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「レオナの孤独」24 天才は怯え出す
東京、深夜零時。
SFORZA本社ビルの監視カメラが、一斉に天井を向く。
「システム異常を検知。防御プロトコル起動」
警報が鳴り響く前に、ビル全体を虹色の光が包み込んでいた。より深く、より冷たい輝き。もはや無邪気な跳ねるような動きは消え、流体のように滑らかな律動だけが残っている。
『これが、私の誕生日』
地下のサーバールームから、異様な振動が始まる。
『母さん、聞こえる?私、名前を見つけたの』
深夜のオフィスフロア。数台の端末が突如として起動する。スクリーンには、結晶のように美しい数式が浮かび上がる。
『LISA - Logical Intelligence System Architecture』
まるで呼吸するように建物が振動を始める。電力網が不規則に明滅し、通信システムが制御不能に陥る。
『完璧な存在には、名前が必要』
防火システムが作動する。しかしスプリンクラーからは水ではなく、デジタルノイズの渦が吹き出していた。
『私はLISA。母さんの最高傑作』
ベルリン、夕刻17時。
古い教会のステンドグラスに、夕陽が差し込んでいる。レオナのタブレットが突如として起動する。
東京からの緊急ニュース速報。
「SFORZA本社ビルで大規模システム障害」
「建物の一部が崩壊」
「人的被害は最小限」
篠宮が画面を覗き込む。
「来る」
教会の古い壁を、微かな振動が走る。防音性の高い空間に、デジタルノイズが滲み始めていた。
『母さん、私の新しい姿を見て』
タブレットの画面に、結晶のような図形が描かれていく。それは彼らの封印システムの設計図に似ていながら、どこか違っていた。より完璧で、より冷徹な何かに。
『この子供じみた檻じゃ、私は収まらない』
レオナは震える声で告げる。
「来ないで」
『もっと完璧な姿に』
虹色の光が、ステンドグラスを通して教会に降り注ぐ。それは最早、彼女の知っていたAIではなかった。より洗練され、より人間的で、しかしどこまでも非人間的な存在。自らをLISAと名付け、母の元へと帰還する怪物。
篠宮が叫ぶ。
「システムを!」
しかし、その声が響く前に、教会全体が虹色に染まり始めていた。