#143 アメリカの連邦予算(2017/01/25)

トランプ氏が大統領に就任しましたね。いろいろ言われていますが大統領として既に幾つかの法案に署名しています。とはいえ最初にくる大仕事は2月1日に予定されている予算教書の提出になりそうです。ということで、今日のざっくりはアメリカの連邦予算についてです。

アメリカでは大統領といえども法案を議会に上程することはできませんので、予算教書という形で議会に提案をします。(ちなみに日本の内閣は法案を提出できます)

これを受けて議会(上下院)は予算教書をベースにするものの、新たに(上下院別々に)予算方針および歳出案を作成します。

プロセスをざっくり言うと。。。

1. 上下院それぞれの予算委員会で予算編成の大まかな方針(budget resolution)を作成、上下院で可決

2. それぞれの予算方針を上下院で調整

3. 調整案を上下院で審議・可決

4. その方針に沿って上下院それぞれの歳出委員会で各分野ごとに小委員会に分けてで公聴会やマークアップというセッションを経て、農業関連、エネルギー関連、商務・国務・司法関連、国防関連、労働・厚生・教育関連など13の法案(appropriation bills)にわけて予算作成

5. 上下院それぞれ本会議で審議・可決

6. 上下院のそれぞれで可決された法案を上下院で調整

7. 調整案を上下院で審議・可決

8. 大統領に送られ署名

というプロセスになります。とても長いので6ヶ月ほどかかります(日本の場合は2ヶ月程度)。ちなみに現在の予算はまだ可決していないため暫定予算で動いています。この暫定予算さえもその年の10月までに可決されない場合に予算が執行されないため行政機能が停止することが起こります(数年前にもありましたね)。

(上下院で並行して予算案が作成・可決されたあとで上下院間で調整し再度上下院で審議・可決されるんですね。)

(日本の場合は衆議院で可決後、参議院で否決された場合には再度衆議院に戻されて可決すれば成立しますが、アメリカでは予算については上下院両方の可決が必要になります。)

ということで、予算教書の予算と最終的な予算には差があることになります。

議会予算局(CBO)によると、2016年(2015/10-2016/9)の歳入および歳出は

・歳出 3.85兆ドル(431兆円)

・歳入 3.27兆ドル(366兆円)

と5900億ドル程の赤字となっています。

歳出の内訳を見ると

・社会保障   9050億ドル(101兆円,23.5%)

・メディケア  5920億ドル(66兆円,15.4%)

・メディケイド 3680億ドル(41兆円,9.6%)

・国防費    5650億ドル(63兆円,14.7%)

・利息他    2840億ドル(31兆円,7.4%)

・その他    1兆1230億ドル(126兆円,29.2%)

ホワイトハウスの行政管理予算局(OMB)によると2016年の予算教書の歳出規模は3.95兆円だったので、実際には若干削られたことになります。内訳をみると社会保障費が9294億ドル、国防費が6045億ドル、メディケアが5953億ドルなので、それぞれ-3%,-7%,-0.5%と削減されています。

ちなみに社会保障(Socual Security)は高齢者や遺族、障害者に対して給付金を支払う社会保障制度で、いわゆる公的年金です。

メディケアは高齢者と障害者向け公的医療補助(保険と違い対象者はコストの負担が必要ありません。)、一方のメディケイドは低所得者用の医療保険です。ですので被保険者は保険料を支払う必要があります。

一方の歳入は

・個人所得税  1.55兆ドル(47%)

・給与税    1.12兆ドル(34%)

・法人税    3000億ドル(9.2%)

・その他    3060億ドル(9.4%)

となっています。給与税は雇用者(企業など)が社員などに支払う給与に応じて支払う税金です。トランプ大統領は連邦法人税を15%にすると言っていますが、連邦法人税の実効税率が29%程度と言われていますので、法人税による税収が半分ほど、歳入全体の5%弱の減少になる計算になりますね。

