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N先生のこと

前回のつづきです。
(↓前回の記事はこちらです)

N先生とは、わたしが大学を出て教員として最初に赴任した中学校で出会いました。N先生もわたしの赴任と同じ春に別の中学校からの異動して来られました。わたしとN先生は所属学年が違ったので、1年目はそこまで深く関わることはありませんでした。でも、わたしは密かにN先生に憧れの気持ちを持っていました。
4月最初の職員会議、つまりわたしにとっては人生で初めての職員会議の日、そのときのたった一瞬のことだけを覚えています。それがN先生のことです。N先生は淡々と進んでいく職員会議の中で何度か挙手をして、発言をしていました。発言の詳しい内容は覚えていませんが、はっきりと「意見」を述べていたことと、そのしゃんとした背中と、毅然とした話し方だけはしっかりと覚えています。もしかしたらこの時にわたしはN先生に一目惚れしたのかもしれません。異動してきたばかりの学校の職員会議初日で、あんな風に「意見」をするということが、どれだけすごいことだったんだろうと、後々に気づかされ、さらに尊敬の気持ちが増しました。あの先生はすごい。かっこいい。とひよっこながらにそう思いました。

次の年度はN先生と同じ学年に配属されますように。と心の中で思ったり、まわりの先生方にこぼしたりしていました。N先生にはかろうじて言っていなかったと思います。いや、言ってたかな?なんか言ってそうですけど、どうだったかは忘れました。学校の人事は本当にギリギリまで知らされなくて有名かと思うのですが、3月末に、とある先輩の先生から「あなたの願い叶っていたよ。」とにこっとしながら言われました。そこからなんと3年間、わたしはN先生が学年主任を務める学年に所属させてもらえたんです!
わたしの3年間の思い出、というか教員生活での闘いの日々がN先生と共にあったのは間違いありません。

突然ですが、わたしは社会に出てから「なんで?」と思うことがすごく多くて、それで上司に怒られたり、何度も聞いて呆れられたりすることがありました。その疑問は要するに、社会に出ておそらく多くの人が直面する理不尽なことでした。周りの人たちは「そういうもんなんだから」となんとな〜くでお茶を濁せていたけれど、当時のわたしにはそれができず、苦しくて意味が分からなくて、「なんで?」のまま動けずにいました。性格上のことはもちろんですけど、経験が浅すぎたし、考え方の幅も狭かったのもあったと思います。
わたしの「なんで?」にとことん付き合ってくれたのはN先生でした。N先生の丁寧な、誠実な説明に対して、「それでもわからない」とわたしが言っても、根気強く付き合ってくれて、わたしが納得できそうなところまで言葉を尽くしてくれました。そう。N先生って言葉を尽くしてくれる人です。
その言葉の端々から、N先生もこの世界でずっとずっと闘ってきた人なんだなと感じました。N先生も納得はしていない。でも、の部分を今わたしに話してくれているんだなと。わたしは教員生活を4年で終わりにしましたが、N先生は30年以上も教員をしていたのです。それは本当に本当にすごいことだなと思っています。わたしも、やれることなら続けていたかったです。全然無理でしたけど。
3年間、わたしは自分の思ったことや感じたことをN先生にたくさん伝えました。そしてN先生もその考え方を聞かせてくれました。N先生にはなんでも話せるし、尊敬しているし、話しているといつもすごく楽しかったです。ここではエピソードは書きませんが、N先生って天然なんですよ。すごくチャーミングなんです。

生徒たちも、N先生に信頼を寄せていました。わたしは自分の授業の中でよく、N先生の話をしていたのですが、みんなうれしそうに聞いてくれていました。なんか、そういうのいいな〜って思っていました。生徒たちもわたしがN先生のことがだいすきなのは知っていました。それも生徒たちはなんだかうれしそうでした。

わたしが教員を退職した次の年に、N先生も退職されました。定年を待たずの退職でした。かなり意外でした。わたしは「N先生の離任式に行かなくては!!」と思いました。当時はもう大阪に住んでいたのですが、仕事を休んで会いに行きました。サプライズで行ったので、体育館でわたしを発見したN先生はすごくびっくりしていました。「来ちゃいました!」と言ったら「何してんの!」と少し怒られました。N先生の退職にはいろんな事情があったようですが、離任式が終わった後、わたしはN先生に「N先生、わたしがやめちゃって、学校楽しくなくなったから、やめたんですよね?」と聞きました。そしたらN先生は、はははっ!と手を叩いて短く笑った後「うん。そうだよ。」と言いました。わたしは今でもその「うん。そうだよ。」を信じています。

それからもN先生とは数年に1度お会いしたり、わたしがおすすめのドラマや映画をLINEして感想を言い合ったりしています。N先生はその度にいつも喜んでくれて「◯◯さん(←わたしのこと)にすすめてもらう映画やドラマはいつも間違いなしですね。」と言ってくれるので、いつも はりきって送っています。
先日、N先生と2人で会えることになりました。これまで、当時の仲良しの先生もまじえて何人かで会うことはありましたが、2人だけで会うのは7年ぶりくらいだったと思います。一緒に働いていた頃に、よく2人で行っていたカフェがあって、どうしてもそこでN先生と会いたいと思いました。駅からちょっと遠いところにあるカフェなので、「N先生、あのカフェに行きませんか!わたしあそこで先生とおしゃべりしたいです。駅まで電車で行ったら、車で迎えにきていただけますか?」とLINEでお願いしました。そしたらすぐに「もちろん!!」と返ってきました。年上の先輩でこんな風に堂々と、それもかなり図々しくお願いできる人はN先生しかいません。でも、きっと「もちろん!!」って返ってくると思いました。
わたしはN先生のことを、大尊敬する大先輩であると同時に、同志だと思っているし、大親友だとも思っています。(大親友のところ、できればマブって読んでほしい)本当にだいすきな人なのです。

ちなみにその日はカフェに到着してから3時間ひたすらにおしゃべりしました。ここにはとても書けないような昔話や、映画『PERFECT DAYS』の素晴らしさとか、最近のお互いの話なんかをしたり、それから、わたしにとって宝物になるような話をしてもらいました。どんな話かは内緒です。今はまだわたしの心の中でだけの宝物です。
カフェを出て車で駅に送ってもらっている時にひらめいて、N先生に「毎年1回はあのカフェでおしゃべりしましょう!」とお願いしました。わたしとしては、毎週でもおしゃべりしたいくらいなんですけどね。N先生は「わかりました!そうしましょう!でもいいの?こんなおばあちゃんの相手をしてくれてありがとう〜」と笑って言っていました。そういうわけなので、来年も必ずあのカフェにN先生と行こうと思います。

心がぐちゃぐちゃになった日に、「だいすきな人のことを書いてみよう!」と思いついた自分ナイス!って今思います。だいすきな人のことを思い出すのは、なんだか心がほっとします。そして、わたしは素晴らしい出会いをしているんだなあとありがたい気持ちと、誇らしい気持ちにもなります。

N先生にこのnoteの存在は伝えていません。これ書いたの伝えたら、怒られそうだな〜と思っています。でも、もっと書きたいエピソードがあったのを、なんとか我慢したところは評価してほしいとも思っています。


(( おしまい ))



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