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学術誌のOpinionを読む(2)~コロナの影に隠れた他の感染症~

 今回は、4月10日号のScience誌に掲載された、IN DEPTHという欄を紹介します。コロナウィルスのパンデミックを抑えるために、それ以外の感染症の予防接種が中止になっているという内容です。

出典(原文リンク
Science 10 Apr 2020:
Vol. 368, Issue 6487, pp. 116-117
DOI: 10.1126/science.368.6487.116 
Author:Leslie Roberts

 「悪魔の選択」-ここ数週間世界の保健機関が直面しているジレンマを、GAVIアライアンス(ワクチンと予防接種のための世界同盟)事務局長のセス・バークレー博士はこう表現した。彼らは集団予防接種キャンペーンを、推進することも中止を勧告することもできなかった-前者ならうかつにもCOVID-19の蔓延を加速させてしまう恐れがあるし、後者なら他の感染症の急増は避けられない。

 結局のところ彼らは後者を選択し、現在、数多の集団予防接種キャンペーンが多くの国で中止になっている。子供たちにとって、キャンペーンはワクチンを接種する唯一の機会である。中止が決定してから既に、1,350万人の子供たちがポリオやはしか、HPVや黄熱病、コレラ、そして髄膜炎のワクチン接種を逃したとバークレー博士は語っている。「この数字は、今よりももっと増えていくだろう」。この影響は、パンデミックの終息後も長く尾を引くかもしれない。ポリオワクチンの中止に至っては、3世代にもわたって続けられてきた根絶キャンペーンの成功すら脅かしている(もっともその実効性には以前から問題があったが)。

 GPEI(世界ポリオ根絶イニシアティブ)の指導者たちが、各国に対してワクチン接種を今年の下半期まで延期するよう呼びかけたのが、3月24日のことだった。根絶プログラムの柱は、年間4億から4億5000万に及ぶ個別訪問などの巨大なキャンペーンであったが、GPEIを率いるWHOのミシェル・ザフラン氏は「選択の余地はなかった」と語る。予防接種は、対象となる地域にも最前線の医療従事者にも、コロナウィルスへの感染リスクを与えてしまうことになると彼は主張する。しかしながら、ポリオがいまだに蔓延している地域では麻痺症状を呈する子供たちが増え、さらには現在ポリオのない国にまでポリオウイルスが拡散するであろうことも、彼は認めている。

 ポリオ根絶のための努力は、アフガニスタンとパキスタン、そしてアフリカでは既に挫折している-前者では野生型のウィルスが急増しており、後者では生ワクチン自体が制御不能に陥っておりアウトブレイクが起こっている。予防接種の中止について「誰もが心配に思っていた」とザフラン氏は語る。

 しかし結局、GPEI首脳の関心ごとは、予防キャンペーンだけではなく、アフリカにおけるワクチン由来のアウトブレイクに対応した標的型キャンペーンにまで中止を求めるか否かという一点に絞られた。最終的には、「全てを止めるという目的で極めて高いレベルのガイダンスが出た」と、米国CDC(疾病予防管理センター)のレベッカ・マーティン氏は語った(GPEIのポリオ監視委員会は、WHOのテドロス事務総長などパートナーシップ組織の長で構成されている)。プログラムの決定は、2週間おきに再評価される予定である。

 3月26日、WHOの予防接種に関する戦略諮問委員会(SAGE)は、各国に対してVPD(ワクチンで予防可能な病気)に対する予防接種を止めるよう、より広範に呼びかけを行った。SAGEの座長を務めるメキシコ国立自治大学医学部のアレハンドロ・クラビオト教授は、「大規模な予防接種キャンペーンは、社会的隔離の原則に反する」と主張した。

 23カ国が既にはしかの予防接種を取りやめ、その結果7800万人の子供たちがワクチンを打てないだろうと、CDC国際予防接種部で麻疹の専門家であるロブ・リンキンス氏は語っている。16カ国が結論を出していない。リンキンス氏は、悲劇的な結末を予想している。WHOによると、貧しい国でははしかの死亡率は3~6%に及び、栄養失調の子供たちは特にリスクが高い。数字が確定した最後のデータである2018年には、1,000万人がはしかに感染し14万人が死亡しているが、はしかの信じられないほど高い感染力を考えれば、この数字は予防接種の停止に伴って急速に増えうる。

 GPEIとは異なり、SAGEの場合は現在起こっているアウトブレイクを食い止めるための予防接種まで中止勧告を出すには至っていないが、対応が早すぎた場合のリスクと遅すぎた場合のリスクを天秤にかけるべきだと声明を出している。現在のところ、はしかの予防接種はコンゴ民主共和国では継続されている-この国では、世界最大のはしかのアウトブレイクによってこれまでにおよそ6,500人が死亡し(エボラ出血熱のアウトブレイク時よりもはるかに多い)、34万人以上が感染していたのだ。

 WHOやGAVIなどの保健機関は、診療所での子供たちへの日々の予防接種は、パンデミックの間も可能な限り続けるべきだと強調している。しかし、多くの国で保険システムが既に手薄になっており、防護服も不足している。医療従事者がCOVID-19の病棟に回されたりあるいは自身が感染したり亡くなったりした場合、あるいは親が子供たちを診療所に連れていくのを嫌がったりした場合、影響は深刻なものになるだろうと、バークレー博士は恐れている。ワクチンがなくなる可能性もある。飛行機が欠航になったり国境が封鎖されることで、既にワクチンの不足を経験している国もあると彼は語っている。

 重要な保健サービスが他にも中断されるだろうと語るのは、国際医療行動同盟(ALIMA)のオーギュスティン・オーギエ理事だ。ALIMAは毎年、50万人ものアフリカの母親たちに、急性で致命的な可能性のある栄養失調を診断する訓練を行っているが、これらのプログラムは中止されている。パンデミックから派生した連鎖的な結果は、「世界で最も脆弱な人々にとって、より強烈で、より致命的なものになるだろう」とオーギエ理事は語る。

 パンデミックが終息した後に、失われた基盤を取り戻すべく迅速に復活することが、これらのプログラムの課題となる。それまでの間は、各国はVPDの監視を続け、どこで病原体が広まっているのか、どのような子供たちが最もリスクが高いのかを把握すべきだとWHOは指示している。しかしこれも、COVID-19の混乱と恐怖の中では困難だ。

 バークリー博士は、2014-15年のエボラ・アウトブレイク後の西アフリカでの経験に、ささやかな希望を見出している。「過去にないほどの資金と善意が流れ込んできた。エボラが終息し、我々は再びキャンペーンを始め、日々の予防接種を強化したが、もとの接種率に回復しただけでなく、それを超えることができた」と彼は語っている。しかし、エボラ・アウトブレイクのほとんどは3カ国に限られており、3カ国の合計人口は2,500万人未満であった-今回は、世界中が感染している。

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