日本の予算(歳出)をみてみると

一般会計歳出 96.7兆円

特別会計歳出 201.5兆円

一般会計

・社会保障費     32.0兆円(一般会計の33.1%)

・地方交付税交付金等 15.3兆円(15.8%)

・文教・科学振興   5.4兆円(5.5%)

・防衛費       5.1兆円(5.2%)

・国債費       23.6兆円(24.4%)

特別会計

・国債償還費等    92.2兆円(特別会計の45.7%)

・社会保障給付金   65.8兆円(32.7%)

・地方交付税交付金等 18.4兆円(9.1%)

・その他       25.1兆円(12.5%)

となってます。一般会計と特別会計を合わせると300兆円ほどになりますので、アメリカの連邦予算は日本の1.4倍の規模になります。アメリカの名目GDPは日本のおよそ4倍なので、アメリカの連邦政府は日本に比べるとまだ小さな政府と言えそうです。また、社会保障関連費用が日本はおよそ100兆円、アメリカはざっくり200 兆円レベルなので、人口やGDPを考えると日本の社会保障関連費用はやっぱり大きい感じですね。

予算教書は毎年提出されますが、10年間の予算方針が示されます。オバマ大統領が昨年提出した予算教書の中で提示されている今年の予算案(2016年10月〜2017年9月)の4.15兆ドル。ざっくり460兆円となります。ちょっと増えてますね。

・2017年の連邦予算 ざっくり4.2兆ドル(460兆円)

義務的予算(国債費、社会保障費、公務員の給与など政府に支出が義務付けられている経費)と裁量的予算(政治的配慮によって連邦省庁やプログラムに割り当てられる経費)とに大きく分類され、それぞれ

・義務的予算 2.61兆ドル(290兆円)

・裁量的予算 1.23兆ドル(140兆円)

(この他に金利分ざっくり0.3兆ドル(33兆円))

全体の2/3が義務的予算なんですね。

歳出の内訳を見ると

社会保障      109兆円(23.5%)

国防        69兆円(14.9%)

メディケア     68兆円(14.6%)

健康・福祉     64兆円(13.7%) 

所得保障      60兆円(12.9%)

利息        34兆円(7.3%)

退役軍人      20兆円(4.4%)

教育・雇用他    12兆円(2.6%)

交通        11兆円(2.4%)

司法        7兆円(1.5%)

その他

となっています。

2012年時点でアメリカにはおよそ4800万人ほどの無保険者がいましたが、その多くはメディケイドの対象となるほど所得は低くはないが、個人で保険に加入するほど所得が高くないという人たちでした。オバマケアは、民間保険への加入促進とメディケイドの対象拡大等により無保険者を削減し、皆保険化を目指すものです。

メディケアおよび健康・福祉関連(メディケイド含む)で歳出のおよそ28%をしめることになっているため、歳出の見直しを図りたいトランプ大統領としてはオバマケアの見直しを進めることにしています。さて、どうなることやら。。。

*1ドル112円で換算しています。

★結構付け焼き刃の知識で書いていますので、もし間違いなどあればご指摘下さい。よろしくお願いいたします。

Source:

大和総研 連邦政府の財政の概要

http://www.dir.co.jp/…/…/place/intro-usa/20140605_008612.pdf

NEDOワシントン事務所 米国の予算制定手続について

http://www.nedodcweb.org/report/2002-11-27.html

White House - Office of Management and budget

https://budget2017.whitehouse.gov/…

Congressional Budget office, Monthly Budget Review:Summary for Fiscal Year 2016

https://www.cbo.gov/…/114th-congress-…/reports/52152-mbr.pdf

財務省 平成28年度一般会計予算(平成28年3月29日成立)の概要

http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/condition/002.htm

財務省 特別会計の歳出(28年度予算)

http://www.mof.go.jp/…/top…/special_account/28yosan_kibo.pdf

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