ベートーヴェンと調性格論



シンドラーの伝記による記述


C.F.Dシューバルト(Christian Friedrich Daniel Schubart,1739-1791)の調性格論は、19世紀初頭に印刷版が世間に広く流布された。その中で当時の多くの人に知られ、影響を与えることになった。そのうちの1人にルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(Ludwig van Beethoven, 1770-1827)もいた。ベートーヴェンの伝記『私の知るベートーヴェン (Beethoven As I Knew Him)』を著したアントン・シンドラー(Anton Felix Schindler, 1765-1864)によると、シューバルトの『音楽美学の理念(Ideen zu einer Ästhetik der Tonkunst)』をベートーヴェンは所持しており、他の音楽家にも勧めていたという。彼はベートーヴェンの調に対するこだわりを以下のように述べている。

If anyone had dared to play even a little song of his in another key in his presence,the malefactor would soon have regretted his mistake.He was incensed when he heard this or that number from a Mozart opera performed in a key other than its original one.
もし誰かが、意図的に彼の曲を、彼のいる前でほんの数秒でも移調して演奏した場合、その悪人は、すぐにその間違いを後悔することだろう。彼は、モーツァルトのオペラが、オリジナルと別の調で演奏されたのを聞いて激怒していたことがあるのだ。

Anton Felix Schindler, Beethoven As I Knew Him, ed. Donald W. MacAradel, trans. Constance S. Jolly (New York: Norton, 1972), pp. 369、作者訳

また、調性格論については、以下のようにも述べている。

To deny without reason the special character of the different keys was to Beethoven like denying the effect of the sun and the moon on the ebb and flow of the tides,
理由なしに、異なる調における個別的な性格を否定することは、ベートーヴェンにとって、潮の満ち引きに対する太陽と月の影響を否定するようなものだった。

( Schindler, pp. 369、作者訳)


ベートーヴェンはシューバルトの調性格論について概ね賛成はしていたが、そのすべてを受け入れていたわけではない。短調については同意していたが、長調については反対していた。また、声楽曲などについては声域の問題があることから同意せず、シューバルトの調性格論をピアノ曲やピアノトリオにおいてのみ評価していた。

ベートーヴェンのピアノ曲の調性格論についての研究はディミトリ・パパディミトリウ(Dimitri Papadimitriou)による「ベートーヴェンのピアノソナタと選択された楽器のレパートリーの調性格論の探求 An exploration of the key characteristics in Beethoven's Piano Sonatas and selected instrumental repertoire」において網羅されている。


参考文献
Rita Steblin, '‘key Characteristics in the 18th and 19th Centuries: A Historical Approach," (Ph.D. dissertation, University of Illinois at Urbana-Champaign, 1981)

*シンドラーの伝記の信憑性については諸説あるものの、本の所持については虚偽の記載をするメリットが見当たらないため、この部分の記述に関しては真実味のある情報として解釈している。


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