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クラブハウスに魅せられて 5.ホテルオークラ

クラブハウスサンドが好きだ。
トーストされたクリスピーなパンに挟まれた塩気のあるベーコンとチキン、そしてフレッシュなレタスにトマト。
三位一体とはクラブハウスサンドを表現するために産まれた言葉ではないかと思う時すらある。
これは、そんなクラブハウスサンドを食べ歩く記録である。

そもそも私の中でクラブハウスサンドといえば良いホテルで提供されるもの、という勝手なイメージがあった。
そしてこれまで、ニューオータニ、帝国ホテルと日本を代表するホテルのクラブハウスサンドも食べてみた。

こうなると、彼らともに御三家と称される最後の一角についても賞味しないわけにはいかないだろう。
というわけで私は虎ノ門へと向かった。

遠くからでも抜群の存在感を放つ高層建築が、今回の舞台The Okura Tokyoである。

オークラ東京は1962年に開業した日本を代表する高級ホテルの1つである。
設立したのは大倉財閥2代目で戦前には同じく御三家の一角である帝国ホテル会長も務めた大倉喜七郎であり、自らの邸宅があった東京虎ノ門にホテルオークラ東京を開業させている。

さっそくホテルの中へ。

世界の顧客を満足させつつ、日本の美を備えたホテル。それを目指したオークラは2019年に現在の新館へと改築されてもなおその意志を受け継ぎ、洋風ながらも日本の美を感じさせるロビーになっている。
これは開業当時の衣装を再現したものになっているそうだ。

そんなロビーを抜けたところに今回の目的地はある。

オールデーダイニング・オーキッドでは朝食からディナーまで食事を楽しむことができる。

屋根が高く開放感のある店内で、窓際の席に案内されて着席する。
さっそくメニューを拝見。

オークラといえばフレンチトーストも名物であるが、今回のお目当てはそれではない。

クラブハウスサンドイッチ 3,300円。
帝国ホテルのそれとほぼ同等の価格設定である。

コーヒーも注文。
さすがの価格ではあるが、2,000円超えという冗談のような価格だった帝国ホテルと比較すればまだ良心的な価格のような気がしてくる。

窓の外は都心らしい高層ビルである。
帝国ホテルの時同様に、高尚な空間で低俗な内容の電子書籍を読む、という試みを行うことも考えたが、ちょうど読みかけだった真面目な文芸系同人誌を読んで待つことにした。

しばらくすると、先んじてポテト用と思われるケチャップ・マスタード、そしてコーヒーが提供される。

帝国ホテルでは調味料はケチャップだけだったので、現時点ではオークラ一歩リードである。
更にしばらくすると、本日の主役が到着だ。

ショートケーキを思わせるシルエットで姿を現したクラブハウスサンドイッチを早速いただこう。

パンはかなりクリスピーに焼き上げられている。これまでで一番かもしれないサクサク具合だ。
そして一口食べてみると、マスタードの効いたマヨソースがまず舌に届く。個人的にはアリな刺激だ。

オークラのクラブハウスサンドイッチの特徴は卵かもしれない。

薄焼きでシート状になった卵が挟まっている。この手のシート状の卵にありがちな焦げた表面の硬さを感じないので悪くない。

他方、「鶏はどこへ消えた?」と思わされる。
卵と同じエリアに居るには居るのだが、非常に慎ましやかで存在感はあまりない。

そんなチキンの印象を埋めるだけの存在感を放つのがベーコンだ。

このクラブハウスサンドの場合、ベーコンの塩気と旨味が支配的な気がする。

ただ、ちょっとほかのクラブハウスサンドに比べると、BLTが小刻みであるからか、こぼれやすいという難点がある。
ひょっとしたらフォークナイフがセットされたことも鑑みると、ナイフとフォークでお上品にいただくのが本来の嗜み方なのかもしれない。

となると、手づかみでバクバク食べていた私はとんだ不調法者だったのかもしれない。

しかしまぁそもそも、サンドイッチというものはカードゲーム好きのサンドイッチ伯爵・ジョン=モンタギューがゲームをしながら食べられるように開発されたものであるという説が有力である。

伯爵様がそのように召し上がられているわけだから、平民の私が手でいったところで、マナー的に問題はないはずだ。長いものに巻かれておこう。

味のほうに話を戻せば、やはりBLTパートが主張としては強い印象である。
が、そのパート単体でBLTサンドとして食べてしまうとどこか物足りない。
全体の一体感を生む働きをしているのが卵だ、ということに気づかされる。

また、オークラらしさを感じるのは、突き刺すというよりは貫く、という言葉が適切であろうピンである。

よくあるプラスチックのピンではなく、いい和食でたまに見かける竹製の串を使っているのは、「日本らしさ」を重視するオークラならではのこだわりなのかもしれない。

そうなると、ポテトに突き刺してもどことなく征服感にかけるのだが、そもそもそういう用途で付与されていないのは明白なので、それをとやかく言っても仕方ないだろう。

私もそろそろ大人になる時なのかもしれない。

ポテトはいわゆるウェッジカットタイプのもので芋感を感じられるのが良い。
目が覚めるような酸味のピクルスとともに、口直しとして有効活用していきたい。
また、コーヒーもお替り可能なので積極的にお替りをした。

結論として、鶏肉の主張をかなり抑えて、卵との一体技でBLTとの調和を図っているのがオークラのクラブハウスサンドである。
という印象を受けた。

個人的な好みだけを言えばもう少し鶏の主張があってもうれしかったが、それを差し引いても十分に満足な味だった。

余韻に浸っていると、スタッフの方がデザートを勧めてくれた。
手に持ったメニューの1列目にはピーチメルバの名があった。

ピーチメルバって何だろう?と思った。
しかし一番目にあるし、きっとここのイチオシなんだろう。
コーヒーお替りで粘り続けるのも悪いな。

「じゃあこのピーチメルバを。」

こうしてデザートまでセットで堪能した。

桃のコンポートにバニラアイス、そしてベリーのソースがたっぷりとかかったピーチメルバはソースの酸味と添えられた生クリームのコクが印象的で優雅な食事を締めくくるに相応しい味わいであった。

結果、6,000円超えの上級国民ランチになってしまったが、たまにはそういうこともあっていいだろう。

これで御三家のクラブハウスサンドはすべて制覇したことになる。
私のクラブハウスサンド食べ歩き記は優劣をつけることを目的としていないので、順位付けなどをするつもりはない。
それぞれに特徴を感じる味であったので、それを感じられただけで十分だし、私の感じた印象が少しでも伝わっていれば幸いである。

とはいえ、世にはまだまだ未踏のクラブハウスサンドがあるだろう。
今後も探究の旅は、続くかもしれないし続かないかもしれない。



最後までご覧いただきありがとうございました。

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