直後に日本を発つというのなら、それこそくつろげるリゾート地が最適だ。
というのも、挙式の後すぐに新婚旅行に出るというのは、この時点で特に新婦がすでに疲れ切っている。
結婚式前での様々な準備、しかもブライダルダイエットもしてたださえスタミナ不足状態。
それなのにエジプトまでの長時間フライト、そして観光初日から炎天下の遺跡..倒れないわけがない。
ギザのクフ王ピラミッドの中も結構しんどい。
昔、吉村作治先生が
「クフ王のピラミッドの中にいると不思議と肩凝りが楽になる」
と何かで言っていたが、何をたわけたことを言うのだと私は思った。
クフ王の大ピラミッドの中ではずっとしゃがんだ姿勢で、玄室まで回廊を上る。どうしてもう少し高さを考えてくれなかったのか。
生きている人間、観光客らがどやどや入ってくるなんて考えずに設計されたからなのだろうが、とにかく中が狭すぎる。これでは肩凝りが消えるどこか、むしろ逆に肩も腰も痛くなる。
こんなに中が歩きにくい不親切な造りもの(建物)は他にまずない。
憧れのエジプトに長時間かけて到着する。しかし強烈な太陽、もわっとした熱い空気、たくさんの遺跡巡り...
新婦はたいていエジプト旅行二日目の夜に熱を出しダウン。
そもそも、例え日本でジム通いをしていても、40度超えの砂漠を一日中歩くとなると消耗する体力のレベルがもう違う。
そこをもって結婚式疲れも重なり、体力がついていかない。
(前も書きましたが、それに比べて農○ツアーのおじいさんおばあさんたちの丈夫だったことよ、エジプトで誰ひとりとして倒れていません!)
高熱を出してお腹も壊して倒れると、ホテルの部屋にエジプト人医者を呼ぶ。私が会った医者は全員オッサンだった。
必ず彼らは注射を打った。注射を打つ方が回復が早いというのもあるが、高額請求できるからだ。
が、私は隣で通訳しながら毎回心配だったのが、
「使い捨て針じゃないけど、大丈夫なのだろうか」。
エジプト国内線空港の医務室にも、自分のお客さんが倒れるたびに、よく一緒に駆け込んだが、ここでも使い捨て針の注射を打たれることもなかった。点滴も中の成分が不明だ。
注射は必ずお尻の近くに打った。
うら若き可憐な新婦が、エジプト人のオッサンにお尻を見せる羽目になるのだ。
まさか大好きな男性と結婚し、憧れのエジプトに新婚旅行に飛んで来てまさかヒゲづらのエジプト人オッサンに、自分のお尻を披露することになるとは、どんな新婦でも予想していないだろう。
(なお、男の患者でもお尻を出させていたので、決してセクハラというわけではなかったと思う)
お腹も壊し高熱が出てダウンしてしまうと、楽しみにしていた豪華ホテルの食事も楽しめない。
日本から持ってきたインスタントお粥袋を厨房に預け、チップを払ってそれを温めてもらう。
ホテルの部屋でそれを侘しくすするのだが、新郎だけがそばについてくれる場合はまだいい。
いろいろなカップルをみていると結構冷たい新郎も多く、自分だけレストランに現れ、ゆっくり楽しそうに食事を味わう新郎もいた。
「そんなに飲んでいていいのですか。そろそろ部屋に戻って奥さんのそばにいてあげた方がいいんじゃないですか」。
「大丈夫、大丈夫。それよりガイドさん、この後カジノにも案内してくださいよ!」。
夫が妻をずっと見守るという微笑ましい新婚夫婦でも、見ていて気の毒だったのが"お土産義務"。
特に田舎の狭い村から来られた新婚夫婦に多かったが、町内会/親戚みんなから旅行の餞別を受け取ってしまっていると
「何が何でもお土産を買わないと、村に帰れません」。
ある新婦は高熱40度が出ているのに、はいつくばってハンハリーリ市場に行こうとした。
ゼエゼエはあはあ苦しんでいる。私は必死に止めたが
「全員分のお土産を買わねばならないんです」
と熱でふらふらしながら、ホテルを出て行こうとする。
この時はさすがにあまりにも気の毒で、結局時間外の無償労働になっちゃったが、私が"新郎氏と二人で"その夜、タクシーで市場に買い物に行ってあげた。
新婦はぴんぴんして、新郎が旅行三日目にはお腹を壊し発熱もしダウンするパターンもあった。
明らかに新郎は苦しんでいるのに
「部屋で寝ている? 絶対だめ! 高いお金も払っているんだし、一緒にピラミッドの写真を撮らなきゃだめなの!!」
とキンキン声で叫ぶ新婦..
