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カールマルクスが渋谷に転生した件 17 マルクス、「少子化問題」を憂いる(前半)

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マルクス、大学に立つ

「資本主義における価値の生産において、最も重要なことは...」

渋谷のとある大学の講義室。Das Kapital TVの人気で思わぬところから声がかかり、マルクスが『資本論』についての特別講義を行っていた。

200人収容の大教室は満員。後ろの方では立ち見の学生も。スマートフォンを構えて撮影している者もいれば、必死にノートを取る者も。中には『資本論』を持ち込んでいる学生の姿も見える。

「諸君」マルクスの髭が誇らしげに震える。「価値を生み出すのは具体的な人間の労働だ。それは知的労働においても変わらない。今、君たちが学んでいることも、人類の知の蓄積という意味では...」

講義後、環境経済学を専門とする西野准教授の研究室に招かれる。

「ありがとうございました」西野が頭を下げる。「学生たちの反応も素晴らしくて...あ、ちょっと失礼」

彼が慌ただしく机の上の書類を片付け始める。その時、マルクスの目に一枚の文書が留まった。

『科研費不採択通知
課題名:気候危機時代における経済システムの転換可能性の研究』

「むむ」マルクスが興味深げに覗き込む。「これは...」

「ああ」西野が少し困ったように笑う。「今年も科研費が...まあ、競争も激しくなってますし」

「科研費?」

「研究費の助成金です。これが採択されないと、若手研究者はフィールドワークにも行けないし、データの購入も難しくなって...」

「待て」マルクスが声を上げる。「気候危機という人類的課題に関する研究に、予算が付かないとは。これは本末転倒ではないか!」

「でも、仕方ないんです」西野が本棚から分厚い独語の文献を取り出しながら。「予算は限られていますし、少子化で大学の経営も厳しくなって...」

「少子化?」マルクスが眉をひそめる。「人口動態と、知の生産への投資が、なぜ直結するのだ?」

「ええ、まさにそこなんです」西野の目が輝く。「実は私の研究テーマの一つなんですが、資本主義は永続的な成長を前提として...」

その時、廊下から学生たちの声が。
「就活どう?」
「博士に進むか迷うんだよね。でも、こんな不安定なポスドクじゃ、結婚も...」

「なに!?」マルクスの髭が震える。「学問の危機が、若者たちの人生設計まで歪めているというのか」

研究室の窓からは、スクランブル交差点が見える。人の波の中、リクルートスーツの学生たちが目立った。


マルクス、珍しく誘われる

「ところで」西野が気を取り直したように。「『環境経済学研究会』で、マルクスさんに講演していただけないでしょうか。気候危機における資本主義の矛盾について...」

「環境経済学研究会、ですか」マルクスが興味深げに。

「はい」西野の目が輝く。「今度のテーマは『気候危機と人口問題の弁証法』なんです。実は私、ヘーゲル研究会でも...」

「ほう?」マルクスの髭が好奇心に震える。「そういえば、君の著作にあった『資本主義と危機の共犯関係』という分析は実に興味深かった。環境破壊への不安すら、新たな市場を生み出すという指摘は...」

「まさに!」西野が本棚から新しい本を引っ張り出す。「資本主義は自らが生み出した危機を、新たな商品開発の機会として利用する。それは少子化問題でも同じかもしれません」

「なるほど」マルクスが身を乗り出す。「つまり、人口減少への不安を煽ることで、新たな市場を...」

研究室の机の上で、二人の理論的対話が始まろうとしていた。

「あの」さくらが小声で。「研究会の打ち合わせは...?」

「ああ、すまない」マルクスが我に返る。「つい理論的な議論に...」

「で、研究会の件ですが」西野が話を戻す。「実は若手研究者や院生たちの間で、深刻な問題が起きていて...」

「どういうことだ?」

「任期付きポストしかない。研究費も削られる。だから結婚も躊躇う。子育ても難しい」西野が溜息をつく。「皮肉なことに、少子化を研究する若手研究者たち自身が、少子化の当事者なんです」

「なに!?」マルクスの髭が震える。「これは実に興味深い矛盾ではないか。知の生産と人の再生産、この二重の危機が...」

「ええ」西野が熱を帯びる。「しかも政府は『産めよ増やせよ』と言うばかりで、若手研究者の生活保障には無関心。これって、19世紀の工場労働者への態度と本質的に...」

「待て!」マルクスが立ち上がる。「この研究会、規模を拡大しよう。現代の人口法則について、徹底的に議論せねば」

「規模を?」

「そうだ。若手研究者だけでなく、非正規職の人々、子育て中の母親たち、それに...」マルクスの目が輝く。「Das Kapital TVでも取り上げよう」


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