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「レイヤー」と「歴史」の話(建築の話 その4)

これまでは主に建築そのものを捉えるときに、今ある立ち居振る舞いや状態に焦点を当ててきましたが、今回はそこに時間軸が加わります。

「コンセプト」などの観念的なものをデザインの「スタイル」に落とし込み、ヒューマン「スケール」の形を成立させるため「構造」を採用し、全体「構成」を整えながら「ディテール」を検討していく

これだけでもたくさんの要素をインテグレートしていく建築の複雑さが垣間見えますが、この建築の複雑さをより一層加速させるものが時間軸です。あまりにテーマとして重すぎるため、いつも通りいろいろ端折ります。

複雑な系を分けて考えるための「レイヤー」

唐突に「レイヤー=層」の話を出すのは、やや違和感がありますが、歴史の話に繋げるための前段階といえます。建築を要素ごとに分けて考えるとそれらが構成する全体が見えなくなる危険性がありますが(木を見て森を見ず、ディテールを見て構成を見ず)、それでも複雑になりすぎた系を分けて考えることもある点では重要です。なお、複雑な全体の系を分けて考える、ということの危険性については、福岡伸一さんの「世界は分けてもわからない」等を参照。

レイヤーというのはフォトショップやイラレでお絵かきや画像編集をする人からするとお馴染みの概念ですが、たくさんの画像を重ね合わせて1枚の絵をつくる各スライドをレイヤーといいます。版画で言うと色ごとに版を作って、1枚ずつ色を重ねていくのと同じことです。

PC上で建築を設計するときにも、やはりレイヤーの概念は重要で、例えば単純に言うと、柱レイヤー、梁レイヤー、外壁レイヤー、内壁レイヤー、家具レイヤー、照明レイヤー、等様々な図面を重ね合わて、設計を進めていくのが一般的かと思います。特に、BIM(Building Information Modeling=3次元設計ツール)では、各レイヤーの管理が重要になります。

他にも、次回に話をする意思決定の責任範囲を別レイヤーで管理したり、同じ部材でも役割が違えば(例えば柱でも鉛直荷重を負担するものと水平荷重を負担するもの等)別レイヤーで管理したり、一口にレイヤーといっても、その捉える断面で様々な層が見えてきます。

さらに、今は建築の要素として、レイヤーの概念を考えていきましたが、歴史を積み重ねていく建物の改修履歴もあたかも地層のようにレイヤーの概念で捉えることができます。そしてこの時間軸の層の話が、建築は面白いな、と感じる部分でもあります。

新築ではなく時間を積み重ねた建物の持つ奥行きを表す概念としてのレイヤーです。

「京都会館」と「ロームシアター京都」

建築の歴史の積み重ねで面白いと思う建築を2つほど紹介します。

まずは、トップ画面にも挙げた京都会館(現ロームシアター京都)

こちらは、元の設計は日本の近代建築の巨匠である前川國男さんの設計です。中庭を囲み東山を臨む軸線の構成、力強いコンクリートの造形、それでいて手すりや庇のカーブの柔らかない印象、外壁タイルの色合い等、モダニズム建築としての完成度の高いカッコイイ建築でした。

新築から50年が経った頃に施設の老朽化や音楽ホールの性能の低さから建て替えも含めた今後の建築のあり方が議論されましたが、保存活動等の結果、「改修」の道を選ぶことになりました。

改修設計は香山壽夫さんという建築家と山下設計。中庭に面したテラスをガラスで覆い内部化したり、ホールの舞台をオペラができるように高さを高くしたり、1階の通りに面した事務室だった空間を商業空間にし街に賑わいを生んだり、そういった抜本的な改修を行うことは新たなレイヤーを書き足すことだと思います。

一方で、印象的な庇部分は構造的な補強を行い、当時の内装に使われていたディテールをそのまま活かしたり、既存のレイヤーに敬意を払うことも忘れません。

改修が決定した当時は賛否両論でしたが、結果としてまた京都市民に愛される+さらに岡崎地域に来た観光客の憩いの場となる音楽ホールができました。このように、レイヤーを操作しながら、歴史を積み重ねた建築はそこにストーリーが生まれ、奥行きのある空間になるのではないかと思います。

「京都中央電話局」から「新風館」そして「エースホテル」へ

もう一つの事例も京都です、京都人なもので勘弁してください。

こちらは、元々京都の電話局(電話交換機等が置かれていた今で言うと事務センターみたいなところ)で1926年に吉田鉄郎という逓信建築の巨匠が設計した建物で知られます。画像はこちらから拝借しました。

2001年にリチャードロジャースの設計で、中庭と当時の建物を活かした商業施設=新風館へと生まれ変わりました。閉館するまでの間、私が京都で一番好きな建築でした。(下記画像は私撮影です、というかそれまでも基本的には注釈なしは私の撮影です)

説明すると長くなりますが、京都の街中にあって、ぽっかりと中庭空間が空いており、そこに小さいステージが設けられていて週末ごとにイベントが開催されます。それを中庭に面した外廊下から眺める様子は都市の祝祭空間という感じでごちゃごちゃとした(それはそれで好きですが)京都の街並みからすると少し異質な空間だったのです。

その新風館は元々暫定的な活用だったようで2016年に閉館し、今度は2020年にホテルとして生まれ変わります。ホテルの運営は「エースホテル」。本家はアメリカのポートランドというところにありますが、このエースホテルは、歴史ある建物を改修してホテル運営をいくつかやっています。外資系というと鼻につく感じがしますが、地域にうまく溶け込むためのストーリー・コンセプトづくりを行い、満を持して京都に乗り込んでくる、その場所にこの歴史ある建物を選んだあたりにセンスを感じます。(画像はこちらからです)

建築は時として私たちの寿命をはるかに上回る年月、そこに存在することになるため、各時代の歴史をレイヤーを積み重ねるように表情として見せてくれます。私たちはそのレイヤーを読み解くことで、建築が背負ってきた歴史を知ることができ、さらに次の世代へどう引き継いでいくかの材料とすることができます。

最終回は「意思決定」と「評価軸」のはなし。普通の建築ブログではあまり語られない話ですが、私が大事にしたい話であり、このシリーズを終えたあとのブログのテーマに繋げたい話でもあります。

ざれーご

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