さらに新婦旅行ツアー参加の場合だと、
「同じツアーの山田さんのご主人はあんなに元気なのに、あなたは倒れちゃって情けない..」
とわめいたりとか、ある新婦は深夜の時刻にガイドの私の部屋に内線をかけてきて
「あの、一晩ガイドさんの部屋に泊まらせてくれませんか。お腹を壊した夫がずっとトイレに駆け込んでばかりで、落ち着かなくて眠れないんです」。
それだけじゃない。
エジプト航空国内線が8,9時間も遅延したがゆえに、いらいらで不穏な空気が流れるハネムーナー...これはどちらかがおっとり構えていても、片方が
「飛行機はまだか、まだなのか。いい加減にしろ、ふざけるな」
とずっと愚痴愚痴言っていると、夫婦の間はもう気まずい雰囲気になる。
たいてい男の方が短気なのかわめくことが多かったのだが、そういう面を知らないで結婚した新婦は
「この人はこんなに短気だったのか」とガク然とする。
また、実際に幾度もあったのだが、国内線で預けたスーツケースが紛失する。
たいてい新婦は"気合いを入れた"下着 (上品なレースの高級シルク製)を用意している上、それがスーツケースと共に行方不明になる...
仕方なくアスワンの市場へ買いに行くものの、ペラペラなレーヨン100%素材の、けばけばしい下着しか売っていない。しかも巨大サイズばかり。
ここで新婦はたいがい思いっきりふくれる。機嫌が悪くなると黙り込んだり駄々をこねたりしだす。
すると夫婦の空気も不穏になり、ガイドのこっちに八つ当たりがくる。
「なんでスーツケース紛失がおきたのですか。ガイドさん、ちゃんとしてください」
だの、よくわめかれたことよ...あれほど国内線にはすぐに必要とするものは預けてはだめ、とこちらもさんざん忠告していたのに...
紛失したスーツケースの中に男性の避妊具も入っていた場合も厄介だった。
何しろコンビニなんてどこにもないので、薬局で買うしかない。
だが自分たちだけでホテルから薬局に行こうとすると、まず馬車にぼられる。
さらに「ドラッグストア」が通じない。エジプトもイギリス英語なので、薬局はファーマシーなのだ。
なんとか薬局に到着しても、ここでも言葉が通じない。
なぜなら、
「ゴム、プリーズ」。
言うまでもないが、"ゴム"は和製英語。ゴムと伝えても避妊具は出されない。
薬局の入口辺りで待っている新婦に
「買えなかったね」と新郎はへらへら笑う。
「この人は外国で避妊具すら自力で買えないのか。今後大丈夫なのだろうか」
と新婦は"ゴム"すらも買えない夫→甲斐性ない→将来が不安、とまで想像を大きくし、がっかりする。
市場にショッピングに行けば、新婦はぼられる夫を見てますます不安になり、
その上、ゴールドショップでは同じツアーの新婚○○さんは奥さんに大きなゴールドを買ってあげているのに、うちはシルバーしか買ってくれなかった。
絨毯屋でも○○さんのご主人は立派な絨毯を買っているのに、自分の夫はケチで
「お金がもったいないよ」
と、店員に出された無料のコーラをがぶがぶ飲むだけ。
新婦はモヤモヤしてくる。
モヤモヤしているところにハエがしつこく寄ってくる。追い払っても追い払ってもまとわりついてしつこい。
空を見上げれば雲一つなく太陽だけがガンガンに眩しく、緑の景色もどこにもないし、ずっと遺跡歩きをさせられている。なおさら、いらいらが募る。
ガイドの私も
「奥さん、写真撮影はもういいみたいですよ」「奥さん、ここは足元が危ないから手を引いてもらいたがっていると思いますよ」
などなど新郎に何かと耳打ちしているのだが、
気がきかない男っていうのは何をアドバイスしても、気付かない。「大丈夫大丈夫」と聞く耳持たず。
案の定、エジプト旅行4,5日の朝になると、ホテルのレストランで窓の向こうのプールサイドをぼんやり眺めながら、
互いに視線も交わさず口もきかず、黙々と朝食をとる新婚夫婦が必ず出てくる。
そして新婦の方が私に
「ガイドさん、次のホテルからはダブルルームは結構です。ツインルームでお願いします」
とリクエストを出してくる。
中にはツアー最終日まで仲直りせず、一切喋らないままの夫婦も何組もいた。
実際、私が担当した新婚さんで成田離婚したカップルは何組もいる上、
前も書いたがあるが、とあるグループツアーの二組は、エジプト旅行中に互いの相手が"入れ替わった"。
突然、Aさんのご主人とBさんの奥さんが手をつないで神殿を歩き出し、その後ろではBさんご主人とAさん奥さんがキャッキャじゃれているので、心底びっくりした。
エジプト人のアシスタントも護衛スナイパーも目を丸くしていた。
もっとすごいのは、ある新婦さんは新婚旅行中に日本人夫を捨てて、イチャイチャ相手をエジプト人ガイドにくら替えし、そのままエジプト人ガイドと"ハネムーン"を続行したこともあった。(その後どうなったかは知らない)
ただし前述したが、長年付き合っている/すでに長年一緒に暮らしている新婚カップルはまず大丈夫、
そして二人とも体力があって、
「こういう国はこんなもの」
といろいろ分かり、先進国並のあれこれを求めずおっとりしていたりケタケタ明るく、どーんと構える性格なら大丈夫!。
だいたい、こういうことを話すと
「新婚旅行先をもう一回考え直します」
と言われるのだが、毎回あれこれ話すのも疲れる。だから今度また誰かにエジプトの新婚旅行について意見を求められたら、
みらい さんのこの投稿を読みなさい、と言おうかと思っている。
みらいさんはかつてご主人の赴任でタイに住まわれ、その"駐妻"投稿がとても面白くついつい引き込まれて、すっかり読みふけてしまったのだが、
みらいさんの過去記事を遡るとなんと!
ご自身の新婚旅行先がエジプトだった時のエピソードもご披露されている。
文章を目で追っていくと、あっという間に引き込まれ、あの"喧騒と混沌とハエ"の世界に幽体離脱してしまった。爆笑
みらいさんご夫婦は当時新婚カップルさんだったとはいえ、とうに長い交際期間がありお互いの長所短所もよく理解し、
それぞれうわべを取り繕って、自分のいい所だけよく見せようという関係ではなかった。
そしてお二人とも外国慣れをされていた上、ご主人が沢木耕太郎の『深夜特急』(90年代のバックパッカーのバイブル。古くだと小田実の『何でも見てやろう』)を愛読していた。
それで、エジプトに新婚旅行に行かれた時も、ご夫婦は旅行会社に手配を依頼されず、全くのフリープランで観光された。
案の定(笑)、珍道中になったのだが非常によくあのエジプトの何とも言えない(いろいろな意味での)暑苦しさ& バタ臭さを描写されており、お見事だ。
そしてみらいさんのこの記事を読み、改めて私は確信した。
「やっぱりエジプトは新婚旅行向きじゃない」。
よって、新婚旅行先をエジプトにしたいカップルは、みらいさんのエジプトの投稿を読まれた上で、再度熟考されるといいだろう。
ちなみに私も結婚した時、新婚時代に"新郎"をとエジプト旅行をした。
結論を言えば、大失敗だった。
自分が20代の大半を過ごしたエジプトを、新郎に見てもらいたいなと思ったのだが、
エジプトに到着するやいなや、私のエジプトモードにスィッチが入り、顔が強張り人相が悪くなった上、声も低くなり、新郎の目の前でもタクシー運転手と大喧嘩。
白目をむいて
「アラーがお前を見ている、それでも私から10ポンド(300円)ふんだくるっているのかっ!」
とわめく私を見て新郎は衝撃を受け
「君がそういう人とは知らなかった。考え直したい」。
そんなことを言われれば、普通は泣いてすがるものなのだろうけど、とっさに私の口から出たのは
「インシャアラー」。
新郎氏、ますますドン引き...
このように、エジプトを新婚旅行先に選ぶのは非常に危険なのだった。
おしまい
追記
みらいさんの記事にも触れていましたが、エジプト考古学博物館に行くなら、実はベルリン博物館や大英博物館の方がよほどエジプトの展示物が充実しています。
スエズ運河は流れる
みらいさんは以前、私の記事(エジプトの近代史をざっくり書いてみた連続投稿)をご紹介してくださっており、その紹介文が、(私の)本文より名文であるというオチつきですが、
うまくまとめてくださったので、こちらもよければお読みいただければ!
漫画予告
by けんいちパンダさん
乞うご期待!!